突っ込みが仕事しない
鳥の暴走がちょっと楽しくなってきた。
好き勝手書いてますが、楽しんでいただけたら幸いです。
ちょっと追加。鳥に名前がつきました!
その日ジンは非常に上機嫌だった。
自分の体調はすこぶるいいし、昨日の朝の不機嫌さから夜までには帰ってしまっていると思っていた鳥も何故かまだ家に居る。
帰ると床一面羽毛まみれでちょっと困ったが、羽毛にまみれてうとうとしていた鳥が可愛かったのでよしとした。
今朝なんていってきますと言ったら、行ってらっしゃいとでも言うように鳴いて見送ってくれた。
ものすごく癒される。これがアニマルテラピーってやつか。
癒し効果を受けて、もはやずっと居ればいいのにとさえジンは思っていた。
「機嫌いいな。」
ジンが畑仕事にせいを出していると先輩であるルーカスが文庫本片手にこちらへ向かってきた。
交代の時間にはまだ早いがどうしたのか。
疑問に思っているのが伝わったのかルーカスは文庫本をで口元を隠しながら、「ここは静で読書に最適だからな」といった。
なるほど、確かにこんな僻地にやってくるものはそういないだろうと納得する。
そうして黙ったルーカスにジンは上機嫌の理由を尋ねられていることを知る。
僻地だからか、そもそもそういう気質なのかルーカスは言葉が少ない。まえに一度あった夜勤担当はわりと騒がしいタイプであったから気質なのかもしれない。
でも実は色々考えてるんじゃないかとジンは思っている。日々妄想を糧にしているものの勘だ。
「鳥を拾ったんです。怪我してたので、案外元気でしたが。そいつが可愛くて。」
昨日の羽毛まみれの鳥を思い出しジンは微笑んだ。
うれしそうにしちゃってまあ、とルーカスは新人の意外に子供っぽい様子に本で隠した口元を吊り上げた。
ルーカスにも覚えがあった。
巣から落ちた雛が怪我をしていたのでつれてかえって治療したのだ。
しかし。
「それ、あんまベタベタ触んないように気をつけろよ。」
「え。」
「人の匂いが付くと仲間の鳥が巣から追い出したりすんだ。」
俺は一度それで失敗した、と締めくくった。
ルーカスが育てた雛鳥は健康に成長こそしたが、最後まで飛ぶのが下手だった。
ソレばっかりは教えようが無いので仕方ないが。
「・・・もう手遅れっぽいか。」
自分の話を聞いたジンは先ほどの笑顔を一転させて難しい顔をしている。
鳥の種類にもよると、いちおうフォローしてみたがだめなようだ。
余計なことを言ったかと少しばかり申し訳なくなる。
たぶん既に雛鳥を返すことに失敗してしまったのだろう。
「なんなら飼い方レクチャーするか。」
「御願いします!」
キッと顔を上げたジンの表情は使命感に燃えている。
しかしルーカスは知らない。
ジンの拾った鳥は姿こそ鳥だが立派な魔族。しかも一人でほっといても自給自足できるレベルで大人であるということを。知っていれば「返してきなさい」とでもいったかもしれない、主に上司が。
ルーカスは自分に被害の無い災いは割りと楽しめるタイプであったのできっと煽っておわりだ。
そしてジンもルーカスの言う拾った鳥が雛鳥であるということに気が付かない。
気が付いていれば魔物の青年があそこまで困ることも無かっただろうが、それこそルーカスには知る由もないことだ。
かくして、若干的外れな鳥の飼い方講座が始まった。
寮への道をジンは俯いて歩いていく。
匂いがついたら群れに帰れないというならはじめから自分がしたことはアウトだったのだろう。
ソレなのに帰れなどと言って。
群れについていきなり周りから拒絶される気分はどんなものだったのだろう。
いくら賢いとはいえ、匂いが付いてるからなんておもわないだろうから、いきなり追い出されてびっくりしたんじゃないだろうか。
だからあんなに枕ぐちゃぐちゃになるまで暴れたのかもしれない。
ペンギンとか皆で集まって行動するし、そういう種類の鳥だったら落ち着かなかっただろうな。
俺のせいなんだからなんとかしたいと思うが鳥がまだ部屋にいる保障もない。
でも、もしあの鳥がまだ部屋に居たら。
他に行く場所が無くてどうしたらいいか分からないとき、俺を頼ってきてくれたっていうなら。
「絶対、幸せにするからな。」
力強くうなずくジンは、もしかすると自分がこの世界に来たときを思い出しているのかも知れなかった。
さて、そんなこと全く知らない鳥の青年は只今のほほんとテーブルを占領していた。
ひんやりとした感触が気に入ったらしい。
「ただいま!」
ばんっと扉を開いて帰ってきたのは部屋の主であるジンだ。
朝は朗らかに出かけていったはずなのに今はあせったような表情をしていた。
何事かと思わず立ち上がる。
「良かった、いた。」
青年を発見すると一瞬表情を和らげたがすぐにまた険しい表情にもどる。
つかつかと歩いてきてテーブルの端に手を突いてしゃがんだ。ちょうど青年に跪くような感じだ。
なにかあったのかと心配になる。
もちろん少しばかり追い出される可能性についても考えている。
「うちの子にならないか!」
