第8話 ゴーレム相撲にエントリーすると社長の息子に喧嘩を売られた件
プラニカゴスペルの街には、親から子に、そしてさらに子にその子へと昔から語り継がれている物語がある。
悪しき魔女が作り出した巨大な魔神、岩と鉱物だけで構成された身体。大地を揺らし、街を破壊するためだけに生まれた存在。
その名は、ノコッテ・ノコッタ。
魔女は巨大な魔神へ向けて叫んだ。
「発気(魔力)よき! ノコッテ・ノコッタ!」
それが、後の時代に子供達のゴーレムを使った遊びとして残った。
はっけよい。
のこった。
のこった。と
そんな昔話を、出会った翌日、ロイグとアル・アジフ、そしてクリフ少年は目を輝かせて広場の人形劇を見ている
「それでね、その魔神を倒したのがプラニカゴスペルなんだよ!」
「ほうほう。つまり、この街を守った伝説のゴーレムってことだね」
ロイグは興味深そうに頷く。アル・アジフは静かに街の人々が作った人形芝居を見ていた。
巨大な岩の魔神、それに立ち向かう薄紫の巨人、人々の歓声、またたく間にノコッテ・ノコッタをひっくり返しそして、勝利。
子供向けに簡略化された演目。
しかし。
《検索》
《プラニカゴスペル》
《該当》
《星葬機識別名》
アル・アジフの内部データが反応する。
プラニカ・ゴスペル。星葬機、別名・星を葬る歌。青と薄い紫のカラーリングを施され星葬炉が正式に採用された機体。
それはゴーレムなどではない。魔力で動く人形でもない。銀河規模の脅威に対抗するために作られた、超文明の最終兵器。
ただし、この記録には一つだけ補足が存在する。
恐らく当時、この惑星を狙っていたネブラ・ヴァイラスを討伐するため、この機体が偶然この星に飛来したんだろう。そして、運悪くそこに居合わせた魔女が街を襲っていた。
それを見た契約者がその状況に対して判断しプラニカ・ゴスペルで戦った。
結果として、魔神ノコッテ・ノコッタは消滅しただろうと仮定。
それだけの事、恐らく契約者が正義感の強い人物だったのだろう。
アル・アジフは人形芝居を見る。人々はそれを神が作りしゴーレムと呼ぶ。
そのゴーレムの中の人を英雄と呼ぶ。
しかし、アル・アジフの知る記録では違う。
れっきとした兵器であり、人が作りしもの。それがプラニカ・ゴスペルだった。
「アル?」
ロイグの声で、アル・アジフは思考を戻す。
「どうしたの? ずっと人形劇見てたけど、面白かった?」
「いや、問題ない」
アル・アジフは答える。
「ただ、この世界における記録と実際の記録に差異が存在すると仮定した」
「?」
「いや、なんでもない」
ロイグは首を傾げる。そしてすぐにクリフへ向き直った。
「それで、そのゴーレム相撲っていうのは面白そうだね?」
「あ、うん!」
クリフの表情が明るくなる。大会の内容は単純だった。自分でゴーレムを作り、戦わせる。危険な武器や魔法等を搭載していなければ基本的にはどんな武装を持っていてもいい。
優勝した者には一年間、街の屋台を利用できる特別な券が贈られる。子供からすればそれはもう特別なチケットだ。
アル・アジフは内容を確認する。
《解析》
《魔力による鉱物等で作った人形を制御する競技》
《戦闘能力測定》
《勝敗判定あり》
つまり。
「競技用兵器か?」
「違うよ」
クリフが即座に否定した。
「ゴーレムだよ」
アルは一瞬停止する。分類としては戦闘能力を持つ。しかし、この世界では兵器ではない。
そこに新しい情報が追加される。
「なるほど」
「お姉さん分かった?」
「完全ではない。しかし、新しい分類として記録する」
クリフは嬉しそうに笑った。その様子を見て、ロイグも笑う。アル・アジフが難しい言葉を作って新しい事を知ろうとするのは二人からしても面白い。
大会受付の時間、そこには多くの子供達が集まっていた。その中で一際目立つ少年がいる。
ダミアン・シールドマーケット。
大手武器屋チェーン・シールドマーケットの息子。高価な材料を用意し、パーティーメンバー、というか子分みたいな数人の取り巻きを連れている。
「おい、クリフ!」
呼ばれて、クリフが振り向く。
