第73話 更なる挑戦
何だろう、この感覚は。
心の奥が、じんわりと温かく満たされていく。
思わず頬が緩んでしまうほどに、心地いい。
このまま、時間が止まってくれればいい――
そんなことすら、考えてしまう。
ふと、別の考えがよぎる。
夏香や冬香にも同じことをしたら、今と同じような、この穏やかな感覚を得られるのだろうか。
……いや。
何言ってんだ、俺は。
小さく頭を振る。
きっと、そうに決まってるだろ。
妙に納得しながら、拓也は胸の内でひとり頷いた。いずれ機会があれば、試してみるのも悪くない――そんなことを、半ば本気で考えてしまう自分がいる。
「……さて」
小さく呟く。
「春菜がいつ目を覚ますか分からないしな。そろそろ――」
そこまで言いかけて、言葉が止まる。
……本当に、それでいいのか?
こんな状況、そう何度も訪れるものじゃない。むしろ、二度と来ない可能性だってある。
だったら……。
答えは、すぐに出た。
だったら、進むしかないだろ。
次の段階へ。
さらに、その先へ。
次のミッション……。
そこで、思考が一瞬止まる。
今より上ってことは……つまり……。
ごくり、と喉が鳴る。
キ、キス……!?
一気に心拍数が跳ね上がる。
俺のファーストキスは、妹って決めてたのに!
頭の中が混乱する。だが同時に、抗えない衝動が胸を満たしていく。
……いいのか? 本当に?
自問する。
……。
って、今さら何を迷ってるんだよ!
ここまで来て、引き返すのか?
男なら、やるしかないだろ!
その一言で、覚悟は決まった。
「よ、よし……」
かすかに震える声が漏れる。
「腹は決まった……」
ゆっくりと、春菜の顔へ視線を向ける。
穏やかな寝息。
無防備なその表情。
それを見た瞬間――
「……っ」
緊張が、さらに膨れ上がる。
ただでさえ高鳴っていた鼓動が、暴れ出しそうになる。
拓也は目を閉じ、大きく息を吸い込んだ。
そして、ゆっくりと吐く。
それを三度繰り返す。
「……少しは、落ち着いたか」
自分に言い聞かせるように呟き、再び目を開く。
……いくぞ。
そっと、春菜の体を自分の方へと引き寄せる。キスしやすいよう、わずかに角度を整えながら。
そして――
顔を、ゆっくりと近づけていく。
ほんのわずかな距離が、やけに遠く感じる。
心臓の音が、やけにうるさい。
それでも、止まらない。
少しずつ、少しずつ――
その距離は、確実に縮まっていった。




