考えすぎると誤解が生まれる。
なんだか予想以上にながくなった。
鳥がおもっていたよりツンツンしててびっくりだ。もっとデレデレにする予定だったのに。
会話とか流れで、前の話と矛盾があったらすいません。ちょっと読み直してきます。
すっかり日がくれて開け放たれた窓からは冷たい夜風が部屋にながれこんでくる。
今夜は満月、魔性のものの魔力が最も高まる夜である。
窓辺には一人の青年が立っていた。
月明かりに照らされて白に近い灰色の髪がきらきら光を反射する。
全体に細身だがよくみれば筋肉質であることがわかる。
褐色の肌に明る緑色の瞳。どこか神秘的なたたずまいの青年の背中には大きな翼が生えていた。
翼は髪の色に近い淡い灰色だ。折りたたまれてはいるが重そうである。
「本当に、寝てしまったのか。」
男に問いかけるも反応は無い。
魔力がほとんどからになってるとはいえ、背中を向けたまま眠るとはどれだけ無防備なんだ。
それとも何かされても私なんてどうとでもなると思っているのか。
たしかにその通りなのかもしれないが。
青年は自身の前髪を手で軽く押さえるように撫で、息を吐く。
さっきまではなんだかんだで構ってきた癖に、鳥から元の姿に戻ったとたん見向きもされない。
それどころか全開にされた窓はさっさと出て行けとでも言いたげだ。
確かに今は月の魔力を借りないと元の姿に戻ることも出来ないし、必然的に昼間は鳥の姿だが。
さっきの構いっぷりを見るに鳥の姿に不満があるわけではなさそうだ。
・・・・・・ということは、つまり。
たどり着いた答えに青年は口をへの字にゆがめる。
「私の何が不満だというんだ!」
叫ぶような口調ではあったがしっかりボリュームの落とされた声はだれの耳にも届かなかった。
そもそもこの男は何が目的なんだ。
魔力を制限する忌々しい呪のせいですっかり鳥と同じ姿になっていた私を追いかけてきた怪しい男。
魔力が野鳥と同じレベルまで落ちた私を、抜けた羽一枚で探し当てるなんてよほど繊細な魔力のコントロールが必要だ。
体格のいいものは魔力に頼らずとも生きていけるためかコントロールを疎かにしがちだ。
なのにコイツはそれをやってのけている。
最初に見たとき私はこの男が怖かった、正直な話今も少しこの男の得体の知れなさは怖い。
男の纏う魔力は抑えられていて敵か味方か種族の判別がつかない。
そのうえ普通に話しかけてくるということは私が魔族だと気づいているということだ、知っていておびえるでもなく近づいてくるなんてなにをされるのかわからない。だから毒の爪をたて攻撃し、弱っているときを狙うなんて卑しいやつめと罵倒もした。
ずいぶん無茶苦茶な行動だといまなら思う、本調子ならともかく鳥と同等の力しかないこのときにそんなことをしても相打ちにもならない。そんな判断すらつかないほど弱っていたということだが。
しかし、だ。かかったものの魔力を外へ放出し弱らせる呪と、目的のわからない男が掴みかかってくる状況。
おちつけと言われた気もするが、そんな状態で落ち着いてなどいられるものか!
私が暴れるのは、むしろ正当防衛の範疇であったといえよう。
そんな状態の私に魔力を使う必要はないと判断したのか、男は腕力のみで押さえつけてきた。
自分より明らかに体格のいい男に仰向けにひっくり返されて驚きで一瞬頭が真っ白になったが、そうだ今は鳥の姿なのだからなにかされるはずもないと思い直す。
押さえつけられ見あげた顔は私を安心させようとしているのか、ほっとしたような小さな笑みが浮かべられていた。
私がおとなしくしていると男は何かを引きちぎるような仕草を繰り返す。男がソレをするたび呪の力が弱まっていくのを感じた。
昔、呪や魔力の流れを見ることの出来る目を持ったものが居ると聞いたことがある。
男はきっとその目をもっているのだろう。
失われた魔力はおおきい。鳥の姿から完全に戻るにはまだ数日かかるだろうが、それだけだ。
何の後遺症も残さず男はいともたやすく呪をといて見せた。この男はそんなことまで出来るのかと驚く。
それはありがたかったが、男の私への触れ方はまるっきり鳥にするのと同じで噛み付いてやりたくなった。
そういえば門のところに人間の気配がしていたことをおもいだし面倒だが男の好きにさせてやる。
ソレがいけなかったのだろう。
いくら私の魔力が尋常ではないほど低くなっていて弱っていたからといって!
