第50話 チャンス
拓也たち五人は、ひとしきり言葉を交わした末、二対二で試合を行い、余った一人が得点係を務める、という形に落ち着いた。
サーブは一回ごとに相手チームと交代し、五点先取で勝敗を決する。試合が終わるたびに一人ずつ順に入れ替わる。そんな簡潔なルールが、彼らの小さな戦場を形作っていた。
最初の組み合わせは、じゃんけんの結果、拓也と春菜のペア対、夏香と冬香のペア。秋穂は得点係として脇に立つことになった。
「よし、いくぞ!」
掛け声とともに、拓也は左手のボールを軽く宙へ放る。落ちてくるその一瞬を逃さず、ラケットを被せるようにして打ち込んだ。
白い球はなめらかな弧を描き、相手コートへと吸い込まれていく。
「あっ……」
冬香の小さな声が漏れたときには、すでに遅かった。ボールはラケットに触れることすらなく、そのまま彼女の背後へと抜けていく。
「どんまい、冬香」
夏香が軽く肩を叩く。
「うん……」
気落ちした返事が、わずかに空気を沈ませた。
「今度は、こっちの番よ!」
夏香の目が、きらりと光る。やる気は十分。いや、むしろ溢れ出している。
拓也はわずかに身構えた。
「そりゃ!」
鋭い掛け声とともに打たれたボールは、先ほどとは比べものにならない勢いで飛んできた。
その軌道は、まっすぐ春菜の方へ。
「えいっ!」
元気な声とは裏腹に、タイミングは遅れていた。ボールは彼女の脇をすり抜け、虚しく後方へと転がっていく。
「ごめんね、拓ちゃん……」
申し訳なさそうに俯く春菜。彼女も冬香と同じく、運動はあまり得意ではない。
「いいって、いいって。次は、この俺が決めてやっからさ」
「うん。頑張ってね、拓ちゃん」
ふわりと向けられた笑顔。見慣れているはずのそれが、なぜか今日はやけに胸に刺さった。
……やばい。
不意に意識してしまったせいで、鼓動が妙に速くなる。悟られまいと、拓也は平静を装いながらラケットを握り直した。
その後のラリーは、互いに譲らぬ応酬となった。結果は、五対四。わずかな差で、拓也と春菜の勝利。
とはいえ、実際のところ試合の主役は拓也と夏香の二人だった。春菜と冬香は、最後まで一度もボールを捉えることができなかったのだから。
そのせいか、試合後の夏香は、悔しさを隠しきれない表情を浮かべていた。
その後も順番に交代しながら、全員が何度かゲームをこなしていく。やがて、ひと通り遊び終えた頃。
「さあて、卓球はこの辺でお終いにして。飯でも食いに行こうか?」
拓也がそう声をかけると、空気がふっと緩んだ。
その時。
「ねえ、兄貴? 最後にあたしと、一対一で勝負しない?」
夏香が、まっすぐ拓也を見据えて言った。
少し疲れも出てきているし、腹も減っている。本音を言えば、ここで切り上げたいところだ。
……だが。
拓也の思考が、ふと立ち止まる。
いや、待てよ。これはもしかして、チャンスなんじゃないか?
胸の奥で、何かが弾けた。
そうだ……。そうに決まってる!
抑えきれない高揚が、じわじわと込み上げてくる。
フフッ。
拓也は内心で、静かに、しかし確かに笑っていた。




