第55話 千載一遇のチャンス
豪華な料理をこれでもかと平らげ、満腹で動くのも億劫になった拓也たちは、一度自分たちの部屋へ戻ることにした。
部屋に入ると、自然と大きなテーブルを囲むようにして腰を下ろす。畳の上に広がる安堵感と、満腹の重みが、全身をじんわりと包み込んだ。
「いや~、食べたな」
拓也はそう呟きながら、自分の腹を軽く叩く。
「もう、パンパンだわ」
「わたしも、久しぶりに食べ過ぎちゃったかも」
春菜が苦笑混じりに言う。
「何言ってんだよ。春菜は、いつものことだろ?」
軽口のつもりだった。
だが――
「もう、違うよ!」
ぷくっと頬を膨らませ、春菜が抗議する。
「いつもは、あんなに食べたりしないんだからっ。本当なんだからねっ」
むきになって言い返すその様子に、拓也は思わず肩をすくめた。
「悪かったって。冗談だよ、冗談」
慌ててフォローに回る。
「春菜の体型見れば分かるって。食べたいの我慢してるんだろうなってさ」
「もう、拓ちゃんひどいよ!」
春菜はますます顔を赤くする。
「我慢なんて……我慢なんて……。ちょっとしかしてないんだから!」
してるのかよ!?
思わぬカミングアウトに、拓也は内心で驚く。
言わなきゃ分からなかったのに、相変わらず正直だな。
苦笑しながらも、どこか微笑ましい気持ちになる。
「ごめんごめん。俺が悪かった」
改めて謝りつつ、優しく言葉を重ねる。
「春菜は別に太ってるわけじゃないし、気にする必要なんてないって」
「え……。そ、そうかな?」
「ああ。全然平気。むしろ今くらいがちょうどいいって」
「……うん。ありがとう、拓ちゃん」
ほっとしたように微笑む春菜。その頬は、まだほんのりと赤いままだった。
よし、機嫌は直ったな。
胸をなで下ろしながら、拓也はふと考える。
温泉も入ったし。まあ、足湯みたいなもんだったけど。
飯も食ったし。この後どうするかだな?
「なあ、みんな。この後どうする? 何かやりたいことあるか?」
問いかけると、すぐに元気な声が上がる。
「あたし、ボウリングとカラオケやりたい!」
夏香だった。
「ボウリングとカラオケか……」
拓也は少し考えてから、視線を春菜たちへ向ける。
「俺はいいけど、春菜と秋穂ちゃんは?」
「面白そうだし、わたしも賛成かな」
春菜が柔らかく頷く。
「わたしもやりま~す!」
秋穂は元気いっぱいに手を挙げた。
よし、二人ともオーケー。
残る一人へと視線を向ける。
「冬香はどうする?」
「わたしも……一緒にやる」
小さな声で、しかしはっきりと。
「そっか。じゃあ決まりだな」
拓也は満足げに頷いた。
「少し休んだら、みんなで行こう」
その言葉を合図に、場の空気がわずかに弾む。
――と、その時。
「兄貴」
不意に、鋭い声。
顔を上げると、夏香がこちらに人差し指を突きつけていた。
「ボウリングで、またあたしと勝負よ!」
挑発的な笑み。
その瞳には、明らかな闘志が宿っている。
「おお、いいぜ」
拓也もすぐに応じる。
「今度は、ぜってぇ負けねえからな!」
言葉に力がこもる。
さっきはやられたが……次は違う。
胸の奥で、静かに炎が燃え上がる。
向こうから勝負を挑んでくるなんて……。
これは――
チャンスだ。
心の中で拳を握る。
次こそは……絶対に勝つ!
卓球での屈辱を胸に刻みながら、拓也は静かに決意を固めていた。




