第18話 だから僕らは呼ぶんだろう! せーの! 星葬機アル・アジフ!
第四世代星葬機アル・アジフが目を覚ます。森が揺れ、大気が震える。ロイグは迷いなくコックピットへ乗り込む。
「うん、こっちのアルは久しぶりだね?」
「我、起動せし」
ロイグの終命印が赤く輝き、巨神は一歩踏み出す。人の寿命を吸って動く星葬機、人によっては呪いの兵器と言われてきたが、ロイグの寿命をもし使い切ろうと思えば惑星を4000回破壊するだけの力を使わなければならず、ほぼ無限のエネルギーと言っても過言ではない。
その一歩だけで森を抜け、次の瞬間には空へ、亜高速飛行、すぐにプラニカゴスペルに到着する。街へ避難する人々は空を見上げる。二度目の何かが雲を突き抜けてくる。それも今回はかなり巨大だ。
青と白の装甲は夕日に照らされ、黄金色へ輝いて見えた。
「……あれは、まさか!」
「あれが……あの!」
「来てくれたんだ! 伝説の巨神だ!」
誰かが叫ぶ。その声は街中へ広がっていく。子供も、老人も、全員が空を見上げる。クリフだけが、ロイグとアル・アジフが助けに来てくたことに胸が熱くなった。この星葬機アル・アジフは今回エルフの集落ではない場所に来た為、各国、そして勇者一行、さらには魔王城でも観測される事になる。
アル・アジフ着地。
その衝撃だけでノコッテ・ノコッタが振り返る。アル・アジフの姿を見た時、ノコッテ・ノコッタは千年以上前の怨嗟を思い出したのか、巨大な拳が振り下ろされる。大きさで言えば、ノコッテ・ノコッタは星葬機アル・アジフより二倍以上大きい。されどアル・アジフは片腕だけで受け止めてみせる。そして、ビーム兵器で腕を落としてみせた。
避難している住民達から歓声が湧き起こるが、
「マジン……ノコッテ・ノコッタハフジミ」
と腕が再生、そしてさらに攻撃をしかけてくる。石畳が沈む。そして生体CPUとは比べ物にならないフルスペック状態でアル・アジフは演算開始。
《敵質量算出、自己修復確認、撃破方法多数、市街地被害予測、地上戦において全案却下》
アル・アジフが静かに言う。
「ロイグ」
「うん? どしたん。僕の事はいいから、どーんとやっちゃって」
「ふむ、この場で葬ることは容易だが」
「だが?」
「戦略核、ハイパー荷電粒子砲、終局砲、ブラックホールシュート、どれを使っても共に街が消滅する」
ロイグは頷く。
「だよねー。そんな感じしてたー。勇者様や魔王様とかでも多分、そうなっちゃいそうなんだよねー。どうしよ? なんとかできる?」
「任せろ」
そこで背中に四基装備している随伴機が分離し、重力制御で一気にノコッテ・ノコッタを宇宙空間にまで引きずりだしてトドメを指す戦術を予測。
しかし。
《出力不足、敵質量過大、持ち上がらない。最低、もう一機、星葬機の力が必要》
「どしたん? アル?」
「パワーが足りない……あと少し、地上からやつを引き剥がす事さえできれば」
初めて演算結果が失敗する。
その時、ロイグが街へ振り返る。毎日のようにコクピット内で動画を見ていたロイグは中の操作も手慣れたもので、拡声器機能のボタンをポチっと押すと、あーあーとマイクのテストをしてから。
「みんなー。ちょっとだけ手伝ってー! ノコッテ・ノコッタを空に連れ去るのに持ち上げる魔法使ってほしいんだけどー」
街の魔導士達や魔法を使える人々は最初きょとんとする。
「え?」
「今?」
「俺達が?」
クリフが最初に走る。
「お願いします!」
クリフがお願いすると一人。また一人。大会へ出ていた魔導士。工房の職人。冒険者ギルドに在中していた冒険者達、学院教師、魔法学校に通う子供達まで、魔法陣が街中へ広がる。
「浮け!」
「持ち上げろ!」
「風を!」
「土を!」
「重さ変動!」
アル・アジフは再演算開始する。
《外部魔力供給確認、重力補正開始、出力回復、成功率上昇》
ノコッテ・ノコッタが初めて浮く、巨大な身体がゆっくり空へ、アル・アジフは片腕で掴む。随伴機最大出力、一直線に成層圏へ。
そこからは宇宙、ノコッテ・ノコッタの中から魔女の声。
「マタシテモ、マタシテモジャマヲスルカ、スベテガニクイ、コノマチノニンゲンハアクバカリダ」
この街の人々を悪と言った。アル・アジフは少し考える。
演算、秒で終了。
「否。根拠なし、悪が他者を悪と言うな」
魔女が怒鳴る。
「ワタシハ、マエモ、キョゼツサレタ!」
「事実確認、否。侵略に対して、対処をしたにすぎない。論理破綻」
魔女とアル・アジフのレスバはすぐに終わる事になる。魔女は言葉に詰まる。
さらに、声もクリアになる。再生が追い付いてきたのだろう。
「師匠にも捨てられた」
「否、ロスウェルの元から弟子の方が出ていく。ロスウェルの修行は地味で時間がかかるからと結論」