「お前も出るのか?」
「うん」
「お前じゃ無理じゃない?」
悪意というより、子供特有の残酷な自信。アル・アジフはそう分類した。ダミアンはロイグを見る。
そして、その隣にいるアル・アジフを見る。
「へぇ」
「エルフと、珍しい服の女の子か、クリフは嘘つき野郎だぜ。そんな奴といるより、俺達と最強のゴーレム作ろうぜ!」
「「もぐもぐもぐもぐ」」
ロイグとアル・アジフは人形劇屋で売ってた千切り飴なる駄菓子を食べながらダミアンを見つめる。
「みんな魔法使いや有名なゴーレム技師に手伝ってもらうけど、俺のところは違うぜ! ゴーレム相撲大人の部の毎年優勝しているチームが制作してくれるんだ! どうだ! 凄いだろ?」
ダミアンさん、凄いです! と子分達が声をあげ、ダミアンは満足そう。
「「もぐもぐもぐもぐもぐ」」
“ちびっ子ゴーレム相撲“とか言いながら、大人が作っているのかとアル・アジフは考える。実際、親父ゴーレムと揶揄され、毎年子供が作ったゴーレムなんて出てこない。
クリフは俯く。
毎度この手の嫌がらせを受けてクリフの周りから友達が減っていった、今となっては何をするのも一人だった。そして、社長の息子であるダミアンに逆らえる奴はそういない。
また二人もいなくなってしまうのか?
そんな中ロイグはダミアン、そして彼の仲間たち、それからクリフを見ると千切り飴を食べ終えてこう言った。
「ごめんね」
いつもの無表情。しかし、アル・アジフには分かる。
これはロイグが断る時の顔だ。
「僕はクリフのゴーレム制作を手伝おうと思うんだ。君とはまた今度ね」
拒絶なんて大人からも子供からもされた事がない、拒絶するのはいつだって自分であり、他の奴じゃない。その言葉に、ダミアンの顔が赤くなって行く。
「なんでだよ! 俺の誘いを断って……後悔するからな! 俺のパパはシールドマーケットの社長なんだぞ! 関係のある商店は全部俺の家を優先するんだからな!」
「へぇ、そりゃ凄いね」
事実、大きな商人は貴族並、いや、貴族以上の影響力があったりする。くそど田舎に住んでいるエルフのロイグに知る由はない。
その後悔するという問題は、その日の午後に起きた。
とりあえずクリフの手持ちで街にある道具屋に材料を買いに行った。
「悪いねぇ、売れないんだ」
素材や、鉱物屋とどの店でも同じように断られる。クリフは何も言わない。ただ、少しだけ悲しそうな顔をしていた。
アル・アジフは周囲を分析する。確実に原因はダミアン、バックの影響力、そして商店への圧力。
「子供同士の問題に、大人が介入しているという事か」
アル・アジフが呟く。ロイグは小さく息を吐いた。
「……はぁ、やんなっちゃうね。子供同士なら、同じ条件で勝負できたのにね」
クリフを見る。クリフの目は怯えているようにも見える。師匠であるロイグが諦めたらそこで終わり……しかし、アル・アジフは知っている。ロイグが諦めるなんて事を言うはずがない。……とそのくらいアル・アジフの中でロイグは美化されている。本来ロイグは諦めもするし、興味のないことには感心すらしない。
でも今回は興味のある事、当然ロイグは笑った。
「本当は《《同じ土俵》》で競わせあげたかったんだけど仕方ないなぁ。面倒臭いけど材料集めに行こうか?」
「材料?」
アル・アジフが尋ねる。
ロイグは頷く。
「うん。作るなら、ちゃんと作らないとね。そして、あの武器屋の《《倅》》、後悔する事になるかもね。僕とゴーレム作り一緒にすればよかったーってさ」
その言葉を聞きながら、アル・アジフは記録する。ロイグは怒っていない。勝とうとしているだけでもない。何ならダミアン一味ですら仲間に入れてやろうとしていた。
「ロイグ、君はどこまで尊いのだ」
「???? どしたんアル」
「いや、何でもない」
クリフが納得できる勝負をするために動いている。その考え方は、星葬機の戦闘記録には存在しない種類の判断だった。
そしてこれからアル・アジフすらも、まだ知らない。
ロイグが言う「《《材料集め》》」が、この世界の常識から大きく外れた中々のアドベンチャーになることを。




