27:私たちも迷宮に挑みましょうっ
「じゃあ、ちゃんと成仏しろよ?」
『はい〜。本当にご迷惑お掛けしました。それでは』
『わぁ。俺、今度生まれ変わったら、田舎でのんびりスローライフ送るんだぁ』
『お、それいいな』
などと言いつつ、俺たちを襲った盗賊団が空へと昇って行く。
成仏するために。
『レイジ様、あいつらは配下に加えないのですかい?』
『チャックさん! あいつらは盗賊っす。盗賊と仲間になるのは、絶対嫌っすよ』
『そうよそうよぉ。チャックさんたちは冒険者さんだからいいけど、悪い人とはお友達になりたくありませ〜ん』
『チャックさん。僕もコウさんたちの意見に賛成です。生前の行いが悪い物を使役すれば、レイジ様の名にも傷が付きますよ!』
『た、確かにな』
ということで、今後も盗賊や悪党を仲間に加える気は無い――と、アズ村アンデッドを代表してコウが宣言する。
お前が勝手に取り仕切るなと。
まぁ俺も悪党と主従関係になりたいとは思わないけど。
ちょっとした不幸(?)に見舞われたものの、無事に街道までやってきた俺――とソディア。
アンデッドはれいによって俺の影の中だ。
「街道までくれば、さすがにさっきみたいなのは……」
「少なくなるわね」
「ってことは、いるのか……」
足場の悪かった森とは違い、さすがにある程度整備された街道は歩きやすい。
とはいえ、そこかしこに小石が落ちているので、踏めば足裏が痛む。
うぅん、葬式用に黒の通学靴のまま召喚されたのが痛かった。せめてクッション性の高い運動靴で召喚されていればなぁ。
うん。靴も買いなおそう。
そうしてやってきたヴェルタの町までの道中、本日二度目となる盗賊団の登場は無かった。
町に到着したのはお昼を少し過ぎた頃。
「まずは食事ね。それから冒険者ギルドに行って金貨を換金しましょ」
「オケ」
近くにダンジョンがあるというのもあって、アズ以上に賑わっている町だな。
通りを歩く冒険者らしき姿もかなり多い。
香ばしい匂いが漂ってくる一軒の店に入ろうと戸に手をやるが、意外と重い。
蝶番が錆びているのか、それとも立て付けが悪くなっているのか。
「どうしたのレイジくん? 入らないの?」
「いや、建物が古いのかね。なんか重くてさ――ふんっ」
戸を押す右手に力を込すと、今度は開いた。
ただし、戸の内側で別の――いや、人も一緒に押してしまったようで、ひとりの男が盛大にこけた。
「いっ痛ぅーっ。クソがぁ、何しやがる!」
「え、その声……樫田!?」
「はぁ? ――て、てめぇ、魅霊じゃねえか!」
え、つまり……。
内側と外。樫田と俺が同時に別方向から戸を押したのか。
それで戸が重く感じた?
いや、でも樫田を吹き飛ばすほど、俺に腕力は無いはずだぞ。
『ほぉほぉ。儂の筋力を引き出せるようになってきたのかのぉ』
「げっ。人外化が加速してる!? どこにも鱗とか生えてきてないだろうな」
「見える範囲には無いけど……それよりレイジくん、彼と知り合いなの?」
一緒に召喚されたクラスメイトで、不良の兄貴分のほう、樫田だ。
あぁ、後ろに他の連中もいるな。
それにしても――。
「樫田、全身フル装備とか、どうしたんだよそれ」
樫田だけじゃない。
クラス委員の相田は、樫田以上の装備――全身鎧、だ。
しかも二人とも赤い。凄く赤い。
いや、この二人だけじゃない。
樫田の子分的な高田は赤い法衣の上から胸と肩を守るような皮鎧を付け、学校一の秀才だと言われる戸敷は赤黒いロングコートと大きな杖を持っている。
この四人以外にも、彼らの周辺には何人かの冒険者らしき者がいる。
全員お揃いの赤いマントでちょっと笑えるな。
王子一行とは別れたのか?
「俺たちはこれから迷宮に挑む。実戦慣れするためにな」
「実戦慣れ?」
王子一行の元を離れ、自分たちで生きるために……か?
立ち上がった樫田は鎧を気にするようにあちこちチェックしはじめる。
「そんなことより魅霊。君はどうしてこんな所に? しかも……」
相田はソディアを値踏みするかのような目で見た。
そういやこいつ……女癖が悪いって噂を聞いたことがあるな。
もちろん、噂していたのは浮遊霊たちだけど。
「まさか魅霊が女連れとはねぇ。奴隷でも買ったのか? いや、奴隷にしては身なりが整っているようだし……けどいい女だねぇ」
「は? 何言ってんだ、相田は」
「ねぇねぇ彼女。俺と一緒に行かない? 迷宮の最下層には凄いお宝があるって言うじゃないか。それを君にやるから、俺の女になってよ」
俺のことはスルーかよ。
誘われたソディアはというと――。
「お断りよ! 女と見れば性欲の対象にしか見てないような男、こっちから願い下げよ!」
あぁあぁ、相田……ソディアを怒らせたよ。彼女、怒ると怖いんだぜ。
しかし相田って、ここまで露骨に下衆な奴だったのか?
「レイジくん! 私たちも迷宮に挑みましょうっ」
「え? 急にどうしたんだ?」
「あいつより先に迷宮の宝を手に入れるのよ!」
ビシっと相田を指差し言うが、彼は俺を見て笑いだす。
「あっはっはっは。無理ムリ。魅霊じゃ無理だよ。なんせそいつは、古代竜の残り物を――」
「おい相田! それぐらいにしておけよ」
あれ? 樫田が……止めに入った?
いつもなら真っ先に絡んでくるくせに。
「俺たちが召喚されたてのは、内密にしておけと言われているだろ。魅霊、お前もだぞ。変なのに絡まれたくなかったら、黙っておくことだ。いいな」
「あ、あぁ。言われなくても」
なるほど。別に俺を庇ったって訳じゃないんだな。
でも、変なのに絡まれたくなかったらって、俺は日本じゃあお前にこそ絡まれてたんだけど。
「っち。まぁいいや。ねぇ君。今ならまだ間に合うよ? こっちに来なよ」
「お・こ・と・わ・り。レイジくん、行くわよっ」
そう言うとソディアは俺の手を引いて奥にあるカウンターへと向かいだす。
迷宮かぁ……まぁせっかく異世界にいて冒険者もやってるんだ。ダンジョンに行きたくないわけがない。
けど……と、頭上のアブソディラスを見れば、何故か奴も鼻息を荒げて、
『行くぞい!』
などと言っている。
「いいのか、アブソディラス?」
『良いも悪いもあるか! あそこまで言われて、何故黙っておるのじゃ!』
いや、言い返すのも面倒くさいし。
「ま、お前がいいって言うなら――俺だってダンジョンと聞いてワクワクしない訳じゃないんだ。行こう!」
「そうこなくっちゃ」
『そうこんとな』
「れい」→「例」の誤字脱字報告を受けましたが、これに関してはどっちが正しいのか判断できず
わざとひらがなにしております。(変換箇所があるかもしれませんが^^;)
書籍の校正さんからはひらがなに書き直されることも多いので、その方がいいのかな~とも思いまして。