「くそう、くそう。誰も私を認めない、誰も私を、故に私は世界を恨む!」
「対象設定過大。八十億以上を一括処理する思考は非合理。ここからは、我の今まで契約してきた人の言葉で言ってやろう。お前、馬鹿なんだな? 愚かな者よ」
完全に論破される。そして、今までの契約者達の思考や言葉を借りて最後は煽る。
それに魔女は絶叫する。
「黙れえええええ!」
稲妻を圧縮。巨大な雷の破壊魔法。これだけでも街で放てば甚大な被害をもたらすだろう。
しかし、アル・アジフは動かない。電気が装甲を撫でるだけ、なんならアル・アジフのエネルギーとして吸収される。
「終了か? 愚かな者よ。星を葬る我に、その程度の雷ではそよ風にも満たない」
コクピット内でもぐもぐと屋台で売ってた蒸しパンを齧りながらロイグが拡声器を使う。
「ねぇー、ロスウェルの元弟子、聞いてる? 僕は殺生は嫌いなんだ。もう悪い事しないで、眠りにつくなら許してあげるよ? どう? 中々悪くない取引だと思うよ? おかーさんのジャムもつけてあげよう」
この取引は成立しないとアル・アジフは結論を出していた。そして、この取引にノコッテ・ノコッタの中にいる魔女の念は応じないだろうとも。
「黙れ、前も同じ事を言った! 決めるのは私だ! お前じゃない!」
「そーですかー、ダメだなこの人……自分の立場をまるでわかっていらっしゃらない。アル、可哀想だけど送ってあげようか?」
「分かった」
静かに武装選択。
格の違いを教えてやる為に同じ雷のハイパー荷電粒子砲でも良かったが、確実に消滅させる物を選んだ。それは原子核破壊を起こす攻撃で、ラグナロクを除いて、星葬機の中で三番目に強力な攻撃、魔法という未知数の技能で作られていたとしても魔法もろとも葬る事が出来る可能性99%を叩き出していた。
《終局砲、終命印使用率 二十五%、照準固定》
魔女はようやく恐怖する。
「も、もう一撃。より強力な魔法で」
アル・アジフが遮る。
「チャージなどさせるものか。愚かな者よ。チリ一つ残さず。消滅するがいい。オブリビオンキャノン。シュート!」
アル・アジフの胸部装甲の前に圧縮されたエネルギーがパッと光る。
終局砲と呼ばれた存在全てを破壊し尽くす光は何重にも貼られた魔女の魔法防御、当然魔法攻撃ではない。原子破壊の前には魔法という力の根源すら叩き潰し、ノコッテ・ノコッタに直撃する。魔神は消滅し、魔神を構成していた魔導炉も飲み込まれ、そして魔女の意思、呪い、断末魔すらその一撃はかき消した。
魂すら残らず全部まとめて光へ飲まれる。
静寂、星空だけが残る。アル・アジフはゆっくり街へ降下する。
街は無傷とは言えないが被害は最小限に押さえる事ができた。人々は誰も言葉が出ない。
やがて、一人の子供が叫ぶ。
「伝説の巨神だーーー! ノコッテ・ノコッタをやっつけてくれたんだーー!」
歓声。
拍手。
泣き声。
笑い声。
その光景をアル・アジフは静かに記録する。そして、ノコッテ・ノコッタを封印していた場所から二世代前のメンテナンスマシーン“リペアット“が転がっていた。アル・アジフの時代の物と比べて二倍以上大きいが、このリペアットの物質バッテリーを使って封印を半永久的に持つようにしていたらしい。しかしその物質バッテリーのパワーが落ちたのと、魔法による刺激で起きたのだろう。アル・アジフは何かに使えるかとリペアットを回収する。
《記録完了 プラニカ・ゴスペル伝説 更新》
そのまま、人々の歓声の中、星葬機アル・アジフはピリアの森に飛び去っていく。
そしてリペアットを近代化改修し乗り物として使えるようにアル・アジフが組み直すと、それに大いに喜んだロイグ。
「これはいいねアル、実にいい! 最高だよ」
「そうか、それは良かった! 少し、我に乗っている時より嬉しそうなのが少し納得がいかないが」
「これはこれ、アルはアルだよ」
ちょんと額を指で押されると、なんとも言えない気分になったアル・アジフはリペアットと自分の乗り心地の良さの決着はまた別の機会に回す事にした。
そんなロイグはリペアットに乗りながら自宅に帰る。またロイグが妙な物を持って帰ってきたと話題になる中帰宅した際、母テミスの一言。
「なんだいそりゃ、絶対。街の物だろ? もう! もとあったところに捨ててきな」
「お母さん、不法廃棄はですねー。環境問題がですなー」
「そんなの森の精霊が勝手に分解して消滅させるわよ! つべこべいわずに行く!」
という事で、ロイグは再び、アル・アジフの元へ、今は素体、生体CPUそしてリペアット。周囲を見渡して、ロイグは言った。野ざらし雨ざらし、友達が濡れるのも汚れるのもよくないと思う。
「ここにアルの家を作ろうか?」
「基地か? ならば設計図からだな」
「おー、ノリ気ですなー」




