第9話 男の子っていつもそうですよね? 合体はロマンだよね
ちびっ子ゴーレム相撲まで、あと六日、朝早くからクリフ少年は街の門でそわそわと待っていた。
約束の時間になると、東門の方からロイグがやって来る。
「おはよー」
いつも通りの無表情、いつも通りの軽い挨拶。
昨日、街中を巻き込んだ材料不足問題など、まるで気にしていないような顔だった。
「お、おはよう!」
クリフは慌てて頭を下げる。
その横では少女型アル・アジフも小さく手を上げて挨拶をする。そして、二人というよりはクリフに向けて言う。
「本日の予定を確認する。ゴーレム製作のための設計思想を確立。その後、必要素材を収集する」
「うん。まずはどんなゴーレムにするか決めようか? じゃあ、まずは僕らのピリアの森へいこう」
伝説の地、ピリアの森。容易には普通の人間が入れないように人払いの特殊魔法がかけられており、いわば人間からすれば禁足地。
当然子供のクリフが知るよしもないが……
「じゃ、ポータル開くね?」
ロイグはそう言うと、二点間の距離を転移移動する超高等魔法。クリフは「凄いや! ロイグ」というが、長年生涯を魔法にかけた熟練の魔導師達からすれば、凄いや! ではすまんわ! と言いたくなる魔法。そしてそれは超科学の頂にいるアル・アジフですら解析できない。開いた先は森、ロイグは当たり前のように前進し、クリフもその後を追う。
アル・アジフが閉じていく空間転移が完全に閉じるまで状況の観測、それは少女型のアル・アジフ、素体と衛星のアル・アジフも全ての機能を使って解析を開始していた。
「アル、いくよ」
「あぁ、すぐいく」
やはり、ロイグは凄いというこの一言しかアル・アジフはアンサーできない。ポータルの場所から十分も歩かないうちに、クリフは何度目か分からない足を止めた。
「……はぁ、はぁ」
視線の先には一本の樹、いや、一本という表現は正しくないのかもしれない。それは人によっては木でできた山だった。
人間の村人全員の家を作れそうなほど太い幹が空へ向かって伸び、枝は雲を突き抜けている。
「ロイグ……」
「どうしたの? クリフ」
「あれ木なの?」
「えっ? 木だよ? まさか、シティーボーイに田舎ディスられてる?」
「ディスってないけど、あれはやっぱ木なんだ……」
アル・アジフは記録する。
《人間はこの異常個体サイズの植物に耐性なし》
さらに歩く。今度は湖だった。透明な湖面には何頭もの巨大な鹿が水を飲んでいる。
クリフは息を呑んだ。
「ま、魔物……」
「ああ、あれ?」
ロイグはちらりと見る。
「森の鹿だよ」
「鹿?」
「うん、時々おとーさんが捕まえてきて村のみんなで食べたりするよ」
「えっ……」
アル・アジフは再び記録した。
《エルフと人間では鹿の定義が異なる可能性》
さらに歩く。岩の上では精霊らしき光の球が昼寝をしている。枝の上ではエルフの子供達が鬼ごっこをしている。
そのさらに上を、翼竜がのんびり飛んでいった。
クリフは子供ながらに思う。魔物や亜人、そして森の賢人エルフとはそもそもが自分達と同じ時間の中で全く違う世界を生きているという事。
そして、ようやく目的地。
「着いたよ」
ロイグが立ち止まる。巨木が倒れている場所、そして。
そこに座る青と白い巨人・朝日に照らされながら眠るアル・アジフの素体。
クリフの思考は止まった。
「…………」
「クリフ?」
「…………」
「大丈夫? おーい」
「…………」
完全停止。
アル・アジフは分析する。
《驚愕により処理能力低下》
「本来は、私を見た時、このようになるか、大騒ぎをする方が正しい」
「なにこれ? もしかしてゴーレムなの!」
ようやく叫んだ。
「でかっ!!」
「アルだからね」
「アル……えっ? お姉さんと同じ名前なの!?」
ロイグは当然のように頷く。少女型アル・アジフも当然のように頷いた。
「うん、我である」
「どっちが!?」
「両方である……が、正確には今の我は生体CPU」
「意味が分かんないよ」
ロイグは笑いながら素体アル・アジフの胸元へ歩いていく。そしてちょいちょいとクリフにアル・アジフへ手招きをする。
「こっちこっち」
巨人の胸部装甲が静かに開く。アル・アジフのコクピット。ロイグの終命印が赤く光る。人間の相当な寿命を消費しているのだが、ロイグからしたら些細な年数じゃない。
そこは、クリフには遠く理解の及ばない未来文明の技術がそのまま残る部屋だった。
壁一面に浮かぶ立体映像、意味不明な文字列、空中へ展開される操作盤。
椅子すら宙に浮いている。
クリフはきょろきょろと辺りを見回した。
「これ全部魔法?」
「いや、科学だ」
「カガク? えっとー錬金術?」
中々にクリフは頭がいいなとアル・アジフは思う。人間の最初の科学といえば錬金術からはじまる。そしてこの世界にも存在しているらしい。
ロイグはコクピット内の椅子へ座る。
「さて」
ぱん、と手を叩いた。
「クリフ、君に問おう」
「うん」
