第16話 それは、良くある事だったり、主役級とはこうあるべきとか言われる奴で
決勝戦までの短い休憩時間。クリフはドラクラロスの各部を確認していた。
人工精霊ロスは元気そうに飛び回り、ドラは胸を張るように立ち、クラは触手を器用に動かして関節の調整を続けている。
その時だった。
「よう」
数人の少年が近付いてくる。ダミアンの取り巻きだった。ダミアン側はゴーレムの調整を専任の大人のスタッフが見ているのだろう。
「決勝まで来るなんて運が良かったな」
笑いながら言う。ロイグは露天で売っていた焼き栗をもぐもぐと食べながらそんな彼らを見ていた。
「でもさ、お前が勝ったら困る人がいるんじゃないか?」
クリフは首を傾げる。
「お前の父親さ」
一瞬。
クリフの表情が止まる。
「ダミアンさんの家って知ってるよな」
「……」
「お前の父親が働いてる工房、あそこ下請けだろ?」
誰も返事をしない。これは遠回しの牽制を仕掛けてきている。実に卑怯だなとアル・アジフは思うが、ロイグは次々に焼き栗を剥いて食べていた。
「もしダミアンさんが負けたらさ」
取り巻きの少年は肩を竦める。今までもこういう嫌がらせを何度も何度も行ってきたのだろう。手慣れすぎている。
「仕事、どうなるんだろうな? じゃあな、決勝。情けない負け方するんじゃないぞ? ダミアンさんの勝利を飾るように負けるこったな」
言いたいことは、それだけだった。彼らは笑いながら去っていく。
クリフだけが、その場へ立ち尽くした。アル・アジフは会話を全て記録していた。
《精神攻撃、目的・競技前における集中力低下、成功率……高》
アル・アジフはロイグを見るがロイグは何も言わない。一つ前の契約者、キリエ・フロイラインであれば、今すぐにでも彼らを怒鳴りつけただろうなと思う。ロイグはアル・アジフとクリフに焼き栗を食べるように向け、静かにクリフの肩を叩いた。
それだけだった。
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二回戦から30分後の決勝戦、会場の熱気は最高潮へ達していた。
「決勝戦!」
「クリフ君対ダミアン君!」
歓声が響く。ダミアンの後ろには巨大なゴーレム・グラディゴラス。
クリフの後ろには三体のゴーレム。
そして……試合開始の合図がなされる。
「三域合体! クラドラロス!」
今度はクラが中央。巨大な触手が全身へ配置され、四肢はしなやかに細く変化する。竜の外皮は必要最低限、耐久と回避を重視した防御形態だった。
アル・アジフは演算する。
《対重量級最適解、継戦能力重視、勝率六十三パーセント》
開始の鐘が鳴る。
ダミアンは笑った。
「行くぞ! グラディゴラス。クリフのゴーレムをぶっ潰せ!」
グラディゴラスの全身へ魔法陣が展開する。それを見た観客達の歓声、相当純度の良い魔法鉱物で仕上げているのがグラディゴラス、見た目の重厚さに対して、魔法適性も極めて高い。
赤。
青。
緑。
黄色。
《身体強化、耐久強化、魔法耐性、反応速度向上》
ロスウェルからもらった魔導書を参考にアル・アジフが魔法の解析を続ける。
《自己強化型、能力上昇を重ねるバフ戦術、戦闘時間経過と共に危険度上昇》
グラディゴラスが消えた。
いや、移動速度が速すぎた。
拳、蹴り、体当たり。クラドラロスは触手で受け流し続ける。
しかし。攻撃ができない。というより攻撃へ転じられない。クリフの頭から、さっきの言葉が離れなかった。
父さん……仕事……もし勝ったら。
もし。
もし。
その一瞬の迷いを、ダミアンは見逃さない。
「そんなもんか! クリフ、少しは楽しませてくれるかと思ったけど、お前と一緒だな! グラディゴラス。無理矢理攻撃を通せ!」
さらに強化魔法が重なる。
「やっぱり変なエルフと!」
一撃。
「変な女と!」
二撃。
「作ったゴーレムじゃ!」
三撃。
「その程度だ! 俺の言うことを聞かないやつは仲間に入れてやらないし。仲間になれない奴が集まったところでそんなもんしか作れねーんだよ!」