言っている意味が分からない。
青年の疑問をしってか知らずかジンは言い直す。
「一緒に住もう!」
「!?」
悪化した台詞に青年は思わず飛び上がりそうになる。
訳すなら、いきなり何を!?だ。
「お前、俺のせいで帰れなかったんだろう。」
ソレはそうだが、そんな急に。
居座ると決めたもののまだ追い出される不安が残っていた青年にとったらジンの言葉は予想外だった。
というか帰れなくなるの分かってやってたわけではなかったのか。
「もちろんいやなら無理にとは言わない。俺にそんな権利はない。でも俺はお前が居てくれると嬉しい。ほんの短いあいだだったが、一緒にいれて楽しかった。このままずっとこうしていれたらと思った。」
「・・・・」
またからかわれてるんだと思いながらも、熱心な言葉に青年は自身の体温が上がって行くのを自覚する。
だが、ここに来てから自分がしたことは羽毛を巻き散らかしたことぐらいだったはずなのになんでそんな風に思えるのか。
ジンは決して青年から目を離さない。
「お前が居ると凄く癒される、見ているだけで幸せな気分になるんだ。ここは窮屈かも知れないが、お前がここを帰ってくる場所だとおもってくれるなら。俺に出来ることはなんでもする」
「・・・・」
青年はジンから目をそらしたくなった。語るジンの目は真剣で嘘を言っているようには見えない。
もはやなんといっていいかも分からない。
体温はどんどん上がっているし、そのせいか頭が沸騰したみたいにくらくらした。
「大切にする。いや、大切にさせてほしい。だから、一緒に暮らそう?」
青年はそんな風に言われたのは初めてだった。
青年に近づいてくる人間はいつだって青年の魔力や、あわよくば契約を狙っていたし、青年の意思よりそちらを優先させていた。最悪の場合青年の人格など無視するものすら居た。そのあたりで自分の見た目は一部の人間に酷く受けがいいのだと知った。
それらが面倒になりなんどか姿を見せず人間に魔力を貸すこともあったが、ことがすんでしまえば少しでも早く去ってほしいという態度をとられることも良くあった。
だというのにこの男は!
青年は喉が詰まったように上手く声を出すことが出来ず、必死でコクコクと首を縦に振った。
この男が自分になんでもしてくれるというなら自分もこの男には出来る限りの事をしよう、そう思った。
下手をすればみっともなく泣いてしまいそうだった。
だからそんな姿をさらさずに済む鳥の姿であった事にすこしほっとしていた。
そう青年は紛うこと無き鳥である。
ここまでにジンの台詞、相手は鳥なので完全な独り言だ。帰ってくるまでに一人にしてしまった鳥に対する気持ちが凄い勢いで盛り上がった結果、今に至っている。
ジンとしては自分のせいで群れに帰れなくなった鳥を立派にそだてる!ぐらいの気持ちである。
しかし帰れなくて困るのは雛鳥ぐらいで、青年がたとえただの鳥でもジンの庇護は必要なかっただろう。
鳥が魔族であることをジンが知っていれば。
あるいは青年がガチにとりだと思われてると自覚があれば。
さらにはルーカスがジンの拾った鳥を雛鳥だと思っていなければ。
まあ全ては今更どうにもならない話である。
そしてそんな鳥にとっては感動シーンにジンは困っていた。
鳥はうなずいてくれたが、果たして鳥のジェスチャーというものは人間と同じだろうか。
分からなかったのでとりあえずジンは鳥の頭を撫でてみた。
噛み付いてこない。平気そうだ。
次におもいきって膝に乗せてみた。
鳥はおとなしく身を任せている。これは同意ってことでいいのかなと察したジンは、再度鳥をテーブルにおいた。
二日も同じ空間で生活しておいて名乗るのをすっかり忘れていた。
「俺はジン、これからよろしく」
「ぎい」
「で、お前の名前なんだけど。」
「ぎぎぎ」
鳥には名前がある。普通に生きているなら固有名詞があって当然である。
しかしジンはソレを知らない。
ジンはここに来てジンと呼ばれるようになってから考えていたことがあった。
「ルカ、・・・いやルークでどうだ?俺の名前だったが、もうそう呼ぶ人間はいないから。」
自分の使っていた名前なんてある意味お下がりなわけだが、ここでは一度も呼ばれていないし。
何よりソレはジンが唯一こちらの世界に持ってきた自分自身のものだった。
それ以外はまったく別物になってしまった。
まあ結果として性別も体格も明らかにもとよりハイスペックになってるけどな。
未練とかは全くない。
ちなみにルークはルカの英語読みがそうだったと記憶していた。
流石にルカじゃ女の子っぽ過ぎるという配慮だ。
「ぎぎぎ」
「気に入ったか?」
「ぎぃぃ!」
「これからよろしくな、ルーク」
「ぎぎぎ。」
鳥が返事をすると実内に温かい風が吹いた。
窓は開けっぱなしなので風ぐらいいつも吹いているが何か違う気がした。
通りすぎるというよりは自分の中に吹き込んでくるような感じだ。
不思議に思いはしたが、何故か撫でても噛み付かない鳥のもふもふを優先することにした。




