雨、涙
オレの周りに雨が降っている。
オレの周りだけに。
「お兄ちゃん、今楽しい?」
「翔太か?帰ってきてたのか?」
いつの間に…。
「いいから答えて。今、楽しい?」
「楽しいよ。」
……そう、楽しい。楽しいのだ。
「ホント?ホントにホント?」
「本当に本当だよ。なんでそんな事聞くんだ?」
分からない。弟がオレに何を伝えたいのか分からない。
「なんでって…お兄ちゃんが最近笑ってないから、かな?」
笑ってない?オレが?一人を楽しんでいるのに?独りを愉しんでいるのに?
そんな訳がない。望んでいたのだ。独りを。
「笑ってないのは、楽しくないわけじゃなくて、ただやる事が無くて暇なだけだよ。」
言っている事が矛盾している事くらい馬鹿なオレでも気付いた。
だが、それでも楽しくないなんて認めるわけにはいかないんだ。
認めてしまったら?認めてしまったら、オレのこの1週間は何だったんだ?空虚になってしまうではないか。
虚しくなんてない。オレはこんな世界になる前も独りだった。今と別段変ってない。
「ウソ。お兄ちゃん、ウソはダメだぞ〜。」
「嘘じゃねぇよ。楽しい。サイコーだ。」
口に出して言ってみると、それはとても嘘に聞こえて。
いとも簡単に弟にさえ気付かれる。
「だったらさ。」
翔太は少し真剣な表情を浮かべた。
…あぁ、こいつこんな表情も出来るんだな。
場違いな感想が頭の中に渦巻く。
「なんで?なんでお兄ちゃんは泣いてるの?」
……………泣い、てる?オレが?
頬に手を当ててみる。
濡れていた。なぜ?
雨だ。そう、雨なのだ。そういう事にしておこう。
だってそうじゃないか。今は充実してるのにオレが泣く理由なんてないじゃないか。
「雨なんかじゃないよ。泣いてるんだ。」
違う。違う、ちがう、チガウ。
オレは泣いてなんかいない。オレは泣いてない。
「昔っからお兄ちゃんは、そういうとこあるよね。自分の悪いところを認めないところ。僕が悪いところを認めなかったらお兄ちゃんは怒るのにね。ズルいよ。」
拗ねた時の声がした。
今はそんな話はしていない。
「お兄ちゃんさ〜、そろそろ認めなよ。お兄ちゃんは今泣いてる。それはジジツなんだよ。」
それは、よくオレが翔太を怒る時に使う口調だった。何故だろう?その言葉はオレの頭にスッと入り込んだ。そして納得した。
そっか、オレは今泣いてるんだ。そう思った。思えた。
でもなぜ?何が悲しくて泣いてる?今は楽しい筈なのに?
それがオレにはさっぱり分からない。
「それくらいは自分で気付かないとダメだからね!僕はゼッタイ教えてやんないからね!」
オレが泣いてる「答」を翔太は知っている口ぶりだった。
あ〜あ。オレより弟の方が先に大人になっちゃったなぁ。そんな事を思うとますます涙が止まらなくなった。
でもそれは先程の涙とは違って。
弟が大人になってる事を嬉しく想う涙で。
茶化すような声が聞こえる。
「ほら!またお兄ちゃん泣いてる〜。」
「馬鹿。泣いてねぇわ。」
オレはそう言って笑った。
久し振りに。
「じゃあそろそろいかなくちゃ。」
「行く?行くって何処に?」
その質問の返答はなく、翔太は後ろを向いて歩き出す。
待って、行かないでくれ!
オレを独りにしないでくれ!
がむしゃらに追いかけてもその距離は縮まらず、むしろ広がる一方だった。
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いつもの天井だ。オレの部屋の。ベッドで仰向けになった時に見る風景。
慌てて外に飛び出した。靴も履かずに裸足で。
人は一人もおらず、さっきのは夢だったのだとぼんやり思う。夢にしてはハッキリ覚えてるなぁ、とか、人と話したのは久し振りだったなぁ、とかどうでもいい事を考えつつ。
夢の時に言っていた「答」とやらが分かった。
翔太を追いかけた時に気付いた。
…もっとも最初から気付いていたのに気付かないふりをしていたのかもしれないが。
つまり、この街は楽しくなんかない。
オレは独りが嫌だったんだ。
独りが寂しかったんだ。
…人が恋しかったんだ。
夢で、しかも弟に気づかされるなんて駄目なお兄ちゃんで悪いな。本当。
どうもですです。くらげです。
過去編がなが〜い!まだ続きます(笑)




