どんなに可愛くても魔物は魔物・前
書きたいシーンを詰め込んだら妙にながくなった。次の話に続きます。
ルークが元に戻ってからの生活は、鳥の姿の頃と変わらないものも有るが変わったものもいくつかあった。
いってらっしゃいと、お帰りなさいの挨拶は変わらない。
というかハグしている時間は日に日に延びている。
それから食事は部屋で取るようになった。食堂に連れて行くわけには行かないし、連れて行ったところでなんと説明したらいいのか分からないからだ。
しかし膝の上に抱えるという位置関係は変わらない。
一番最初の食事のとき、ジンとて迷ったのだ。
常識的に考えてソレはどうかと。
しかしルークは当たり前のように座ろうとしてきたので、ジンはありがたく膝の上に居てもらっている。
ルークは翼があるため膝の上に横向きに座る。
さらにいつもの癖でルークに食べさせれば、お返しとばかりにルークがジンに肉を刺したフォークを差し出す。
そういうものだと思ってるんだろうな。
そう思い躊躇うことなくジンが食べるとルークはその様子をじっと見ている。
咀嚼して飲み込み、喉仏が動く様子までじっくりと見つめられ居心地の悪さに「何だ?」と聞けばルークは慌てて視線を逸らした。
血が上る音が聞こえそうなほどの勢いでルークの頬が朱に染まる。
あんなに見ておきながら、見られるのがいやなのかジンの肩口に顔をうずめる。
「なにか、自分ですると凄く恥ずかしいです。」
ううっと妙なうめき声をあげる。
「無理にしなくてもいいぞ。」
ジンだって鳥だと思っていたからやっていただけだ。そもそも腕が使えるなら自分で食べたほうが早いに決まっているのだし。慰めるように頭を撫でる。
「大丈夫です!慣れます!ちゃんと出来ます!」
力いっぱい宣言するルーク。
だから他の人にはされないでくださいね、と小声で付け足す様子にジンは鼻血噴き出そうになった。
しかしたとえ今後恋人が出来たとしても、こんな食事の取り方はしないだろうなとジンは自信を持っていえる。
翌日から夕食はルークが作るようになった。朝は相変わらず果物三昧だが。
一番変わったことといえば風呂だろうか。
まず大浴場に行かなくなった。理由は食堂と同じ。そして個々で入浴するようになった。
ルークは嫌がっていなかったし、ジンもルークが嫌がらない限り全身くまなく洗ってあげたいところだったが、物理的に無理だった。
部屋に付いている風呂場はそこそこの広さがあったが、ジンは大きい。それだけなら気合とかで何とかする所存のジンであったがルークには翼がある。
単純にスペースは二人分だ。
ジンは自らの煩悩のためにがんばった。凄くがんばったが駄目だった。
そしてなぜかジンよりルークのほうがショックを受けていた。
余程未練があるようで今でも風呂に入る前などは「どうしても駄目ですか?」と服を引っ張られる。
「狭いから。」といえばしょんぼりとして風呂に向かう。
どんな頼みだって聞いてあげたいし、一緒にお風呂とかこちらから御願いしたいぐらいだが無理なものは無理である。
そういえばルーク鳥バージョンもお風呂は好きだったな。
この様子からすると余程楽しみにしていたに違いない。なんとかしてやりたいところだが。
まあ髪をさらさらになるように丁寧に乾かしてる頃には気持ちよさそうにうとうとしているのでそこまで深く考える必要も無いのかもしれない。
そしてジンが門番、という名目で畑仕事やら素振りやらをしているときに買い物や掃除をしているらしい。
ちなみに買い物に行くときは翼は魔力で隠している。
しかし見えなくなるだけで消えるわけじゃないのでジンは時々距離感を間違えてぶつかるため、部屋では翼は基本出しっぱなしにしてある。
そんな生活を続けて数日。
なんかもうルークは俺の嫁ってことでいいか。
ちらりと隣を見ればルークはジンに寄りかかるようにしてくっつきながら裁縫の真っ最中だ。
ジンが見ているのにも気がつかないのだからかなりの集中力だ。
