第58話 決着
ボウリング第一ゲームが終了した。
結果は――
拓也、二二〇点。夏香、一九三点。春菜、三六点。秋穂、一四七点。そして冬香は、残念ながら〇点。
拓也は序盤から怒涛の五連続ストライクを叩き出し、その勢いのまま高得点をもぎ取った。
だが――
思ったより、差が開いてねえ。
視線の先には夏香。
ストライクの数こそ拓也に及ばなかったものの、その分を確実なスペアで積み重ねてきた結果、点差は決して安心できるものではなかった。
そして――
「兄貴、二ゲーム目開始よ!」
間髪入れずに飛んでくる声。
はやっ!?
一ゲーム目が終わったばかりだというのに、休む間もない。
ちょっとくらい休ませろって……。
そう言いたい気持ちは山ほどあるが。
……俺、パシリだしな。
現実は無情だった。
「わ、わかったよ……」
力なく頷く。
だが、夏香の表情は明らかに違っていた。一ゲーム目の敗北が、彼女の闘争心に火をつけたのだろう。
本気で、来る気だな。
拓也もまた、気を引き締める。
なら、こっちも全力だ!
「それじゃあ、みんな! 二ゲーム目、開始だ!」
第二ゲームは、一ゲーム目とは対照的な展開となった。
拓也が三連続スペアで繋ぐ一方、夏香はいきなりの三連続ストライク。鋭く、迷いのない投球が、次々とピンを薙ぎ倒していく。
「兄貴、さっきは負けたけど――」
振り返りざま、夏香が笑う。
「最後に勝つのは、あたしだから」
その声音には、確信があった。
「ふざけるな!」
拓也も負けじと叫ぶ。
「このゲームでも勝つのは俺だ!」
ここで、負けるわけにはいかねえ!
拳を握る。
俺は――
脳裏に浮かぶのは、ひとつの願望。
みんなで一緒に……家族風呂に入るためだ!!!)
もはや執念だった。
ゲームは中盤へと進む。
五フレーム終了時点で――拓也、八五点。夏香、九五点。
まだだ……。この差なら、トータルで勝てる。
計算上は、まだ優位。
だが――
そこから先は、まさに一瞬だった。
白熱した攻防は、あっという間に終盤へとなだれ込み。
気づけば、第二ゲームは終了していた。
結果は――
拓也、一八一点。夏香、二二四点。春菜、二八点。秋穂、一七八点。そして冬香は、再び〇点。
合計スコア。
拓也、四〇一点。
夏香、四一七点。
――勝者、夏香。
わずか十六点差。
しかし、その差は決定的だった。
「やっぱり、あたしの勝ちね」
勝ち誇ったように、夏香が笑う。
「それじゃあ、奴隷兄に命令よ」
その一言に、拓也の顔が引きつる。
「急いで、みんなの飲み物を買ってきなさい」
ど、奴隷!?
頭の中が真っ白になる。
パシリどころじゃねえ……。ランクアップしてるじゃねえか!
膝から崩れ落ちそうになる衝撃。
俺の夢が……欲望が……。全部……終わった……。
燃え上がっていた野望は、無残にも打ち砕かれた。
「何ぼーっとしてるのよ」
容赦のない追撃。
「早く行きなさい」
「……わ、わかったよ」
もはや抵抗する気力もない。
「買ってくればいいんだろ……」
力なくそう呟く。
はあ……。ついてねえな、今日は……。
本来なら楽しいはずの温泉旅行。
だが今の拓也にとっては、試練の連続だった。
大きなため息をひとつ吐き出し、肩を落としたまま。
拓也は、とぼとぼと自動販売機へと歩き出すのだった。




