↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僻地の門番の話。  作者: 多喜
17/22

どんなに可愛くても魔物は魔物・後

ルーク可愛い可愛いばっかり言ってる主人公ですが、ルークは魔族なので普通に怖いことも平気でするし、けっこう欲求の赴くままに生きてるよって話。後半少し変更しました。

ヒュっと短い音で風の刃が傭兵の足を裂いた。


「グッ」


短くうめいたが傭兵はその場を退こうとはしなかった。

自分が退ければ部下たちの士気がさがる。相手もそれが狙いなのだろう。鋭い風の刃は先程から自分にしか向けられていない。



当兵はちらりと後ろを見る。周りには部下たちが一人の男を取り囲むように守っている。


「今その男を渡せば、愚かにも私に攻撃したことは見逃してやろう。退け。」


「何が目的だ!」


「お前に話す必要はない。」


魔族が軽く手をかざせば大きな風の刃が剣を構える腕を切り裂いた。

ぱっくりと割れた肉は足の傷よりも深いようで、ドクドク脈打つたび血が失われていくのがわかる。


「止血を。」



部下青い顔で近づいてくるのを遮る。隊列を乱せば魔族はまっさきに自分たちが取り囲むように守っている男を攻撃するだろう。それではここまで頑張った意味がない。


自分たちが守っているのは魔術師だ。傭兵の思いすごしでなければ、貴族とつながりのあるなかなかに優秀な魔術師だったはずだ。それを魔族が狙う理由など魔力をもたない自分には検討もつかない。

しかしここで殺させる訳にはいかない。


「お前たちごとでも私は一向に構わないぞ。」


にやりと笑を浮かべた魔物が放った攻撃は自分たちの隊の両脇の地面を深々と抉りとった。

先程からの攻撃はかなり手加減戯れていたのだろうとわかる一撃に部下がひるむのがわかる。

確かにこんな攻撃では、時分たちが前に立っていたところでなんの関係もない。


「何故そこまでこだわる!」


「話す気はないと言っているだろう。最も、お前に分からずともその男には覚えがあるだろうが。」


「・・・・た、助けてくれ。頼まれただけなんだ!俺にはどうしようもなかったんだ」


魔術師が泣きそうな声で訴えるが魔族はくっと顎をあげ目を細めて魔術師を見下ろす。

ぎらりと光を帯びたその瞳は獲物に狙いを定める肉食獣と同じだ。逃がす気はない、暗にそう言っている。


魔術師を守っている傭兵たちの数は15人、本来ならばもっと集めることは可能だが魔族の仕業か街の中で鳥達が暴れてけが人まで出ているためあちこちに人が分散されてしまっている。さらにずっとこの土地に住んでいた人間ぐらいにしかわからないような入り組んだ路地であることも助けをが遅れている要因になっていた。

が、対する魔族はたった一匹。


しかし相手が悪かった。

その魔族は風を操り、自在に空を飛ぶことができる。

飛行速度はドラゴンをも越え、空中に居る時に捕まえることは不可能。

捕獲の困難さや、その容姿から王室や貴族の間では欲しがるものも数多くいるとのことだ。


地面に影を落とす広げられた大きな翼、空中で優雅に揺れる服の裾、凛としてよく通る声。

バサリと羽を動かせば薄い灰色の羽が舞い落ちる。羽ばたきでふわりと送られる風は春の花の香り。

確かに美しいと評されるのもうなずける、だが顔色一つ変えずに攻撃してくる様子は所詮魔物だ。


「・・・・。」



いや、ルークだよなあれ。ルークじゃんあれ。ルークでしかないじゃん。

この香りって明らかに俺が買ってきたシャンプーだし。


クラウン指揮官につれられたジン達は副官からの連絡で早々に戻ってきていた。

クラウンは事を大きくしないために新人たちには自分が買った酒を運ぶように命じたが、ジン、ウィル、ロキの三人はこっそり先に戻ったのだ。

クラウンより先に到着するあたり、二人の土地勘とウィルの魔族見たさは伊達じゃないようだ。

そして魔族とやらを確認してジンは慌てて近くの路地に隠れた。

とっさの判断だったが今は少し後悔している。すっかり出て行くタイミングを失ってしまった。


ちなみにここにいる傭兵は知らないがクラウンにはきちんと男が狙われている理由が報告されている。

ジンは話を全て聞くことができなかったが、「呪」という言葉が出てきたのでルークが鳥になった一件だと想像がついた。さらにそういったことはきちんと人の法律で罰則が決まっているらしいので男がこの後、法によって裁かれるだろうことが予想するにたやすい。


「魔族!人の言葉を話す魔族とかエルフ以外で初めて見た!」


「大声出すな、見つかったらどうするんだ!」


「記念に羽を貰う!」


「ただのお前の願望じゃねえか!」


「・・・・」


騒がしい二人をよそにジンは一人、宙に浮かぶルークを眺めていた。


ルーク

なんでこんなローアングルなのに中見えないんだろう。


まず何よりもそこを気にするあたりジンの脳内は今日も平和だ。


ってかどんだけガード固いんだよ。

別にパンチラとかは狙ってない、俺から見えるってことは他の奴にも見えるってことだし、そんなことになったらあの傷だらけのおっさんが一番いいポジションだからそこまでは狙わない。

なにか悔しいから。でも少しぐらい、せめて膝から下ぐらい見えてもいいと思うんだ。

ああ、いっそ全然見えなければ諦めも付くのに!