ジンは自分に寄りかかって一生懸命ボタンを付けようとしているルークからシャツを取り上げる。
シャツ・・・・いやこれはもう布って呼んだほうがいいな。
白い布。ボタンをつけるだけなのにどうしてこうなった。ハサミがあればともかく、針と糸だけで分解するとか化学反応が起きているとしか思えない。
「どうせ駄目なら練習させてください。」
きりっと言ってのけるルークは自覚があるらしい。
苦手なことにも果敢に挑んでいく姿は男らしいよ、実に男らしい。
だから俺のシャツに未練ありげな視線送るのやめて今日はもう寝なさい。
すっぱり諦めるのも男らしさだと思うんだ、俺は。
促せばルークは素直にベッドに入る。
「明日はいつもと違うんですよね。」
「ああ、帰り何時になるか分からんから、先に夕飯食べてていいぞ。」
明日は指導員と新人で近隣の街に挨拶に行くらしい。
目的は顔見せだ。傭兵のフリをして悪い事をするアホの子が出没しているらしいので、そういうのを防止するためだ。
それと結界の外には魔物が出やすいのでその調査も兼ねている。
「最近遅くて悪いな。」
「私も明日ははずせない用事があるので、気にしないでください。」
暗闇だというのに笑顔がまぶしい。
俺の嫁とかおこがましい事言った。
天使だったな、うん、ルークマジ天使。
ぎゅうっと抱きしめればルークは腕の中でもそもそ動いて寝やすい位置に移動する。
心音を聞くのが好きなのか胸にぴったりくっついてくるのはいいが、正直それ凄く寝苦しくないか?
寝返りの一つも満足にうてなそうな狭い空間に居るルークの床擦れの心配をしつつジンは眠りについた。
翌朝、燦燦と輝く太陽の光を反射させてアイドル写真集の一ページでも飾れそうな美少年が振り返った。
「魔物居るかな!」
嬉しそうに物騒な言葉を吐く幼馴染にロキはため息しか出てこない。
柔らかそうな蜂蜜色の髪を持ったまだ少年と呼んでしまってもいいような風貌の男。
彼はロキと共にジンの隣に越してきた人物で名前はウィル。
「ジンもなんとかいってやれ。」
「角の生えた兎の食事シーン以外ならなんでもいい。」
「あれは確かにグロイな。」
只今挨拶まわりの真っ最中、先頭集団から少し離れたところにジン達は居た。先頭集団も含めて30名ほどの結構な大所帯だ。
ジンの仕事場である門はクロイツという都市のはずれである。
しかし今はその僻地の門を超えて結界の外に居た。
この世界の大地は五つに呼び分けられている。
その土地にはさまざまな文化が発達しており人間が多いところがあれば魔族が多いところもある。
東はアンダイン、西はシルウェス、南はサラマンデル、北はグノム、そして中央のクロイツだ。
クロイツはもともと都市の名前ではなく地名であった。
他の土地にしたってそうだ。
力のある一族というのはだいたい決まってくるため、いつのまにかその土地を守護する一族が住んでいる、最も栄えている都市をその地名で呼ぶようになったのだ。
なのでクロイツと呼ばれる土地の中にはさまざまな村や町が点在している。
本日はその挨拶回りだ。
「今日中に帰れるのか。」
ジンの一番の不安はそこである。
「なにごともなきゃ平気だろ。」
「中央で何事か起きたらもっと早く帰れるよ!」
バチコーンと星でも飛ばせそうな勢いで片目をつぶってみせるウィル。
動きが大げさで胡散臭い、先ほどから美少年が台無しだ。
確かに何かあれば指揮官であるクラウンは帰らなければならないのでその時点で調査は終了だ。
しかし本来守るべき立場の人間の台詞ではない。
彼は魔物にあう確立を上げたいがために傭兵になったつわものだ。
煩悩のベクトルは違うがリアルBLを求めて入ってきたジンとは本質的なところで似ている。
「って言ってる間に野生のスライム発見!」
「どこいくきだ!」
「・・・・」
あの二人なかいいな。幼馴染とか言ってたし。ああでも俺の中でロキは受け。つまりウィルが攻めか。