その言葉、クリフの中で何かが切れた。自分を馬鹿にされるのはいい。
でも、ロイグを、アル・アジフを、ドラを、ロスを、クラを。
竜の谷のみんなを、ロスウェルを、クラーケン達を、馬鹿にされる理由なんてない。馬鹿にするなんて許せない。
試合前、アル・アジフが言った。
あの言葉。
『自分の誇りを守る時だ』
クリフは腕輪を強く握る。
「クラドラロス! 必殺の突っ張り!」
触手が一斉に伸びる。
一本。二本。三本。十数本。高速で突き出される連続突き。それぞれが独自に動き、しなる。曲がる。避けられない連続攻撃。
グラディゴラスが初めて後退した。防戦一方のクラドラロスの初めての攻撃に会場がどよめく。
「クリフくんのゴーレムが押してる! ダミアン君のゴーレムが! 今度は押されているぞ! 凄い攻防だ!」
ダミアンは歯を食いしばる。その時だった。後ろから取り巻きが叫ぶ。
「ダミアンさん!」
「アレ使いましょう!」
このままだと負ける。ダミアンはグラディゴラスに指示を出す。
「グラディゴラス! 必殺の召喚戦術チャリオット・エンド」
魔法陣が十四枚、同時展開。
光。
光。
光。
そして、その場には十五体のグラディゴラス。それぞれが剣や槍などの武器を持っている。この数で畳み掛けようと言うのだろう。
観客席が騒然となる。
「反則だ!」
「ズルいぞ!」
これには実況もどう説明すればと考えていた所、審判が叫ぶ。結局は優勝する子供が元々ある程度決まっていて、その子供が有利に進むようになっている。ヤジを飛ばす者達を静かにさせると、
「登録名はグラディゴラス十五! 規定違反ではありません!」
これもまたダミアン達が考えたというより大人の悪知恵なんだろう。ダミアンのグラディゴラスは強い。
クリフは息を呑む。
「やれ! グラディゴラス兵団!」
多勢に無勢、グラディゴラスはそれぞれが魔力強化されクラドラロスに襲いかかる。これだけの魔力は、ダミアンだけでなく、取り巻きの少年達から供給されているのだろう。一体であればなんとか勝てるところだったが……
「こんなの……」
勝てない。そう思った瞬間だった。アル・アジフが静かに前へ出る。
「クリフ。俯くな、顔を上げろ」
「え?」
「私たちはワンチームだろう? 今こそ」
アル・アジフは空を見上げた。そして空に指をさす。
「我らの友情の絆を見せる時」
その言葉と同時に、空が割れた。雲を突き抜け、一条の黄金が降下する。
歓声が止まる。
誰も動けない。
黄金の翼、それは小さな機体、背中へ展開された魔力翼。衛星軌道から降下してきた最後のゴーレム。
ミニ・アジフ。ロイグにすすめられてアル・アジフ自身が設計し、ロイグが魔法を組み込み。古代の船の歯車と機構を核に完成させた第四の機体。
静かに競技場へ降り立つ、アル・アジフはクリフを見ると頷く、そしてクリフが命令する。
「最終合体」
四体が動く。
ドラ、ロス、クラ、そしてミニ・アジフ。
巨大な四重魔法陣、光が天へ伸びる。実況すら言葉を失った。
「……何が起きてるんでしょう」
クリフは腕を上げて腕輪をゴーレムに向けて言う。
「四域のクリフオン!」
全身が黄金に染まり、黄金の翼が開く。観客席の子供達は立ち上がった。
「うおおおおお!!」
「四体目!?」
「また合体した!!」
「すげぇぇぇぇ!!」
アル・アジフが眉間に指を向けて処刑ジェスチャーを取るのでロイグが「それはなんかかっこ悪い」と言うのでアル・アジフはむぅと少し唸りクリフに任せる。
クリフは頷く。
「お願い! 僕らの今までも無駄にしたくないんだ。できればダミアンのゴレームでもこれは使いたくなかった」
クリフオンが静かに両腕を構えた。
両肩、両腕、背部、魔法陣が次々展開する。両腕からは四十ミリストーンガトリング・二門。
両肩に鉄屑を稲妻で打ち出すマギドンサンダー(レールガン)・二門。
背部には十センチ陶器榴弾砲・六門。
そして、誇りを守る為にそれらを全門斉射。
轟音!
