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第7話 エルフの少年は生体CPUの少女にプレゼントを、そして面白そうな事がまた一つ。

「……」


 軽い感じとはいえ、ロイグに注意をされてしまった。アル・アジフは考える。この世界における経済、おそらく貨幣でなり立っているのだろう。発行枚数や鉱物の市場価格を変動させる事は禁止となり、行為そのものが罰せられるような犯罪行為になりうるという事。


 しかし、ここまで来てロイグを喜ばせる事ができないというのはアル・アジフの中ではありえない。超高性能な演算機能をフル回転し、この状況を打開できる新たな解決策を検索。


 数万通りにおける思考、わずか数秒後……代わりになる案が一つアンサーされた。


「では、プランを変更する。プランBへ変更」

 

 箱の中にある硬貨をアル・アジフは触れて形状変化させていく。同じインゴットでも市場に出回っている硬貨の姿ではなく、延べ棒という形を取る事にした。これであれば採掘して手を加えて作ったと言えるだろう。

 次に並んだのは、銅貨二百枚分で作った延べ棒だった。


「……どうだろうか?」


 アル・アジフはロイグを見る。少しだけ上目遣い。これは子供が親に叱られるかを待っている時の反応に近しいかもしれない。ロイグが延べ棒に触れて、うーん、うーんと考えると、ロイグはしばらく考えた。


「そうかー、なるほどねぇー。まぁ……ピリアの森で採れた銅を売るだけならいいか、よし! アル。これを金物屋さんに持って行ってみようか?」

 

 金属の売買自体はロイグにも経験があった。色んな場所で拾った剣や鎧、そして防具など。魔物と戦って死した者の持ち物だったのか? あるいは使えなくなって捨てたものなのか? しっかり磨けばそれなりの値段で買い取ってくれる。

 以前、顔馴染みの金物屋でアル・アジフが作った銅の延べ棒を見せた結果、金物屋は驚いた。


「こんな純度の銅、見たことないぞ……」

「ピリアの森だかんね。人が足を踏み入れない場所だし」


 ピリアの森、人里から離れた未開の場所の一つ。そんなところに住んでいるロイグは答えた。

 それだけで金物屋は納得した。


「なるほどねぇ、こりゃいい買い物だ」

 

 銅貨二百枚分の銅の延べ棒は、銅貨百五十枚として買い取ってもらえた。本来でどころ不明の銅の延べ棒なんて怪しい代物なのに、エルフだから、というのは非常に便利な言葉だった。


「アル、当初の予定。生クリームパンを買いに行こう!」

「そうだな」

 

 一つ銅貨五枚。ロイグは十枚の銅貨を屋台の店主に渡して、生クリームパンを二つ購入。ピークの時間は過ぎていたようだが、客足は途切れる事はない。

 適当な場所に腰掛けて、ロイグは生クリームパンの一つをアル・アジフに渡す。

 

「じゃあ、食べよっか?」

「うん」

 

 二人はこれでもかというくらい蜂蜜と生クリームが乗ったパンを大きく口を開けてぱぁく! と齧った。

 普段、甘い物といえば森の果物や、それに砂糖や蜂蜜を足して作るジャムくらい。それも頻繁には食べられるわけじゃない。

 

「うん、やっぱり街でナウでヤングなシティーガールに人気の食べ物は頭がとろけそうになるね」

 

 アル・アジフは、生クリームは実は甘味をつけていない。蜂蜜の甘みが全てなのだが、生クリームの見た目と蜂蜜が混ざり合う事で視覚的にも味覚的にも満足できる代物だと理解。

 店の店主に銅貨よりも大きな貨幣を払っている客をアル・アジフは見逃さない。お釣りの感じからそれは一枚で銅貨十五枚分の価値がある貨幣であると理解。


「アル、お腹もいっぱいになった事で、道具屋街でも冷やかしに行こうか?」

「道具? うん、行こう」

 

 アル・アジフから手を差し出した。頭一個分、アル・アジフの方がロイグよりも身長が高い、街ゆく人々は姉と弟のように二人を見ていた。エルフ特有の美形に少女の方も負けず劣らずの顔立ちをしているので割と目立つ。


