第62話 次なる計画
四人の背中が扉の向こうへ消え、やがて足音さえも遠ざかると、部屋には静けさだけが残った。
拓也は一人、ぽつんと取り残される。
「……はあ」
力なく息を吐き、座椅子にもたれかかる。
何もすることがねえ……。
先ほどまでの喧騒が嘘のように、時間だけがだらだらと流れていく。手持ち無沙汰という言葉が、これほど身に染みることもなかった。
くそ、大露天風呂が混浴だったらなあ……。
思わず天井を仰ぐ。
こんな空回りをすることもなかったはずだ。
……いや、待て。
ふと、思考が止まる。
温泉って、ここだけじゃないよな?
ゆっくりと視線を戻し、考えを巡らせる。
今回の場所がたまたま混浴ではなかった、それだけの話だ。世の中を見渡せば、混浴の温泉など探せばいくらでもあるはずで――。
「ってことは……」
じわじわと、口元が緩んでいく。
「今回がダメだったからって、落ち込む必要はないってことか」
やがて、にやりと笑みが浮かんだ。
「フフフ……。なるほどな……」
静かな部屋に、不気味な笑いが漏れる。
「つまりチャンスは、まだ残ってるってわけだ」
温泉旅行はこれで終わりじゃない。むしろ、これからだ。
学生である自分たちには、長い長い夏休みが待っている。計画を練るには、これ以上ない時間だ。
「次は……必ず」
拓也はゆっくりと立ち上がる。
「混浴温泉旅行、実現させてやる!」
そして拳を握りしめ、力強く掲げた。
「そして、次こそは!」
熱を帯びた声が、誰もいない部屋に響く。
「この目に、しっかりと焼き付けてやる!」
宣言の余韻が、しばし空間に漂う。
やがて、
「……ふぅ」
我に返ったように息を吐いた。
「ちょっと興奮しすぎたな……」
照れ隠しのように呟き、再び座椅子へと腰を下ろす。
まあ、夏休みまではまだ時間がある。
焦る必要はない。じっくりと計画を練ればいい。
今回の旅行は……。そう、普通に温泉を楽しめたということで。
……良しとして。
一瞬、思考が止まる。
良しとして、おけるか!
がばっと顔を上げた。
「いやいやいや!」
思わず一人でツッコミを入れる。
「“豪華荘”なんて大層な名前のくせに、あの大露天風呂は何だよ!」
怒りが再燃する。
「百歩譲って混浴じゃないのはいい!」
指を突き立て、誰に向けるでもなく叫ぶ。
「だがな! 大露天風呂って言ったら、普通はもっと広い湯船を想像するだろうが!」
確かに、浴場自体は広かった。
だが、問題はそこではない。
「湯船が畳六畳分って、どう考えても狭すぎだろ!」
拳を震わせる。
「その狭い中に、むさ苦しい男どもがぎゅうぎゅう詰めとか……。どこの地獄だよ!」
――沈黙。
「……まあ、ここにあったんだけどな」
自分で言って、自分で肩を落とす。
結局、温泉旅行に来たというのに、心からくつろげた記憶がほとんどない。
「はあ……」
再びため息。
だが、ふと考えを改める。
……いや。
家族専用風呂は使えなかったが、予約自体は無駄ではない。
むしろ――。
これで、やっとゆっくり入れるな。
そう思うと、少しだけ気が楽になった。
やがて拓也は畳にごろんと寝転がり、ぼんやりと天井を眺めながら時間を潰す。
静かな部屋。
遠くから聞こえるわずかな物音。
それらに身を委ねるうちに、いつしか意識はまどろみへと沈んでいった。
――暫くして。
夏香たちが戻り、再び部屋に賑やかさが戻る。
布団を敷き、他愛のない会話を交わしながら、やがて一人、また一人と眠りに落ちていく。
その夜は、こうして静かに更けていった。




