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第71話 低難易度のミッション

 あと少し――


 あとほんのわずかで、俺の手が春菜の手に触れる。


 くっ……!


 心臓がうるさい。鼓動がやけに速い。


 な、何やってんだ、俺!


 たかが手を握るだけだろうが。たったそれだけのことに、何でこんなに緊張してるんだ。


 落ち着け……落ち着け……。


 春菜は眠っている。起きる気配もない。


 つまり――バレる心配はない。


 いや、そういう問題じゃねえだろ!


 自分で自分にツッコミを入れつつ、指先は震えたまま動かない。


 ……駄目だ。


 一度、仕切り直す。


 拓也は、春菜の手に触れる寸前だった自分の手をそっと引き戻した。


 そして、夜空を見上げる。


 深く息を吸い込む。


 スー……。


 ゆっくりと吐き出す。


 ハァー……。


 もう一度。


 スー……。


 ハァー……。


 静かな呼吸とともに、少しずつ胸のざわつきが落ち着いていく。


 ……よし。


 さっきよりは、マシだ。


 拓也は改めて、左手を動かした。


 今度はさっきよりも慎重に、ゆっくりと。


 春菜の手へ、少しずつ距離を詰めていく。


 ほんの数センチ。


 それだけの距離が、やけに遠い。


 ……もう少し。


 指先が、触れそうになる。


 あと、ちょっと……!


 そして――


 触れた。


 かすかに、柔らかな感触。


 ……っ!


 思わず息を止める。


 逃げるように離すこともできたはずなのに、そのまま指先はとどまった。


 次の瞬間。


 意を決して、そっと指を絡める。


 握った。


 胸の奥で、小さく何かが弾ける。


 や、やったぞ!


 声には出さない。けれど、内心では叫んでいた。


 春菜の手は、思っていたよりもずっと柔らかくて、温かかった。


 そのぬくもりが、指先から腕へ、そして全身へとじんわり広がっていく。


 ……こんなに小さかったか。


 改めて感じる、その手の大きさ。


 守るように包み込めてしまうほどの、小さな手。


 胸の奥が、妙にくすぐったい。


 落ち着くような、でも落ち着かないような、不思議な感覚。


 このまま、時間が止まってしまえばいい。


 そんなことすら、少しだけ思ってしまった。


 静かな夜。


 星の光。


 肩にもたれる重みと、手の中のぬくもり。


 ――けれど。


 ……いや、待て。


 ふと、現実に引き戻される。


 これで、満足していいのか?


 せっかくの状況だ。いわば奇跡みたいなチャンス。


 難易度の低い「手を握る」はクリアした。


 ならば、次は。


 もう一段階、いけるだろ?


 視線をわずかに動かす。


 肩にもたれて眠る春菜。


 この距離、この状況。


 ……いける。


 心のどこかで、スイッチが入る。


 次は……肩、だな。


 左手でそっと肩を抱き寄せて、右手でこのまま手を握る。


 それができたら――


 完璧じゃねえか!


 自分でも何を目指しているのか分からないまま、妙な高揚感だけが膨らんでいく。


 よし!


 静かに、しかし確かに決意する。


 次の一手へ。


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