無数の石弾、陶器弾、魔力で加速された鉄片が十五体のグラディゴラスを飲み込む、シールドマーケット特注の武器をそれぞれ装備したグラディゴラス達はそれらを構え、全ての砲撃が終わり土煙が晴れる。
まさに、圧倒的……魔法と兵器のハイブリット武装。当然、レギュレーション内の攻撃、審判はどうにかクリフの違反を考えるが、この勝負を覆したら十五体もゴーレムを同時展開したダミアン側への炎上が考えられ、運営上部は首を横にふる。
そして立っていたのは、堂々と全武装から煙を上げている四域のクリフオン一体、そして最初に全魔法強化をかけたグラディゴラス一体だけだった。
「クリフなんかに負けるな! いけ、グラディゴラス!」
主人の命令に従おうと一歩、進もうとするが、一歩前に、グラディゴラスに近づく四域のクリフオン、もはや勝負は決していた。
最後の命令を全うしようとグラディゴラスは弱々しいパンチを四域のクリフオンに向けて、そして静かに、土俵の外へ倒れる。
「勝者! クリフ君!! ダミアン君も最後まで熱いゴーレム相撲、みなさん。惜しみない拍手を二人にお願いします!」
歓声が競技場を揺らした。ロイグがパチパチと拍手をするので、アル・アジフはなるほど、お互いの健闘を讃えるのかと真似して拍手をする。
試合が終わり、表彰後……ダミアンはしばらく動かなかった。やがてクリフへ歩み寄る。その表情は恐れ、そして怒りが見える。
「……最初から……」
低い声だった。クリフはこんなダミアンを見た事がなかった。何を言われるのか、トロフィーと一年間屋台無料チケットを手に言葉を待つ。
「そんなもん持ってたなら。俺を馬鹿にしてたのか。最初から簡単に倒せるってよ! 俺を、俺を!」
「違っ」
クリフは首を横に振る。答えようとした時、アル・アジフが一歩前へ出た。
「シルバーマーケット倅よ。それは違う。クリフは盤外戦術を貴様らに仕掛けられていた」
「あ?」
ダミアンは眉をひそめる。アル・アジフが試合前の取り巻きの会話をダミアンに向けた。
「決勝前。貴様の取り巻きがクリフへ精神的揺さぶりを行った。その結果、クリフは本来の性能を発揮できなかった。何度か貴様のゴーレムの隙をつく事はできたし、あれがなければ一対一であれば勝負は、途中まで互角だった。私のミニ・アジフは本来使うつもりはないゴーレム、貴様は貴様の策に負けたのだ」
静まり返る。ダミアンは後ろを振り返る。取り巻き達は顔を青くしていた。十五体のゴーレムで畳み掛けた自分も引け目を感じる部分はあるが、それ以上に卑怯な真似をした仲間だと思っていた取り巻き達。
「……本当か?」
誰も答えない。それは肯定と捉える。
次の瞬間、ダミアンの怒声が響いた。
「お前ら。俺が負けると思ったのか? あぁ? 余計なことしやがって!!」
取り巻き達が肩を震わせる。
「俺は! お前らと、最高のスタッフが作ってくれた最高のゴーレムで勝ちたかった! こんな勝ち方、する気なんかねぇよ! 俺は、俺はなぁああ!」
そしてクリフを見る。少しだけ笑う。
「今回は俺の完全な負けだ……クリフ、水をさして悪かったな。パパはこんな子供の遊びの結果で誰かの仕事を奪うような卑怯な人じゃない、安心しろ」
悔しそうに、でも真っ直ぐに……
「次は。絶対ぶっ倒す」
クリフも笑った。
「うん。ダミアン、今度は僕と一緒にゴーレム作ろうよ」
「やだね」
「そっか……」
「俺がお前に勝ってからだ! じゃないと最強のゴーレムが作れねーだろ。次はクリフオンを俺が倒す」
クリフは手を差し出した。それに恥ずかしそうにダミアンは手を握り、「今まで……悪かった。ごめん」と謝った。
アル・アジフには彼らに今までどんな事があったかは知らないが初めて、二人は対等なライバルとして向き合った。
そう、ちびっ子ゴーレム相撲はこうして幕を下ろすかに思われていた。最後の最後に厄介な者が目を覚ますとは誰も思いもしなかった。