 二人は街を楽しんだ。焼き串を食べたり、最近流行りのドリンクを飲んだり、紙芝居に人形劇、そして珍しい道具を見た。


 そんな中、ロイグは一つの店で足を止めた。母親からもらった銅貨二枚の使い道。白と青のリボン。


「アル」

「?」

「これ」


 ロイグはそれをアル・アジフの髪に結んであげる。特に魔力を帯びているわけでもない普通のリボン。されど、ロイグの言葉にアル・アジフは理解が追いつかなくなる。


「これ、アルの色だよね。青と白。人になったアルもこれをつけていれば、巨人の方と同じお揃いだね」


 アル・アジフは結んでもらったリボンに触れる。もちろん戦闘能力はなし、防御性能も皆無だ。

 星葬機としては無意味なパーツと言えるのだが、これは素体のどんな武器やパーツ、機能よりも大事な物であると記録する。


 それがなぜなかは今のアル・アジフには分からない。

 ただ一つ分かる事は、これはロイグが自分への贈り物だという事。それになんの機能もなかったとしても捨てるという選択肢はなく、むしろ最重要パーツと言っても過言ではなかった。


「ロイグ、ありがとう」


 その言葉を言った瞬間、内部記録に、新しい分類がカテゴライズされた。非効率であるという事と不要であるという事は比例しないケースが存在するという事。アル・アジフはロイグにプレゼントされたこのリボンはオリジナルとして保管、そして今後は複製した物を身につけるように命令を実行する。

 とくん、とくんと生体CPU・少女型のアル・アジフにまたしても理解できない反応が全身を駆け巡る。

 すぐにアンサーが出せないパターンとして保存。


「歩き回ると疲れたね? アル、焼き芋食べながら帰ろうか?」

「了解した」

 

 芋という物が直火にかけるとでんぷん質が糖に変わり子供のオヤツにぴったりらしい。科学的観念から見ればアル・アジフは屋台の焼き芋は少し惜しいと考えていた。生の芋を直接火にかけて作っている。

 

「おじさーん。焼き芋二つちょーだい!」

「あいよ」

 

 ロイグが銅貨を四枚支払う。ロイグの母、テミスのお小遣いだけでは街では芋一つしか買えないのかとアル・アジフは学習すると共に、ロイグに最高の焼き芋を食べさせたいと、超高性能な演算システムで科学的に最高の糖度に仕上がる状態のアンサーを出した。

 

「店主、すまないが、焼く前に芋を二つ借りて良いか?」

「何するんだい?」

「この芋を蒸す」

 

 理論上、蒸してゆっくりとでんぷん質を糖に変えた後にしっかりと焼いて芋の蜜を最大限の糖度の仕上がると、古い料理知識読本のデータを参考にする。アル・アジフは手を水で濡らし、芋を手に取ると手の中でマイクロ波を発生させる。ロイグの世界には存在しない電子レンジという調理器具を再現する。

 

「ほぉ、珍しい魔法だねぇ」

 

 この世界では科学のほぼ全ては魔法という言葉で片付けられるという事をアル・アジフは学習する。そして蒸し上がった芋を店主に渡す。

 

「これを焼いてほしい」

「手間なことをするお嬢ちゃんだなぁ」

 

 この時の事を焼き芋屋歴三十年のマタディさんはこう語ったという。

 

“いやぁ、たまげたねぇ。私もそりゃ芋に関してはちょいとうるさいよ? 子供の言う事だから聞いてやっただけだったんだけどねぇ……あの時、エルフの子供とその友達? それとも姉かもしれない。そのお嬢ちゃんに出した焼き芋は完全に私の焼き芋を凌駕していたね? 何故かって? 火バサミで焼き芋をつかんだ時に分かったよ。嗚呼、これが時代かーってね。そこでこの焼き芋を自分のところで作っていいか聞いたんだよ。するとお嬢ちゃん、よくわかっててねぇ。特許を取得するように言ったんだよ! 特許だよ? あの時代に、そして事業が成功した暁には、マージンの要求。驚いたねぇ? 支払ったかって? そりゃ当然だよ。今年は金貨で二十枚、去年なんか三十五枚だよ。損じゃないかって? いやいやいや、あの二人には足を向けて眠れないよ。我が社は今度別の大陸にも姉妹店のオープンが控えているからねぇ“

 

 そんな未来へと続く帰り道。

 ロイグはアル・アジフが焼き芋屋台の店主とそろばんを出して色々難しい話を聞きながら待っていた焼き芋を頬張りながら、ポータルを開く為に適した場所まで歩く事にした。


「わぁああああん! えーん! えーん!」


 二人は街外れで、一人の少年を見つけた。服は少し汚れ、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。

 めちゃくちゃ泣いている。周囲には誰もいないが、少年は多分、何らかの相手に何かをされた感が凄い。犯罪という程ではないが、アル・アジフの過去演算では同世代との喧嘩……あるいは複数人によるイジメの類だろうと判断。


