エピローグ ちびっ子ゴーレム相撲から四十年
四十年という歳月は、少年を世界屈指のゴーレム技師へと成長させた。工房の壁には世界大会優勝機の設計図、歴代の弟子達の写真、そして、一枚だけ色褪せた絵。
三体のゴーレム、ドラ、クラ、ロスと無表情ダブルピースのロイグ、そして同じく無表情ダブルピースのアル・アジフ。そして一人だけ笑顔でダブルピースのクリフ。
工房では新聞社の取材が行われている。
「クリフ先生。今日はありがとうございました。」
「いえいえ」
白髪が少し混じった髪、穏やかな笑顔、少年だった頃の面影を残しながらも、今では誰もが知る名工だった。クリフの孫も影響を受けてゴーレム作りをはじめたと笑って答える。
「では最後に一つ」
記者が笑う。
「今後の目標を教えてください」
クリフは少し考え、笑った。
「まだまだですよ」
「え?」
「ゴーレムって、全然完成しないんですよ」
「完成しない?」
「昨日より今日、今日より明日の方がもっと面白く、もっと優しく、もっと格好よく、そう考え始めると終わりがない」
工房を見回す。新型のフレーム、新型の魔導回路、最新式の設備に工具。
そんな物をそろても全部、まだ途中だと言う。
「だから、これからも作り続けます」
記者は感心したように頷いた。名人とも謳われるゴーレム技師のクリフはまだまだ、現役で居続けるという。
「ちなみに今日のお仕事は?」
「ああ、今日は仕事じゃありません」
クリフは笑う。
「ダミアンと、それに旧友と飲みに行く約束なんです」
「えっ、あのシールドマーケット社長のダミアンさんですか?」
「ええ。大会出場のスポンサーはいつもあいつが名乗り出てくれますよ。今年の世界ゴーレム選手権の優勝機体について語ろうって、昔はライバルだったんですけどね。勝って負けてを繰り返して、今では共同開発もしています。よく喧嘩もしますけど。ゴーレムの話になると止まらないんですよ」
楽しそうに語るクリフに記者も笑う。
「先ほど最後と言いましたがそういえば、プラニカゴスペル伝説についても伺いたいのですが、当時目の前で目撃したと聞いています」
「ああ」
クリフは工房の奥を見る。そこには一枚の絵画、黄金に輝く巨神。
「あれ、本当は黄金じゃないんですよ」
「え?」
「青と白なんです」
「夕日に照らされて黄金色に見えただけなんです。でも、黄金の巨神っていう方が格好いいでしょう? だから、みんな黄金で描いちゃうものだから、そっちが定着しちゃって、ふふっ、おかしいでしょう?」
記者は思わず笑ってしまう。
「確かに」
「伝説なんて、そんなものですよ」
その時だった。工房の外から、聞き覚えのある声がした。
「くーりーふー! あーそーぼー!」
「我とロイグが来た」
クリフは一瞬だけ目を丸くする。そして、昔とまったく変わらない笑顔になった。
「……来たみたいです」
記者が首を傾げる。
「お知り合いですか?」
「ええ」
クリフは立ち上がり、工房の扉を開ける。そこには、緑色の髪を揺らす少年。その隣には、青と白の髪をした少女。四十年前と、何一つ変わらない姿。
「やぁ、クリフ。久しぶりだね」
「……うん」
クリフは少しだけ笑って、答えた。
「待ってたよ。夜にはダミアンも来るよ」
「おー、社長の倅かー」
「もう社長で倅も孫もいるよ」
「そいつはめでたいね。今度なんかあげようかな」
記者は呆然とその光景を見つめる。
「先生……その子達は?」
クリフは照れくさそうに笑った。
「古い友人ですよ」
「あっ!」
記者はクリフの幼少期、ゴーレム相撲で優勝した時の写真に映る無表情でダブルピースをしている二人、そして笑顔でダブルピースしている幼少期のクリフ、それを見て「あっ!」と驚愕。
工房の扉が閉まる。中から聞こえてくるのは、昔と変わらない三人の笑い声だった。
――ゴーレムは、人と人を繋ぐ。
そうしてプラニカ・ゴスペルの新たな伝説は、今日も静かに語り継がれ続いていく。