こともあろうにこの男は私を己の服の中に押し込んだのだ!!
確かに直接肌を触れ合わせたほうが魔力の行き来はさせやすいし、私は魔力がほとんど空だったのだからそうしておけばなにもせずとも供給することが出来る。
空の身体に男の魔力が流れこんでくる感覚を思い出し私はぶるりと身体を震わせた。
呪がなくなった今、時間はかかるが空気中から摂取し休めばそのうち回復するというのに。
男の魔力が流れ込んでくるということは少なからず私の魔力も流れ込んだということだ。もちろん与えられた量の方が多いのでそれで苦しくなることはない。
しかしそんなことはよほど子が幼い親子か契約者同士ぐらいでしかしない!!
頬が熱い、きっと今私の顔は真っ赤になっていることだろう。
もちろん男に対する怒りでだ。せめて同意を取るべきだ。魔力の交換なんてそんな事ほとんど契約が成立しかかってるではないか。
ちらりと男を見る。時折呼吸が荒くなるがかたくなに背中を向けている。
ふん、まあいい。魔力を交換しただけでは契約は成立しないのだから。もう二度と会わなければいいだけの話だ。
能力の有る人間の中には魔物や魔族と契約を結んだり、使役したりするものがいる。
使役は一時のことだが契約はお互いが死ぬまで続く、そして一度誰かと契約したものは決して他のものと契約することは出来ない。だからこそお互いの同意が必要だが、最近では精神を蝕み弱らせ無理に契約の儀を行うものが出てきている。
理由はいろいろある。
双方受け入れる気が無ければ魔力はいくら注いだところで相手の魔力にはじかれてしまう。
だから弱らせて魔力をぎりぎりまで落とし邪魔をする魔力をなくしてから強制的にそそぐのだ。
そうすればいやでも魔力は交換される。拒否する方法は肌に直接触れないようにするしかない。
今回のように緊急処置として行うこともあるが、たいていは既に他の誰かと契約していて交換したところで問題にならないものが行う。
あの忌々しい呪をよこした男の目的も契約することにあったのだろう。
しかし本来契約とはそういうものではない。
お互いが認め合い初めて成り立つものだ。お互いの魔力の相性、性格、そういったものを考慮に入れて結ばれる。
そして契約を結んだもの同士は種族に関係なくパートナーとして長い時間をともにすごす。
そこまで相性のいいものと出会えるのはとても幸福なことだし、だからこそ契約を結べるものは少ないのだ。
それこそいくら好きあったもの同士が契約しようとしても魔力の相性が悪ければ契約はむすべないなんてことはざらにある。
それについてエルフが研究していたようだが、種族や属性、年齢すら関係なく全くのランダムであるらしい。
空を飛べる種族は圧倒的に数が少ない、多種と交配しても飛べるものはほとんど生まれないからだ。
エルフや空気の精霊は飛ぶというより浮かんでいるという感覚に近い。
なかでも私の種は単独飛行ではドラゴンにも負けないスピードをもっている、空中ではほぼ無敵だ。
だからこそ私はそういう手合いに付きまとわれることが多い。
空では無敵とはいえ、生きていくにはどうしたって地上におりなくてはならない。
結果忌々しい呪をかけられた。魔力の届かない高みまで行けば自然と解けるが、鳥の姿ではソレもかなわず私はふらふらと逃げ回るはめになった。
思い出しただけで腹立たしい。
地べたを這う生き物の分際で私に呪を放つとはいい度胸だ。
魔力がもどったら覚えていろ、末代までといわず貴様の代でその血筋たやしてくれる。
部屋に着いたときには契約の話が出るだろうと警戒していたが男はそのことには一切触れなかった。
本当に単なる人命救助だったようだ。だからといって勝手を許したわけでもないが。
男は私の足を治療し包帯でちょこんとリボン結びを作った。人事だと思っておもいっきり遊んでいる。
睨みつければ「似合ってる」なんてふざけたことを言いながら本物の鳥にするようにあちこち撫で回してくる。
時々私に話しかけ、返事をすると嬉しそうにするくせにそれ以上はもとめてこない。
頭や背中はいいが、お腹や嘴を触られるのがいやで抵抗しても楽しそうな顔をされるだけだ。
からかわれていると分かって、面倒になり途中から本当の鳥のように振舞っても見たがそれすら楽しそうだった。
