オレと【俺】
そして、現在に至る。
と、まぁオレの過去話はこんなもんだ。
過去の話をしているうちに大分時間が経ってしまった。
本当は休憩の暇つぶし程度に話すつもりだったのに、もう沖縄を出ている。
あともう少しでフィリピンだ。
『相棒〜、いくつか質問よろしいでしょうか?』
その少し間延びした声を出した奴は【俺】。
あ、寝てなかったんだ。思ったより長かったのに。
てか質問?なに?
『ずっと前の日記に「最初の1、2週間は楽しかった。」って書いてあったけど、今の話を聞く限りじゃ、あんま楽しくなさそうじゃん。』
あの時は「楽しい」って感じるしかなかったから、そう書いたんだよ。それより、人の日記勝手に読んでんじゃねぇよ。
『読んでませ〜ん。記憶にあるだけですぅ〜。』
…こいつがちゃんと目の前に居たら、今この瞬間殴っている自信がある。言ってしまえばウザい。
ん?「いくつか」って事はまだなにかあるのか?
『こっちは真剣な質問なんだけど。』
さっきのは、真剣じゃなかったってことか。いや、分かってたことだけど。
『本当に"あの日"の前日の記憶が無いの?』
……無いね。翔太と学校行って、信号待ちしてたことは覚えてる。そして、その信号が青に変わったことも。
ただ、それからの記憶が全く無い。
なにか、大事なことを忘れているのだろうか?
そんな風に思えるのはオレの杞憂だろうか?
『………そっか。無い…か。』
意味ありげな言葉を発しながら、【俺】はオレの言葉を反すうした。
「どした?お前はなにか知ってるのか?」
『いんや〜、何も知らね〜。』
先程まで嫌に真面目だったのに、急におちゃらけた雰囲気を醸し出した。
…そんなわけが無いのに。【俺】はオレと記憶が共有されている。それはつまり、オレに無い記憶について、何か知ってるはずなのだ。
知らなくても、「オレにその記憶が無い」という記憶を共有しているのだから、聞かなくても分かるはずだ。
このことから分かる事は、オレと【俺】の記憶は共有していないかもしれない。
それと、オレに無い記憶について何か知っているかもしれない、という事だ。
まぁ【俺】がオレに話さない事は無理に知ろうとは思わない。
…オレってこんなに気が回るのに、なんで友達出来なかったんだろう?不思議だ…。
さぁ、そろそろ日本を出て第1の国。フィリピンだ。
『なぁ、そもそもフィリピンの観光名所ってなに?』
ちょっと待ってろ。
フィリピン、観光名所、検索っと。
出た出た。えっと…なになに?
オスロブ、というやつらしい。
『オスロブ?なにそれ?美味しいの?』
美味しくねぇわ。ジンベエザメウォッチングだってよ。
『へえ〜、美味しそ…じゃなかった。面白そうだな。』
どう間違えたら、そんな間違え方するのか分からないけれど、面白そうだろ?
『でも、それって係員の人?みたいなのがいないと、出来なくね?そこらへんちゃんと考えてる?』
…………………考えて…………無いよね!
『はぁ〜。』
【俺】がわざとらしく深いため息をついた。
ほ、ほら他にも色んなのがあるから!
『例えば?』
機嫌が著しく落ちた【俺】は、耳だけ傾けた(これは比喩であって人格しか無い【俺】は、耳も無いのだが)。
マニラ大聖堂とか。4500本ものパイプを持つ、アジア最大のオルガンがあるらしい。
『ほう?』
機嫌が戻ったみたいだ。
オレの弟くらい簡単な性格してるな、こいつ。
んじゃ、まあ、フィリピンに着いた後の行き先はマニラ大聖堂って事で。




