如月の日常1
猫のような宇宙人のような葛城 将平と言う人間から、ピタリと連絡が途絶えてから早2ヶ月。
季節は春から夏へとジリジリと近づいている。雨だらけで憂鬱になる日常をなんとかこなしながら毎日を過ごしている。
起きて、仕事に行って、買い物をして帰ってきて、少しだけ考え事をして、ご飯を食べて、お風呂に入って、寝る。
あいつと出会う前は当たり前だった日常が、心地いいと感じていた日常がここにはあるのにどうしようもなく、虚しくなるのだ。
ご飯を食べ終わり、食器を洗う時にふと思い出す。リズムよく食器を洗い、少し自慢げにするあいつの横顔。
眠る前、あいつの腕の中にスッポリと収まったことを思い出して、ほんの少し温かい気持ちになってしまうのだ。
起きた時、クルクルの髪の毛が視界にないことを寂しいと思ってしまうのだ。
最初から知らなければよかった。
全てその一言で片付いてしまう。今まで通り、誰の優しさもぬくもりも感じず、一人ぼっちでいればよかったのに。
少しの変化といえば、ハムスターを飼い始めた。
両手の中で健やかに息をするこの生き物は、子どもの頃の憧れを手に入れた感じで心地いい。
あのフサフサの猫っ毛がなくたって、元お揃いのペアグラスを捨ててしまったって、私はこの小さなもふもふと生きていこうと思う。
住宅の設備の問題もあるけれど、猫を飼うことにしなかったのは何かへの反抗と何かへの恐れからだった。
なんだかんだきっと、世間では「アラサー」と呼ばれることにジリジリと引け目を感じているのだ。
そんな日常を過ごしているとある日、これまた2ヶ月ぶりの合コンのお誘いがあった。
今度は律儀に2週間も前に連絡があり、渋々といった感じにOKを出す。
どうせ予定なんかありませんよ。はいはい。
ハムスターがクルクルと滑車を回すゲージの中を見つめながら、脳内でボソッと呟く。
どうせならちゃんとした彼氏でも作るか。
ふと、ほぼ初めての願望が湧いた。
ほんの少しだけ前向きになれた気がする。まだハムスターは一歩も前に進まない滑車をカラカラと回し続けているけれど私はほんの少し前に進みたい。
いつの間にか、遠い金色の指輪の面影は消え失せて、私の心にはフワフワと猫っ毛とくすぐったいような笑顔がこびり付いて離れなくなっている。
「会いたいなあ」
口に出してから、ふっと自分に笑ってしまう。まるでドラマのワンシーンのように月を見上げる自分自身をどこかで嘲笑してしまう。
なぜなら私はドラマの主人公でもなんでもなくて、ただの地味なアラサー女なのだ。




