如月の日常3
「え、うそでしょ?」
思わず大きな声が漏れ出す。きっと今、相当間抜けな顔を大月くんに晒していることだろう。
結局あの可愛げがないメッセージにも手馴れた男は上手に返信をくれた。男性へのリハビリと美味しい飯を奢ってくれるということで現金な私は大人になった大月くんとあの食事会から約2週間後、2回目の対面をした。
我が家からもそう遠くない鯛めしが人気の小料理屋らしい。小料理屋といっても敷居が高くないタイプのお店でなんだか意外だった。
「ほら俺、酒あんま飲まないからさ。ただただ料理が美味しいお店探してるわけですよ。」
と、最初に会った時にも「意外だ」と思ったお酒あんまり飲まない発言を繰り出す。人って見かけによらない。
そして何に驚くってその職業。
この間も聞いたらしいけれど、全く記憶の断片にも残っていない。
「え?そんな意外?」
「いや、えっとさ、意外とかじゃなくて、」
だめだ。口ごもってしまう。一体全体なんて言えばいいんだろう。どうしようもなく心の整理ができない。
「如月って芸能関係興味あるの?」
「いや、えっと、ちょっと待ってほんとごめん。消化不良。」
「まだほぼお通ししか食べてねーじゃん」
変なやつ。と優しく笑いかけてくれるけれど、そんなこと言ってる場合じゃない。本当にどうしたらいいかわからないよ。こんなの人に言えるわけがない。
大月くんが大手芸能事務所に勤めていて、マネージメントをしている役者が葛城将平なんて何かの間違いですか?
なんでこんなにも近くにあいつの影を感じなければいけないんだろう。
「でさ、めっちゃ偶然なんだけど思い出したんだよね!如月んち、こないだ送りに行っただろ?あそこ将平のこと迎えに行ったことあるマンションでさー。」
さらっと将平という言葉を繰り出してくる。どっしりと心に響く。それ、私の家に居たんだよ、多分。なんて相槌を打てるわけもない。
「へー!そんな偶然あるんだね。」
とてつもなく変なテンションで会話を続けようとするけれど、変な冷や汗とドキドキが止まらない。
マネジャー(鬼)と登録されていることを大月くんは知っているんだろうか。そんな細かなことまで思い出して、少し胸が暖かくなる。
同時にヒヤリ、と冷静になる。いつまであいつのことを考えてるんだ。
「すんげー裏話なんだけどさ、あいつこないだスキャンダル撮られてさ今事務所の寮に軟禁状態。若いのに可哀想なんだよね。」
「へ、へぇ。お気の毒様〜。」
日本語が荒れてきているのが自分でもわかる。大月くんの横にはいつもあいつがいる。なんだか不思議だ。私の横には誰も居ない。
「お待ち堂様〜!鯛めしできたでね〜」
少し独特な発音でテーブルに鯛めしがコトン、と置かれる。とてもいい匂いと煙で空腹だったことを思い出した。そうか、お腹が空いているからこんなにマイナスな思考になっているのかな。きっとそうだ。
「美味しそうだね。」
「もちろん!酒も遠慮しないで飲んでいいからな!」
葛城将平とは違う、ふんわりとした笑顔で笑う大月くんは豪快に鯛めしを盛り付けてくれた。鯛めしは出汁がたまらなく効いていて、なんだかほんの少しだけ涙が出そうになった。
最近泣上戸なんだろうか。シンプルな酎ハイがとても美味しくて、「おっさんみたいだな。」と突っ込まれ、「おっさん上等です。」なんて、昔からとても仲が良かったように大月くんと話せるようになるのは1時間と少し後だった。




