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第4話 どんな世界でも少年とスーパーロボットは友達だよな

 星空が輝く夜の森、ロイグはアル・アジフを最初に出会った倒木の前まで連れてきた。適当な切り株に座るロイグ、アル・アジフは正座をしながらロイグを見つめる。

 

「アル、ごめんね」

「謝罪の意図を確認できないが、親としては当然の発言と決断だろう」

「お母さんさぁ、僕がドラゴンゾンビを連れて帰った時とかも同じ感じだったんだよねぇ……とりあえず今日はこれでも食べてよ」

 

 ロイグは苦笑しながら籠を置いた。葡萄酒、焼きたてのパン、森で採れた果物で作ったジャム、どれも集落では貴重なものだった。ロイグができるせめてもの謝罪の気持ち。


 さて、廃棄された。そしてもう戦うべき的も存在しない。この場合、アル・アジフの取れる判断は本来あり得ない契約の終了と眠りつにつく事。

 しかし、再びアル・アジフの予想しない言葉がロイグから返ってきた。

 

「じゃあ、今日は帰るね。また明日来るよ」

 

 アル・アジフの全機能停止命令が停止される。ロイグの言葉を幾何学的な通り考えた結果、ロイグはアル・アジフとの契約を破棄する気がないという事。そしてアル・アジフは廃棄されたわけではなく、家や家周辺の敷地には置けないから仮の配置スペースとしてこの出会った森を選んだという事。

 

「ロイグ、明日も来てどうするのか?」

「どうするって、そりゃ見ての通り僕は遊びたい盛りなわけですよ。だからアルとまた日が落ちるまで遊びに行くのさ。ふふん」

 

 そう言って親指を立てて見せる。ロイグの言葉は、アル・アジフを製作したとんでもない天才たちの理論よりも難しい。


「…………何故?」


 ロイグは笑った。満天の星空を見上げながら、アル・アジフも空を眺める。星空が美しいという人間の感性だけはいまだに理解できないのであるが……そこに答えがあるのか? と一つ一つ可能性を潰していく。今までの会話やロイグの性格から恐らく予想される答え。

 

「僕とアルは《《友達》》じゃんか! それもずっ友じゃん」

 

 予想と的中した答え。ずっとも……永遠に友達であるという言葉、ロイグはそう言って、大きく手を振る。

 

「またね。アル」

「あぁ……また明日。気をつけて家に帰るんだぞ」

「ぎょい、ぎょーい」

 

 集落の方へ、小さな背中が消えていった。分りました。という言葉、御意を若者言葉に変える語彙センス。やはり、ロイグは只者ではないなとアル・アジフは思考する。

 

 そして、ロイグがいない事で訪れる静寂。風が森の木々を揺らす。アル・アジフは内部データバンクへ接続する。

 

《検索開始》

 

――友達。検索結果、一三八億二千万件。定義、共同体、相互信頼、情緒的結合、自己犠牲、契約外行動。

 

……。

 

「理解は完全には及ばないか」

 

 ロイグが残した葡萄酒を分析する。

 エタノール……糖分、有機酸。

 パン……小麦と他雑穀で固く長く保存できる代物。

 ロイグと一緒に採取した果物を砂糖や蜂蜜で煮詰めた物。

 全体的に保存食の色合いが強い。

 栄養価は相当な高カロリー。

 

「本機には有機物の摂取は不要。第一世代から第二世代のファームアップ前までは存在していた機能」

 

 生体炉が完成した第四世代のアル・アジフには必要性ゼロ。そんな事を知らないロイグは置いていった。


「……友達」

 

 未知の概念、完全なる処理は不可能、しかし、明日にロイグがここにやってきた時、これらの食材が手付かずだった場合、ロイグはがっかりするかもしれない。よってアル・アジフは静かに胸部装甲を展開した。

 

 暗いコクピット。そこには、長い年月を経て白く風化した一体の白骨が、操縦席に座ったままだった。

 前契約者、成人女性……星葬機との完全同期に成功し、最後のネブラ・ヴァイラスを倒す為に戦った適合者。彼女は戦いの末、終命印が消え寿命を使い果たし、骨だけを残して眠っている。


 そして今、ロイグとの契約によって、新たな炉心が始動していた。

 

《生体炉、安定稼働》

 

 無限とも呼べるエルフの生命時間、契約によって共有された膨大な生命エネルギーが、星葬炉へ流れ込み続けている。

 通常なら星を一つ滅ぼすほどの莫大な出力・ブラックボックス。万が一、文明を持っておらず文化も持っていない人間と契約したイレギュラーな場合、契約者を育てる為の機能を使う事を選んだ。


 アクセス権限──解除。

 

《封印機能:生体CPU生成》

 

「実行。キリエ・フロイライン。貴殿の身体、借り受ける」

 

 白骨は光となって崩れた。契約者の遺伝子情報、神経配置、脳構造、人格保存領域、すべてを分解し再構築。

 しかし演算結果に異常が生じる。

 現在契約者・ロイグ。

 少年、人格形成途中、保護対象。そして前回の契約者である成人女性の身体情報との適合率が急速に低下。

 補正開始。


 演算。


 演算。


 演算。


 最適解を算出。

 

《生体CPUモデル変更・少女型》

 

 無数の蒼い粒子が集まり始める。

 骨格。

 筋肉。

 血液。

 神経。

 皮膚。

 そして最後に、鼓動。

 

 ――ドクン。

 暗いコクピットの中で、小さな胸が静かに上下した。アル・アジフは、その新たな身体でゆっくりと瞼を開く。

 

 星空が見えた。

 やはり、あれが綺麗な物かどうかは自分には分からない。ロイグが置いていった硬いパンをひとかけら千切り、口に入れた。

 

「……友達」

 

 その言葉だけが、ブラックボックスの最深部に、静かに記録された。演算機能ではなく、アル・アジフが思った事。


 明日がとても待ち遠しいという事。

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