第72話 中難易度のミッション
よし。
第二ミッション、開始だ。
胸の内で気合を入れてみたものの――
……。
……。
……。
拓也は握ったままの手の温もりが、どうにも離れがたくて仕方がない。
何を躊躇ってるんだ俺は!
ここは踏み出さなければならない。より高みへ――そう、次の段階へ進むために!
まずは、この左手だ。春菜の手を握っている、この左手を……。
拓也は、先ほどと同じように、彼女を起こさぬよう細心の注意を払いながら、ゆっくりと指をほどいていく。まるで壊れ物でも扱うかのように、慎重に、慎重に。
……よし。
次は、左腕を背に回す。そのまま二の腕を支えれば――。
「ううん……」
小さな寝息交じりの声に、思わず動きが止まる。
背に回すには……。少し、前に倒さないと無理か
眠ったままの彼女を動かす。しかも起こさずに。
難易度、高すぎだろ。
だが――
ここで、引くわけにはいかない!
こんな機会、二度と巡ってこないかもしれないのだ。
拓也は意を決し、右手をそっと春菜の左肩へと添える。
体を支えながら、わずかに前へ――
た、倒……した、その瞬間。
なっ!?
視界に、不意に飛び込んできたものに、思考が一瞬で吹き飛ぶ。
「っ……!」
胸元が、わずかに緩んで――
「ハァ……ハァ……ハァ……」
呼吸が乱れる。
……だ、ダメだ。一旦落ち着け。
拓也は小さく息を吐き、意識を整える。
……。
……。
……。
よし、戻ってきた。
危なかった。理性が危うく崩壊するところだった。
ほんと、心臓に悪いって!
無防備なその姿に、思わず視線を逸らしながら、拓也はそっと手を伸ばす。少し開いてしまった胸元を、静かに整えてやる。
「……これでよし」
小さく呟き、気持ちを仕切り直す。
再び、右手を肩へ。慎重に、今度こそ――
……よし、問題なし。
確認しながら、彼女の体をわずかに前へ傾ける。
その隙に、左腕を背へと差し入れる。ゆっくりと、丁寧に。
指先が二の腕に触れ、優しく支える。
いいぞ……。
次は右手だ。
肩から離し、そのまま――
春菜の手へ。
触れた瞬間、かすかな温もりが伝わる。それを確かめるように、そっと握る。
今度は、さっきよりも少しだけ、しっかりと。




