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第61話 みんなの意見

「このやろう! いきなり殴るたあ、どういう事だ!?」


頬の痛みに顔をしかめながら、拓也は声を荒げた。


「何が“どういう事”よ! 殴られて当然でしょ!」


 夏香は一歩も引かず、きっぱりと言い放つ。


「まったく……“裸の見せ合い”って何よ!?」


 その言葉に、拓也の思考が一瞬止まった。


 ……あ。


 しまった、と遅れて気づく。


 拓也は今、とんでもない本音を口走ってしまったのだ。


 って、アホか俺は!


 内心で頭を抱える。

 

 これでは説得どころか、自ら墓穴を掘ったようなものだ。


 ……終わったな、これは。


 もはや何を言っても、夏香を納得させるのは不可能に近い。


「い、いや……今のは冗談だって。あはは……」


 苦し紛れに笑ってみせるが――。


「あはは、じゃないわよ!」


 即座に一刀両断される。


「どうせエロ兄貴のことだから、本音が出ただけなんでしょ?」


 鋭い!


 思わず息をのむ。


 冬香といい夏香といい、どうしてこうも勘がいいのか。


 まあ、今さらか。ここまで来たら、もう取り繕っても無駄だ。


 拓也は観念したように、肩を落とした。


「……分かったよ。正直に言う」


 ゆっくりと顔を上げる。


「お前の言う通りだ。俺は……みんなの裸が見たくて、家族専用風呂を予約した」


 その言葉に、空気が一気に冷えた。


「やっぱりね」


 夏香は呆れたようにため息をつく。


「妹の裸が見たいとか、どんだけ変態なのよ。それに春菜さんや秋穂までって……ほんとキモいんだけど」


 容赦のない言葉が突き刺さる。


 ぐっ……。まあ、仕方ないか。


 自業自得だと分かってはいる。だが、それでも堪える。


「兄さんの……ド変態」


 ぽつりと呟いた冬香の一言が、静かに胸を貫いた。


 ぐさっ……!


 見えない矢が突き刺さるような感覚に、思わず息が詰まる。


「拓也さんって……エッチでスケベで変態だったんですね!」


 秋穂の無垢な声が、さらに追い打ちをかける。


 ぐさっ、ぐさっ……!


「拓ちゃんの……エッチ」


春菜の一言が、とどめだった。


 ぐ、ぐふっ……!


 もはや立っているのもやっとだ。


 心の中では完全に崩れ落ちていた。


「わたしも……拓ちゃんと裸で、なんて……ちょっと無理かも」


 追撃の一言に、拓也は静かに目を伏せる。


 ……だよな。


 どれだけ長い付き合いでも、それとこれとは別だ。


「……ごめん」


 やがて、ぽつりと呟いた。


「みんなの気持ちも考えずに、勝手に予約なんてして……。本当に悪かった」


 深く頭を下げる。


 楽しいはずの旅行に、水を差してしまった。その事実が、何よりも重かった。


「家族専用風呂は、二時に予約してある。でも俺は入らないから、みんなで使ってくれればいい」


「二時って……夜中の?」


 夏香が眉をひそめる。


「ああ。あと三時間くらいだな」


「そんな時間、もう寝てるわよ。あたしはパス」


「……そうか。夏香は却下か。他は?」


「わたしも……寝てる」


冬香が小さく答える。いつもの就寝時間を考えれば当然だった。


「わたしも、お風呂はいいかな」


 春菜も苦笑しながら首を振る。


「秋穂ちゃんは?」


「みんなが入らないなら……わたしも入りません」


「分かった」


拓也は小さく頷いた。


「じゃあ、この風呂は無しってことで」


 時間を考えれば無理もない。誰も責める気にはなれなかった。


「ねえ拓ちゃん。その予約、今からキャンセルできないの?」


  春菜の問いに、拓也は首をかしげる。


「多分無理だな。確かキャンセルは六時間前までって言ってた」


「そっか……じゃあ仕方ないね」


「まあ金がかかるわけでもないし。誰も入らないなら、俺が一人で入ってくるよ」


「一人で?」


「ああ。せっかくだし、のんびりな」


「どうぞご自由に。あたしは寝るから」


「了解」


その時だった。


「あ、そうだ」


 拓也はふと思い出したように顔を上げる。


「大露天風呂、二四時間入れるって言ってたぞ」


「え!? 本当!?」


 夏香の目が一気に輝く。


「ああ。だから、今からでも行ける」


「やった! 行く行く!」


 勢いよく立ち上がる夏香。


「みんな、大浴場行くわよ!」


「はーい!」


「うん……」


疲れていたはずの面々も、不思議と元気を取り戻していた。


その様子を、拓也は座椅子に座ったまま眺める。


 なんだかんだで、みんな元気だな。


「あれ? 拓ちゃんは行かないの?」


 春菜が振り返る。


「ああ、俺はいい。ここで休んでるよ」


 軽く手を振る。


「だから、みんなのこと頼むな」


「うん、分かった。それじゃ行ってくるね」


「おう。いってら」


 部屋の扉が開き、賑やかな足音が遠ざかっていく。


 やがて静寂が戻った部屋で、拓也はひとり、そっと息を吐いた。


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