翌日のこと
うっかりで五回ぐらい消して必死に書き直してたらなんだか違う感じになった。
鳥、はじめは敬語キャラだったんだけどなあ。
「ぎぎぎぎぎぎぎ」
ジンは朝から耳障りな音で目を覚ました。
「ぎっぎっぎぎぎぃ」
断続的に聞こえてくる音は、金属同士をこすり合わせたような引っかいたような音にも似ている。
耳障りなそれから逃れようとジンは抱きかかえていた枕に顔をうずめた。
「ぎいいいいいいいい!!」
「なんだ!?」
耳元でひときわ大きく鳴り出した音に驚いてあわてて飛び起きる。
いったいなんの音だったのかきょろきょろと部屋の中を見回す。
すると抱きかかえていた枕が視界に入った。おや、ならば俺がもっているこのふかふかはなんだろうと視線を落とせば腕の中には昨日の鳥がぐったりしていた。
しかしぐったりしながらもジンを睨み上げ今にも噛み付かんばかりにカチカチと嘴を鳴らしている。
ジンはあわてて鳥を本来の枕の上に移動させる。
「・・・・・」
「・・・・・・」
鳥は完璧に怒っている。力いっぱい抱きしめたんだから苦しかったのだろうと推測し申し訳ない気持ちで鳥を見下ろす。
鳥は威嚇するようにぶわりと毛を広げている。
もふもふの羽毛が三割増しでもふもふ!抱きしめたい、でも今手を伸ばしたら流石に噛まれそうだ。
「ぎぃ!!」
ジンの動きに危険を感じたのか鳥は鋭く鳴いてジンに思いっきり体当たりしてきた。
そのままぎゅんぎゅんと勢いをつけて攻撃してくる鳥に追い立てられ、少々早いが仕事に向かうことにした。
外から寮の部屋を見ると鳥が窓からこちらをみていた。
なんだか見送られてるみたいだと嬉しくなる。
身体はきのうのだるさが嘘のように快調だ。
「これがアニマルテラピーってやつか。」
はっとしたように呟かれた台詞。意味合いこそ違うが現在のジンの快調は鳥のおかげであったので、あながち間違ってもいなかった。
窓からジンを見下ろしていた鳥、もとい魔族の青年はいまだくすぶり続ける怒りを枕にぶつけていた。
枕を標的にしているものの彼は別に枕にされたことを怒っているわけではなかった。
昨晩なにかされたわけでもない。彼はついさっきジンの発した寝言に怒っていた。
昨晩、青年は解毒のためにジンに近づいた。
いまだに生きているので、たいした毒ではないだろうと思っていたが見れば今にも死にそうなレベルだった。
あわてて解毒して腕の傷を消毒してとしていると結構な時間になっている。
彼はその間ずっと何でこれで生きていられたのかと不思議で仕方なかった。
余談であるがジンが生きて居られたのは青年の魔力が微量ながらも流れ込んでいたおかげである。
少し考えれば分かりそうなことであったが、すっかり失念していた青年はやはり何かの罠なのではとしつこく疑っていた。
解毒も済んだし鳥に戻る前にどこか隠れる場所を探そうと離れていく青年は突然腕をつかまれ驚いた。
いつから起きていたのだろうジンががっしりと腕を掴んでいる。
「もう遅いから、とまっていけ。」
そういって青年をベッドに引っ張り込んだ。ジンはおきてなどおらずただ寝ぼけていた。
そして青年の背中に生えた翼に顔をうずめ幸せそうな寝息を立てるジン。
性的な意味で引っ張り込まれたのなら全力で抵抗するがその様子からはそんな気配は露ほども無い。
青年にとって寝室やベッドは限りなくプライベートな空間だ。最も無防備な姿をさらす場所なのだから信頼していないものは入れないだろう。
ならば乱暴ではあったが招き入れられた自分はそれなりに信用されたということだろうか。先ほどはさっさと帰らせようとしたのにか?
もしや私が解毒をするかどうかで、信用に値するかどうかを試していたのだろうか。
だとしたらなんて無茶をする男だろう。
わたしがそのまま帰ったら死んでいたかも知れないのに、試すために自分の命を危険にさらすなんて。
いや、だからこそ男はこうして無防備に寝こけていられるのか。
青年は結構思い込みの激しいタイプだった。
ジンに対してひどく好意的な見解を己の中で示し、それなら今すぐ追い出されることはないだろうと隠れ場所探し明日に延期して自分も寝ることにした。
翌朝、翼を抱きしめていたジンは青年が鳥の姿になると標的を翼から全身に変え鳥をぎゅうぎゅう抱きしめた。
多少苦しくはあるが、魔物なので死ぬほどでもない。
魔力も満月のおかげで少し戻ったので魔力が流れ込んでくることもないし、少しぐらい我慢してやろうと青年はジンの行動を黙認した。
あまりにも最近過ぎる昨日という日
同じように見過ごして酷い目にあったことを青年は学習していないらしい。
「ぎぎっ」
背中の羽毛感が気にくわなかったのかジンはくるりと鳥の身体を反転させ腹に顔をうずめてきた。
どういった構造か不明だが鳥の羽毛は素肌と同じ扱いだ。
素肌の腹におもいっきり頬を摺り寄せられる、さらにジンは寝ぼけたまま呟いた。
「ふかふか~」
「もふもふ~」
「むにむに~」
と。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
彼は叫んだ、思い出し怒りである。
青年は怒りに対して非常に燃費の悪い精神構造をしているらしい。
ちなみにこの叫び、通訳するとこうである。
むにむにってどういうことだああああぁぁぁぁ!!
「ぎいぎぎぎぎぎぎ!!!」
私のお腹が柔らかいとでも言いたいのか!
「ぎぎぎぎぎぎ!ぎいいいいいい!」
無駄な贅肉が付いてるとでもいうのかーーーー!!
空を自在に飛ぶために骨まで軽量化されている種族に「太った」を匂わせる言葉は完全なるNGワードだ。
骨が軽量化されているということはそうじゃない種族と比べ打撃に弱いということだ。
ゆえに空を飛べなくなるというのは死活問題である。
「ぎいいいいいいいーーー!!」
自分がムキムキだからてええええーーー!!
青年の怒りは枕がずたずたになり部屋一面羽毛まみれになるまで続いた。
青年の名誉のためにいっておくと青年は太ってなどいない。
鳥の皮膚感が柔らかいのは青年にはどうしようもないことである。
昼のうちに出て行こうと思ったが止めだ。
元に戻れるまで居座ってやる!!
あの筋肉がどうやって出来ているか探ってやる!!
意気込んでいる青年だが、筋肉は脂肪より重い。
なのでムキムキになると多分飛べなくなるのだが、怒りにわれを忘れている青年には分かるはずも無いことだった。