破天荒攻め?さすがにロキが可哀想か、彼には幸せになってもらいたいからもうすこし落ち着いた攻めをあてがいたい。いやしかし幼馴染という大切な要素を捨てるわけにはいかない、しばらく二人にしてみるか。
「ジン置いていくな手伝え!」
志望動機が本能に忠実なためか本質的なところで二人はよく似ている。
主に自分の欲求最優先なあたりが。
「おーいお前ら遅れんなよー。」
ちなみに本日の引率は指揮官のクラウンである。
初日はセコンドも勤め、今日はツアコンを勤める彼。みためはただのおっさんであるがこれでも偉い人なのである。
今はこんなことをしているが、本来はみんなの憧れ的な立ち位置である。
下手な騎士より発言力があったりする彼は本日のツアコンも権力を行使してごり押しでかってでている。
「はい、あそこに見えるのはクロイツ内で一番酒が旨い街。職人気質が多いから刺激しないようにきりきり通り過ぎろよー」
「はーい」
「了解」
「おう。」
「・・・・。」
「右手に見えるのは兎の群れ。ヤツラは雑食だから大切なものはしまっとけ」
「へー」
「てっきり肉食だとおもっていた。」
「だよねボクも。」
クラウン指揮官の案内のもと、その辺に生えてる植物や動物について聞きながら移動。
さらに街や村に着けばその場所の特色を説明される。
ぞろぞろ歩き回るいい年した男達を見て畑仕事をしていたおばちゃんが顔を上げた。
「もうそんな季節なのね」
「今年もクラウン指揮官は元気ねえ。」
毎年のように来ているらしい。
「なあジン、気付いてるか。」
ロキは表情を引き締め前を見たままジンに話しかけてくる。
「言うな。」
ジンも目線は正面に向けたまま小声で短く答えた。
「これ調査っつか」
「言うな。」
「・・・」
「・・・」
「なに暗い顔してるのせっかくの遠足なんだから楽しみなよ。」
「・・・遠足。」
「あくまで調査だ!」
正面ではクラウン指揮官が酒屋と値引き交渉をしている、どうやら樽で買う気だ。
「うすうすそうじゃねえかと思ってたのを気合で誤魔化してたっつーのに!」
「ロイ、自分を騙すの良くないよ。これはどう考えても遠足でしょ、調査一切してないし。クラウン指揮官がお土産はこの街で買えって言ってるしはやくいこう。」
仕事ってなんだろう。
疑問を感じなくもないが、他に来ている者たちもそれなりに楽しんでいるようだ。
自分たちは新人でそこまで仕事が忙しくないがきっと指揮官レベルまで行くと大変なんだ。
だからたまには息抜きが必要なんだ、きっとそうに違いない。
ロキとジンはそう自分に言い聞かせながらクラウンの方に向かった。
一方ここはクラウンの執務室。
がらんと広い部屋に置かれた大きなデスク、その上には書類が用件別につまれている。
「仕事ってなんだろう。」
副官のコリーは主人不在の部屋で呟いた。
書類はほっとくとどんどん溜まっていく。提出期限が近づくとどうなるか。
いつまでも残しておくわけには行かないので誰かがやらなくてはいけない。そしてクラウンの副官はコリーであるので書類の一部はコリーに回ってくる。
「お前のせいじゃないさ。」
書類を出しに来た他の部署の仲間がぽんと肩を叩く。
「そうですよね、俺のせいじゃない。なら何で俺のせいじゃないのに仕事は増えるんでしょうね。」
へへへと乾いた笑いを漏らすコリーは相当いっぱいいっぱいになっているらしい。
いっそ事件でもおきたら提出期限が延びてクラウン指揮官に任せられるのにと物騒な事まで言い出す。
同僚がコリーの様子に引いているとタタタタっと軽い足音が聞こえてきた。
「大変です!魔物が暴れてます!」
その報告を聞いたコリーと同僚は思わず顔を見合わせた。
早く帰りたがったジンのせいか。
物騒なことを言い出したウィルのせいか。
妙な願掛けしたコリーのせいか。
そんなことを部下達に願わせたクラウン指揮官のせいだ!!
そんなわけでコリーは嬉々としてクラウンに連絡した。
ちなみに私怨はばっちりふくまれていた。