打算も無くただ優しくされる、そんな風にされるのは幼少期以来だ。私は優秀で早くに家を出てしまったからその期間だって本当に短かったようにおもう。
それから自分より優秀だと思えるものにあったことが無かったので、こんな風に本当に雛鳥のようにされるのは懐かしいというよりは恥ずかしい気持ちのほうが強い。
しばらくそうして、そろそろ夜になるというところで男は手を離した。
そうして窓を開け放ち帰るように促された。その口ぶりはまるっきり子ども扱いである。
男は見ていない事を示すかのようにベッドに入り背をむける。
元の姿に戻った私を見ないというのは、その後探す気は無いと示す男なりの配慮なのかもしれない。
だからさっさと帰れということか。
「後悔すればいい。」
しつこく付き纏われるのはもちろん不快だがここまで徹底的に存在を拒否されるのも悔しいものがある。
捨て台詞をいってから、そういえば命を助けられたことを思い出す。
流石に助けられてその台詞が最後なのはいただけない。
「危ないところを助けていただきありがとうございました。この借りはいずれ返します。」
聞こえているかは分からないが出来るだけ気持ちを込めてみる。
さて、夜が明けて鳥に戻る前にさっさと行かなくては。
窓枠に足をかけた。
「・・・っつ」
「え」
男からうめき声が聞こえた。
というかやはり本気で寝ていたのか、お礼のしがいの無い男だ。
むっとしつつも寝返りを打った男の顔を見れば顔色あきらかに悪い。
ひどく汗をかいているし、肌の色は通常ではありえない色になっている。毒が回った証拠である。
確かに爪は立てた、私の爪には毒がある、だからある意味男は普通の反応をしているわけだ。
ただし数時間まえであれば。
これだけ時間がたっているなら通常の反応ならもはや冷たくなっていないとおかしいのだが。
というかなぜ今になって?
てっきり毒にたいせいが有るのだと。
毒を作り出せる種は毒に強いものが多い私の種がそうだ、己の魔力で中和することができる。しかし人間は何度か毒を受けると慣れると聞いたがそういうわけではなかったのだろうか。
それが無かったとしても男は呪をいともたやすく解いていた。ならば解毒なんて余程たやすいはずだ。
時間はいくらでも有ったし、例え解毒のすべが無かったとしても私の毒なのだから私に一言言えばそれですんだはずだ。
撫でて遊んでいる場合じゃなかっただろう。
まさか極端に鈍くて毒に気がつかないなんてこと・・・流石にそれはないだろう。
ではなんだ。
なんで今頃になって苦しみだす。
もしや罠だろうか。
なかなか帰ろうとしない私をからかっているのかもしれない。
確かにそろそろ飛び立たなくては帰り着く前に鳥に戻ってしまう可能性がある。
いやでもソレだと逆効果だろう。
むしろ帰らせる気がない、ということか。
男は私と契約する気はなさそうだった、ならばここにとどめる理由は他のものに引き渡すため。
最悪、この男が呪を放ったものと通じている可能性もなくはない。
すべてが演技ということもありうる。
しかし演技ではないばあいどうだろう。私は命を助けてくれたものをみすみす自分の毒で死なせたことになる。
じっと見つめても男からは苦しげな息使いが聞こえるだけだ。
疑えばきりが無い。
それに今帰らなければまた鳥になる。そうしたら魔力が戻るか次の満月までどこかに身を潜めていなくてはいけない。
見つかれば理不尽に契約を迫られるか、もう一度呪をかけられるか。
ろくなことにならないのは目に見えている。
男から契約の話はされていない。
この男は私を選んでくれてはいない。
助けたところで明日のことはわからないし、なにより演技である可能性が非常に高い。
なのに選べというのか、私に。
「・・・・」
苦しいのかもがくように空をかいた男の腕がぱたりとベッドから落ちる。
その掌には私の羽が一枚握られている。
私を探した時にもっていたものだ。
多分演技。そうじゃなくとも罠。
しかしこのまま飛び立ったところですっかり割り切れる気がしない。
もしもこの男の演技にだまされただけにしても呪はきえている。
後は回復をまつだけなのだからなんとでもなるだろう。
「・・・・馬鹿か、私は。」
結局のところさっさと帰らずに迷った時点で選択肢なんて無かったのだろう。




