第30話 気合いの入れ直し
拓也は一人で簡単に朝食を済ませると、妹たちの分として取り分けておいたおかずにラップをかけ、冷蔵庫へとしまった。
夏香と冬香が起きてくれば、いつものように勝手に冷蔵庫を開け、適当に食べてくれるだろう。
「さてと……」
小さく伸びをする。
「春菜が迎えに来るまで、少し寝るか……」
重たい瞼をこすりながら自室へ戻り、ベッドへ倒れ込むように横になった。
ほんの少しだけ。
そう思ったはずだったが、意識はすぐに浅い眠りへと沈んでいく。
それから暫くして――。
いつものように、春菜が迎えにやってきた。
結局ほとんど眠れた気がしないまま、拓也は家を出て、春菜と並んでバス停へと向かう。
「ねえ、拓ちゃん? 大丈夫?」
隣を歩く春菜が、不安そうに顔を覗き込んできた。
「え? 大丈夫って……何が?」
眠気の残る頭で問い返すと、春菜は少し呆れたように、けれど優しく言う。
「何がって……。もしかして拓ちゃん、昨日一睡もしてないでしょ?」
「うわっ、何で分かるんだよ?」
思わず足を止めかける。
「だって……ほら」
春菜はそっと指先で、自分の目の下を示した。
「凄いくま、できてるもん」
「ええ!? マジで……?」
慌てて顔に手をやる。
「それは、結構みっともないな」
苦笑を浮かべる拓也に、春菜はますます心配そうな表情を深めた。
「どうしたの? 寝られない理由でもあったの?」
「いや……理由っていうかさ……」
拓也は少しだけ視線を逸らし、頭をかく。
ほんと、心配性だよな、春菜は。
「実は、妹たちの希望に合う温泉旅館をさ、昨日の夜からずっとネットで探してて……」
小さく息を吐く。
「気づいたら朝になってた」
「ええ……」
春菜は目を丸くし、それから納得したように頷いた。
「そっか……今日からゴールデンウィークだもんね。人気の旅館は、もうどこもいっぱいだよね」
「まあな……」
拓也は苦笑混じりに肩をすくめる。
「結局さ、俺の見通しが甘かったってだけなんだけどな……」
「拓ちゃん……」
春菜の声が、少しだけ柔らかくなる。
「でもまあ、頼まれた以上はさ」
前を向き、歩きながら続ける。
「学校から帰ったら、もうちょい粘ってみるつもりだよ」
すると、春菜の表情がぱっと明るくなった。
「うんっ! 拓ちゃんが諦めなければ、きっといい旅館見つかるよ!」
そう言って、胸の前でぎゅっと両拳を握る。
「わたしも、家に帰ったら手伝うから。一緒に探そうね!」
小さく気合いを入れるその仕草は、どこか無邪気で――。
思わず、拓也の頬が緩む。
なんだか、癒されるな……。
「おう。ありがとな、春菜」
「うんっ!」
春菜は満面の笑みを浮かべる。
その屈託のない笑顔は、朝の眠気や疲れを、ほんの少しだけ軽くしてくれるようだった。