「……」


 ロイグは少年を見る。少年も少し泣き止んでロイグとアル・アジフを見る。ロイグは続いて焼き芋を見る。


 少年を見て、再び焼き芋を見る。ロイグは後ろに焼き芋を隠した。


「ロイグ」

「どうしたのアル?」

「今、食料を優先した」

「うん、そうだね」

「なぜ?」

「焼き芋は大事だから?」


 なるほど、深い! さすがはロイグ、とアル・アジフは超高性能な演算能力を持っているが、ロイグに関しては少し判定が甘くなる傾向にあった。

 

「わーん! わーん!」


 それにしても少年は泣き続けている。そんな少年をしばらく見続けるロイグ、いかな判断をするのか、アル・アジフはじっとロイグの言葉を待つ。

 そんなロイグは少し考えてこう言った。


「何があったのか知らないけどさ」

「?」

「泣きたい時は泣いた方がいいよ」

「……」

「そして、その経験が君を強く、そして大いなる人、大人になるんだ」

 

 うん、深い。そうアル・アジフはその言葉を記録する。何でもかんでも助けるというのは本人の為にならないのだろうと、結論。

 ロイグが帰ろうとすると……少年がロイグの服を掴んだ。ロイグが丁寧に少年の手を解こうとするが、がっちりホールドされている。


「話を聞いて」

「えぇ……それにしても凄い力だね」


 ロイグは無表情だが、これはアル・アジフには分かる。困った時のロイグの反応なのだ。アル・アジフが介入して強制的に少年の手を解こうかと思ったが、ロイグはやむなしという感じでその場に座った。


「じゃあ、お話をどうぞ」


 とロイグが嫌々そう言うので少年は話した。少年の名前はクリフ、十二歳。鍛治作業所で働く父とパン屋さんのパートをしている母がいる。

 

「共働きじゃん! 都会ぃ!」

「これ」

 

 クリフが取り出したのは一枚の手書きのチラシ、それはこのプラニカゴスペルで開催される大会の子供の部。


“ちびっ子ゴーレム相撲“

 

 ソロから五人パーティーまでのチームで期間内にゴーレムを用意して出場。ゴーレムバトルを行い優勝した者には一年間プラニカゴスペルの屋台無料券が貰えるという物。

 

「凄いじゃん!」


 クリフはそれに出たい。ゴーレム製作の方に興味があったのだ。でも仲間に入れてもらえないから出られない。


「なるほど、それは困ったねぇ。それで、僕に何をしろと?」


 ロイグの表情が変わった! とアル・アジフだけは理解できるくらいの些細な変化。ロイグはお人好しではないが、悪い子でもない。


「……手伝って欲しい」

 

 アル・アジフは理解する。クリフ少年の言葉に対して、少し目を瞑ったロイグ、もうすでに答えは決まっているのだろう。ロイグは先ほどまで隠していた焼き芋を半分に割るとクリフに渡す。


 これは……食べ物をロイグが手放すという意味の重さ! 


「よし。これは師弟の杯、もとい焼き芋だよ!」


 少しばかり、そんな焼き芋を与えられたクリフ少年をアル・アジフは羨ましく思う。

 そしてロイグは立ち上がった。


「そうだねぇ、君を」


 拳を握る。

 そして、空の地上を照らす惑星に向かってロイグは指をさす。


「僕がかつて、この地域を守ったという巨人プラニカゴスペルの横綱にしてあげよう!」


 その言葉……巨人、プラニカゴスペル。街の名前が同じであると最初から何度か検索にヒットしていた。

 アル・アジフのシークレット……多くが失われた記録領域が反応した。


《検索》


《プラニカゴスペル》


《一致》


《星葬機識別名》


 


 プラニカ・ゴスペル。別名、星を葬る歌。惑星終焉用機体。アル・アジフの二世代前に生み出された機体名。


 アル・アジフは一瞬だけ沈黙した。

 しかし、些細な事だった。自分もこの地に来たわけで、可能性がないわけではない。


「アル? どしたん? ぼーっとして、話きこか?」


 ロイグが呼ぶ。


「ねぇ、ほんとにどうしたの?」


 アル・アジフは微笑んで答えた。


「問題ない」


 


 今は、ロイグの補佐をしてこのクリフ少年の願いを優先する。最優先事項が決定した。


 それが、プラニカゴスペル“ちびっこゴレーム相撲優勝“

 かつて銀河を救うために作られた兵器が選んだ、新しい役目は優秀で、完璧な現マスターであり友であるロイグを手伝い、たった一人で一週間後のゴーレム相撲に出場するクリフ少年のバックアップ。

 

「ロイグ、クリフ。一つ質問がある」

「なに、なに?」

「何ですかお姉さん?」

「して、ゴーレムとは何か?」

 

 えっ、という顔をするクリフ少年、それにロイグはうんうんと頷いて、教えてくれる。

 アル・アジフはこの答えを予測する。

 

「ゴーレムはねぇ、魔法だよ。アル」

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