如月の日常2
その日も残念ながら残業だった。
これはもはや「わざと」というより「あざとい」と普通の女子だったら合コンへの姿勢として後で陰口を叩かれかねない不祥事だ。
がしかし、冴えない27歳公務員にはただ自分への罰ゲームと化すだけである。
30分の遅れをとり、お店へ入る。若くて可愛い店員さんに予約の名前を告げると和をモチーフとした小綺麗な個室に通された。
だけれど通された先に座っているのは、女子はたったの一人。男子も一人。
あれ?お店間違えたかな?それとも名前?
峯田真由華に「如月、座らないのー?」と声をかけられるまで数秒間男女の顔をジロジロと見定めてしまった気がする。
「あ、ごめん。」
と、私が静かに謝った後ろから
「ごめん!!!」
と大きな大きな声で謝罪が飛び込んで来た。
ぎょっとして振り返れば、先ほどとは違うこれまた若い店員さんに連れてこられた男性が一人。なんとなく懐かしい雰囲気を感じさせる。
「わ!ちょうどよかった!二人共座りな〜!てかお疲れ様」
語尾にハートマークやら音符マークやらが無駄に搭載されてそうな真由華の声に促され、私と声の大きな男性は対面に座る。
「如月はビールでしょー!大月はどうするー??」
「あ、うん。生で」
相変わらずテキパキと飲み会をこなす真由華に空返事をしながら、心に引っかかるものを感じる。
大月?
「俺も生かな!」
「いやいやあんたあんま飲まないでしょ!無理しないでいいから!」
いつもより若干きつめに男性に突っかかる真由華さん。相当仲良しなのかしら。早くビール来ないかなー。
そしてこの男子は体育会系オーラがすごいのにあんまりお酒が飲めないんだなぁ。なんて人間観察をしていると、バチっと大月さんと目が合う。
ふわっと優しい笑顔を送ってくれる。そして、
「まあまあ一杯目くらいは如月さんに付き合いますよ。」
と、サラッと言ってのけた。
「最初っから飛ばすな〜」なんてもう一人の男性が合いの手を入れる。
なんか少人数の飲み会って隠れられる場所がない。いつ自分の番が来るのやらヒヤヒヤしてしまう。
そんなことを考えていると、ジョッキが凍った生ビールと、もずくのお通しが二つずつ運ばれて来る。
「「「「かんぱーい」」」」
久々のプライベートでの人との関わりに少しヒヤヒヤしながら、お酒を進めていく。
開始3分、大月くんに
「そろそろ思い出した?」
と、また優しい微笑みを向けられる。
思い出すということはやはり知り合いなのだろうか。私の数少ない交友関係を遡る。遡って遡って、真由華に小悪魔の笑み、いや、悪魔に小突かれる。
「大月如月って名前になったらウケるねって散々冷やかしたでしょう?」
「ああ!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。中学の同級生と再会するなんて思いもよらなかったし、その再会相手がなんとも私の中で記憶を半分以上消していたほど気まずい相手だなんて誰が思うだろう。
驚きのあまり口がパクパクして、思わずグイッと半分ほど残っていたジョッキの中身を飲み干してしまった。