第17話 ニカゴス最大の危機、復活の超大型魔神ゴーレム・ノコッテ・ノコッタ
決勝戦の熱気は、まだ競技場を包んでいた。
優勝したクリフを囲み、子供達は興奮したまま三体合体ゴーレムを眺めている。大人達も笑顔だった。子供の大会とは思えない技術、そして誰もが未来のゴーレム技師の誕生を喜んでいた。
これから次はレギュレーションがさらに上がり、大きな魔法や魔法武器も使える大人の大会が始まるというその時だった。
地面が揺れた。
最初は、小さく。やがて建物の窓ガラスが震え、石畳が軋み始める。歓声は止み、人々は一斉に足元を見る。
「……地震?」
誰かが呟く。
しかしアル・アジフだけは違った。少女型の瞳へ警告表示が走る。
《地下深度、再調査開始、人工的な地震? 地震兵器の類か? 否……なんらかの移動反応確認、巨大質量確認、地上に上昇中、上昇速度増加……警告……警告、地下構造物崩壊》
次の瞬間だった。競技場の中央が爆発する。石畳が吹き飛び、土煙が空高く舞い上がる。
人々は悲鳴を上げた。その煙の中から、巨大な腕が現れる。
それは邪悪な空間から何かよくない者が現れるように、続いて肩、胸部、頭部。
ついには全身がゆっくりと地中から姿を現したそれは、もはやゴーレムではなかった。
それは人型の山だった。いや、街そのものより巨大なゴーレム。頭部だけで時計塔ほどの高さ。胴体は統計塔を見下ろし。
腕は一本振るだけで建物を薙ぎ払える。誰も動けなかった。実況席から震える声だけが聞こえる。
「ま……魔神……」
古い伝承。プラニカ・ゴスペルが築かれる以前、街を滅ぼそうとした魔神。誰も本物を見たことはない。
その存在が今、目の前に立っていた。その巨大な口がゆっくり開く。
「……ニ……クイ……」
地鳴りのような声だった。
「ニンゲン……ドモ、アノキョジン」
その声に乗っている感情はあまりにも大きな恨みと怒りしかなかった。
「ゼンブ……コワス」
その瞬間、街中の空気が凍り付く。アル・アジフの演算装置が結論を出した。
《対象確認、魔神型超巨大ゴーレム、名称照合一致、かつて星葬機プラニカ・ゴスペルと戦闘し葬られた存在、復活? 魔法による現象と仮定、名称ノコッテ・ノコッタ、危険度、都市滅亡級》
大人達が動く。
「ゴーレムを出せ!」
「止めろ!」
大会へ出場していた大型ゴーレム達が次々と前へ出る。選手の子どもたちのゴーレムも総動員。だが、大型ゴーレムといえど、目の前のノコッテ・ノコッタを前にすると虫ケラくらいのサイズ感。
ギガガース。
マギルスター。
グラディゴラス。
さらに大人達の工房から運び出された競技用大型ゴーレム。
十数体。一斉に突撃する。
しかし、ノコッテ・ノコッタは腕を振った。ただ、それだけだった。
轟音、鉄が折れる。魔法障壁が砕ける。巨大ゴーレム達が紙細工のように吹き飛んだ。
さらに、砕けた部品が、魔神の身体へ吸い込まれていく。
《自己修復、自己増殖、敵機吸収能力確認。本来のスペックより現時点は相当低いと予測。星葬機の攻撃を受けて完全崩壊していない時点で、最初期スペックは相当な物か》
アル・アジフは静かに結論を更新した。
《この街の通常戦力では撃破不能》
人々は逃げ始める。子供を抱える母親、老人を支える若者、泣き叫ぶ子供達、その全てを見ながら、魔神は笑った。
「ニクイ。ニクイ。オマエタチモ。ゼンブ。ナクナレ」
その声の主は一人の魔女の怨嗟だった。数百年。いや、もしくは千年かもしれない。封印され続けた呪いだけが、今もなお魔神の中で生き続けていた。あのロスウェルの元弟子とは到底思えない心の醜さ。
アル・アジフはロイグを見る。
「ロイグ、あれはもう……」
「そうなんだよねー、困ったねこりゃ」
ロイグはいつも通り無表情。そして静かに頭を下げた。
「……ごめんね」
「? なんの謝罪か意図が不明」
「僕は君が戦うのはあんまり好きじゃないんだ。あのゴーレム相撲みたいなのは好きなんだけどねー」
アル・アジフは理解する。
ロイグも、同じ結論へ到達していた。この質量、この再生能力、この耐久性能、これを被害を最小限に速やかに排除できる存在はこの惑星に数多くはないだろう、その中でアル・アジフもロイグもそれを可能にするのが第四世代星葬機アル・アジフに至った。
アル・アジフは静かに答える。そして、街を見る。子供達、クリフ、ダミアン、その取り巻きやゴーレム相撲に参加したもの、観覧していた人々、ドラ、ロス、クラ、悔しく涙し、楽しく笑い合っていた人々。
「問題ない。我もまた。皆で作り上げた、この祭りを壊されることは」
演算を行う。適切な単語を検索、そして見つけた。
「極めて不快だ」
ロイグは無表情のまま少しだけ口元を緩ませた。
「……うん。そうだねぇ。やっぱり君は、僕の最高の友達なんだな。じゃあ、やりますか?」
次の瞬間、転移魔法陣をロイグは呼び出す。行き先、ピリアの森、出番を今か今かと待ち眠り続ける青と白の巨神、もとい。星葬機アル・アジフの元へ、森全体が白く輝き始める。素体の元に行くとアル・アジフは機体に触れる。生体CPUから、素体への意識転送開始。
《リンク開始、第四世代星葬機アル・アジフ、主機体、起動》
青と白の巨神が、静かに瞳を開いた。そして少女型のアル・アジフは代わりに眠るようにピリアの森で目をつぶり二人の帰りを待つ。