いつもは長い服ですっぽり隠れてる可愛い足が見え隠れするからつい見てしまう。


「ジン・・・どうかした?」


「魔族見るのは初めてか?」


「いや、なんでもない。」


ジンはあわてて首を振った。

うっかり揺れる裾に見とれてましたとか変態だ。たとえ心は変態でも見た目は紳士で居なくては。



「安心しろ、殺しはしない。ただもう二度と魔術が使えぬように喉を潰し腕の健を断ち、せっかくだから足の健も断ってしまって、思いつく限りの苦痛を味あわせた後その血筋をお前の代で絶やしてしまおうと思っているだけだ。」



それは途中できっと死ぬ。ジンは心の中で突っ込んだ。


昨日言ってた外せない用事ってこれのことか、ルーク。

ちょっと目を放したら他の男追いかけてるなんて俺はショックだぞ、どう見ても色気の有る話ではなさそうだけど。


それにしてもルークの口調はこっちが素だろう。

普段の敬語が標準だとしたら高圧的な台詞がすらすら出すぎだし、なにより敬語時々違和感あったし。

ルークが俺のまえでは敬語を貫こうと言うなら止めはしないが時々こういう口調も新鮮でいいな。

しかしずいぶん大きな猫をかぶっていたんだな。ストレスたまってそれが今のノリに至ってるとかじゃないよな。・・・ないよな。



「それともいっそ去勢でもすれば少しはおとなしくなるか。」


考え込むように顎に手を当てるルークに、守っていた傭兵も狙われていた男もびくっと動きを止める。

さすがにこっちにいる二人も顔をしかめている。


っていうか自分にも同じものが付いてるのにそれ本気で検討しちゃうのか。


言いながらも休まることなく風の攻撃は続いている。防戦一方の傭兵達はいたるところに傷が出来、ぽたぽたと血が伝い落ちているが、攻撃しているルークに躊躇いは一切見られない。

ただ見ているだけのロキとウィルでさえ顔をしかめる攻撃の激しさだ。


しかしジンは一人ルークの淡々とした攻撃に引く様子もなくただ眺めていた。


本当は引くところなのかも知れない、あの可愛くて健気でやさしくて可愛いいルークがこんなことするなんて何かの間違いだとか思うべきかもしれない。


でもさ、ルーク。結構その要素見え隠れしてたからな。

主に鳥の時の攻撃性の高さは凄く身にしみている。

ちなみに可愛いが二回あるのはわざとだ、大事なことは繰り返す。だって繰り返しは学習の基本だから。


しかしそろそろ止めないとスプラッタな展開になりそうだ。目の前で人間解体ショーとかそんな展開ホラー映画で十分だ!


「二人とも、俺があの魔物引きつけておくから怪我した人たち逃がしてくれ。」


ジンは二人に告げてそっと路地を抜け出した。

このまま行ったら法でさばかれる前にぜったい男もろとも小隊が破壊されると二人もひしひしと感じていたので頷いてくれた。


少し離れた場所でルークに呼びかける。これだけ距離があれば二人には会話は聞こえないはずだ。

その間に二人が傭兵をどこかに連れていくのを視界の端で確認しながら何事もなかったかのようにルークに話しかける。


「いつからそこに?」


そわそわと裾やら髪やら翼やらを直しながらルークが近づいてくる。

念入りに服をチェックしているのはもしや返り血をチェックしているのだろうか。

さっきから居たわけだが、ルークが何事も無かったように敬語なのでジンは笑顔で「今来たとこだ。」といっておいた。

ルークのほっとした様子に、もしや俺の前では攻撃しないのでは、と逃げ遅れた魔術師をみやる。

ルークを鳥にしたりはもちろん腹立たしい、反省の色が無ければ加勢したいぐらいだ。

しかし腰を抜かし傷だらけで涙を流しながら命乞いをする様子を見るに、二度と下手なことはしないんじゃないかと思える。


というか攻撃を止めたってのにさっきより怯え方が悪化している。

うわごとのように助けてくれと呟く様子は少し怖い。


まあソレもそのはずだ。ジンは助けに来たつもりでも男にとっては魔族と知り合いの大男。

あげく流れるようにその仲間が傭兵を撤収させほの暗い路地に魔族と大男と自分の三人だけが残されるなど怯えて当然だ。


「この男がどうかしたのか?」


「いえ、大したことでは。」


ジンの出現にルークはふにゃりと表情を崩す。

ジンが来て嬉しいとでかでかと顔に書いてあるような笑み、さっきのツンを見ていても可愛いものは可愛い。

とりあえずスプラッタは回避出来たかな。


「特に用事がないなら買い物でもいかないか。」


「あ、えっと」


「なにかあるのか?」


「はい、ちょっと。あ、でも少し待ってって頂ければすぐに済みますから」


そう言ってルークはどこからか大きな刃物を取り出した。

見た目は中国の四角い麺切り包丁に似ているが刃先の鋭利さはその比ではない。何でも切れそうである。



スプラッタ回避でできてねええええ!