「どんなゴーレムを作りたいの?」
質問は簡単だった。しかしクリフは困る。ゴーレムを作りたいとは言ったが、その構想をする前に邪魔が入り、しっかりと考えた事がない。だが、今日それは終わった。クリフは一歩前進しているのだ。
「えっと……」
考える。
考える。
考える。
「強くて」
「うん、うん」
「かっこよくて」
「うん、うん」
「すごいやつ!」
沈黙、ロイグは少し考えて総括する。決して、呆れない。決して煽らない。決して笑わない。クリフは段々とリラックスしている自分を感じる。
「つまり、まだ何も決まってないね」
「……うん」
クリフは項垂れる。するとアル・アジフが静かに前へ出た。
「問題ない」
少女型アル・アジフは目を閉じる。
《検索》
《戦闘兵器》
《教育資料》
《旧世代兵器》
その中で子供、それも男の子に人気のあった古いデータを参照。
《星防機》
《映像データ確認》
《編集のち再生開始》
「クリフ、始まるみたいだね」
「何が?」
「まぁまぁ、見てごらんなさい」
ロイグにそう言われクリフは静かに待つ。
コクピット全体が暗くなる。次の瞬間、全天位モニターに三機の巨大兵器が宇宙空間へ現れた。
一つ、赤。
一つ、黄。
一つ、白。
それぞれ異なる武装を持つ機体、それらは高速戦闘型、重装甲型、砲撃支援型。
「ほぉ……これはいい」
「うん、カッコいい」
ロイグの目が少しだけ大きくなる。クリフなど口を開けたままだ。三機は敵集団へ突撃し、それぞれが役割を果たす。圧倒的な力で敵を捩じ伏せていく。
しかし映像はそこで終わらなかった。
敵は三機を脅威と思ったのか、巨大兵器を投入してきたらしい。三機の攻撃を受けてもびくともしない。
「ふむ、これはピンチってやつだねぇ」
「うんうん」
ロイグとクリフはモニターに釘付けだ。そんな二人を見ていると、アル・アジフは自ら見せている映像だが少しもやっとした。
三機が互いに接近する。装甲が展開する。形状が変わっていく。腕に、脚に、背部ユニットが次々と組み替わり、一つの巨大な機体が完成する。
ロイグが立ち上がった。
「うおぉぉ! これはイイ! これはイイよぅ!」
無表情ながら興奮しているロイグに釣られてクリフも立ち上がる。
「すげぇぇぇ!」
アル・アジフは少しだけ誇らしかった。かつて、自分たちが作られる前の軍事兵器群。そしてそれらのデータを元に再編集した映像。とはいえ何か納得がいかない。
「これは星防機。我ら星葬機が開発される以前の主力兵器。状況に応じて組み替えることで様々な戦場へ対応した」
「「へぇぇぇぇぇ……」」
二人は返事をしているのか感動しているのか分からない声を出している。そりゃもう、食い入るように飛行形態、超重戦車形態、高速強襲形態。支援砲撃形態、映像が切り替わるたびに歓声が上がる。
「もう一回」
ロイグが言う。
「了解」
アル・アジフは再生する。
「お姉さん、もう一回」
クリフは懇願する。
「了解」
二回目、三回目、四回目、五回目……七回目…………十回目。
少女型アル・アジフは思考した。
おかしい、おかしすぎる!
何故だ? 我の方が圧倒的に強い。
火力も、装甲も、演算能力も、出力、航続距離、継戦能力、自己修復能力、全てにおいて星防機という旧型を大きく上回る。
なのに、二人は旧式兵器を見て、こんなにも楽しそうに笑っている。
理解不能……演算開始。
結論。
「ロイグ。我の方が高性能だが」
「そうだねぇ」
ロイグはその事を知っているから即答した。状況判断を続ける為にアル・アジフは言う。
「我の方が強い」
「うん」
「我の方が優秀」
「うんうん」
ロイグはしっかり認めてくれている事アル・アジフは少しだけ胸を張る。
しかし……
「でもさぁ」
ロイグは映像を見つめたまま笑った。
「合体って、かっこいいよねぇ」
「うん!」
クリフも勢いよく頷く。
「すっごいかっこいい!」
アル・アジフは黙った。
演算……再演算……さらに演算。
色んな時代の子供達も合体に目を輝かせ、心を躍らせていた。
そして。
「……否定はできないか」
ロイグは無表情のまま口元を緩ませる。そう、これは動画を楽しんでいた時間ではあるが、進むべきロードは“ちびっこゴーレム相撲“なのである。
「じゃあ決まりだね。クリフ」
「うん!」
クリフも力強く頷く。目を瞑ったままロイグはクリフに手を向ける。それは動画の中で三体の機体を動かすパイロット達に指示を出していた司令官の真似。それを見たクリフはロイグ、アル・アジフに敬礼、そして宣言した。
「三体合体ゴーレムを作ろう!」
その言葉にロイグは目を瞑ったまま親指を立て、それを見たアル・アジフも静かに頷いた。
「了解。これより設計を開始する」
こうして、少年二人が思い描く「最強で、かっこいいゴーレム」の輪郭が、少しずつ形になり始めた。
目を開いたロイグ、先ほどの動画の世界観に浸りながら言う。
「僕らは、明日・ナナフタマル。ニカゴスの門の前に集合、素材収集任務を開始するよ」