いやむしろ悪化した、さっき殺さないって言ったよなルーク!?

その刃物を使った時点でどこ切っても死ぬよ!?


「何をする気だ?」


「大丈夫です、すぐ済ませます。」


ルークはいつもと同じ笑顔。

そらもうジンの膝の上で好きな果物食べてる時と同じ笑顔、つまり凄く嬉しそうな笑み。


百歩譲ってそれがやらなくてはいけないことだったとして嬉しそうなのはなんでだ!

魔術師逃げて!超逃げて!!ああだめだ腰ぬかしてるんだった。


「命だけは」


がたがた震えながら命乞いする男。


「誰が意見して良いと言った。」


ガツンと重そうな刃が地面にめり込む。

なにか骨まで綺麗にきれそう。

っていうかどうしようルークの攻撃意欲が揺ぎ無い


「ルーク。」


「申し訳ありません、こんなことで時間をとらせてしまって。さっさと済ませて買い物に行きましょう!」


買い物が楽しみなのかそわそわしている様子は、まるでデート前のような華やかさだ。しかし手に持った刃物が鈍い光で存在を主張している。


「買い物はいつでも出来るし、そんなに急がなくてもいいと思うぞ。」


だから少し考え直さないか。

とりあえずその物騒な得物はしまおうか。


「でもこんなことでジンを待たせる訳には。」


「待つ、ルークのしたいことならいくらでも待つから、少し落ち着け。」


「でもやはりあまり時間をかけるわけには。」


時間をかけてさっき言っていたことを実行するつもりだろうか。

おかしいな刃物があってもなくても男が生き残る可能性が見出せない。


「なにか他のことじゃ駄目なのか。」


「ほかの事。」


とりあえず時間を稼ぎつつジンは脳内でいくつかの選択肢を浮べては消した。


さてなんとか止めなくてはいけないが、どうする俺!

正直自分が出ていったらそっちに気を取られて男のことなんてほっとくとおもっていたので特になんの考えもなく出てきたことをジンは少し後悔した。


しかしルークは何か思いついたようだった。くるりと男に向き直る顔は険しい。


「風呂は広いか?」


ジンはルークの唐突な質問に首を傾げるが聞かれた男は必死でコクコクうなずいた。

まるで答えないと殺されるとでも思っているようだ、実際そう思っているんだろうが。


「分かった、ならば今すぐ荷物をまとめてこの街から出て行け。二度と私の前に現れなければ、今回のことは見逃してやろう。」


ルークの台詞に男は這うように逃げていった。

腰は、まだ駄目らしい。


そしてくるりとジンに向き直るとそれはとてもとてもいい笑顔で言ってのけた。


「お風呂、広ければ一緒に入っていいんですよね!」


そんなに俺とはいりたかったのか可愛いやつめと思わないでもないが、これ何気に家脅迫して奪ってるよな。しかも男が逃げたので男を裁くことも出来ない。まあソレに関しては男は十分過ぎるほど恐怖とか苦痛を心身ともに味わっているはずなのでなんともいえないが。


「ああ。」


うなずけば何かを期待するような目でこちらを見ているルーク、もしかしなくともハグ待ちか。

ここは家じゃないのでそういうことをするのはちょっとどうかと思う。だれが通りかかってもおかしくない場所だし。

しかし今までの被害から周りには生き物の気配が無い。


その時点でさっさと家に帰っておけばよかったのだろうが、ジンはほぼ習慣的にルークを抱きしめた。





クラウンがようやく路地にたどり着く頃にはそこからは何の音もしなかった。

こりゃ逃げられたか。

クラウンは顔をしかめる。おいてきたはずの新人が街の警備に当たっていた傭兵達を運んできて、まだ一人残っているのだとせかす。

大人数で着ては移動速度が遅くなるためクラウンは案内された道を一人駆けてきたわけだ。


最悪、死体が二つ転がっている予想をクラウンはしていた。

しかし路地を曲がると想像とは全く違う光景があおこにはあった。でかい男が魔族と抱き合っている。

しかも片方と目が合った。いたたまれない。


目が合ったほうはあいてがクラウンだと気が付くと抱きしめていた腕に力を込める。

ソレは愛情表現ではなく音を聞こえないようにするためだろう。


「知り合い、だよな。」


クラウンは小声で問う。

ジンはうなずくことで返事を返す。

不味いことをしていると自覚があるのかジンの顔は真っ青だが、腕の中の魔族をこちらに引き渡す気は無いらしい。


なにか事情がありそうだ。


『後で俺のところに来い。』


魔族が身じろいだのでクラウンは今度は声に出さず口の動きだけでそう伝えた。

ジンはまたひとつうなずくと腕の中の魔族をひょいと抱え上げあげて駆けていった。


面倒なことになりそうだなとクラウンはひとりごちて地面や建物を直すために応援をよんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。