第15話 まさに動画で見た通り、状況に応じて合体を変えるゴーレム
第一回戦の熱気は、まだ会場から消えていなかった。
三体合体。誰も見たことのない発想、子供達は目を輝かせ、大人達はざわめき続けている。
実況席でも興奮は収まらない。
「まさかゴーレム同士が合体するとは! 特化した素材を後付で組み合わせる事で機動性が抜群です。これは前例がありません! このゴーレム……本当に子供が作ったのでしょうか?」
盛り上げる為に言った最後の一言だけは、誰も否定できなかった。が、しかしそれを言うと他の出場者のゴーレムはまさに関係者の大人が殆ど組んだだけであり、これには実況は上から耳元で注意される。
アル・アジフもまた、静かに周囲を観測していた。
歓声。
驚愕。
困惑。
その中で、一人だけ無表情な少年がいる。ダミアンだった。彼は腕を組み、自分のゴーレムの隣から動かない。その視線だけが、クリフのゴーレムを静かに見つめていた。馬鹿にしていたゴーレムが相当な性能である事を見定めているようだった。
《対象・ダミアン、感情解析。驚愕……抑制……戦術再構築を開始》
アル・アジフは一つ記録を追加する。
《対象は油断を修正した》
そして試合は進む。ダミアンの一回戦。相手は大型の盾を備えた防御型ゴーレムだった。
しかし勝負は長く続かなかった。
ダミアンのゴーレム、グラディゴラスは無駄なく距離を詰め、最小限の動きだけで重心を崩す。
派手な必殺技もない。余計な魔法もない。
ただ、一撃。そのまま相手を場外へ押し出した。
「勝者、ダミアン君! さすがシールドマーケットのダミアン君だ! 無駄のない動き、これぞゴーレム相撲だ!」
歓声が上がる。アル・アジフは静かに解析を続けた。
《情報不足、武装未確認、魔導回路の詳細不明、現時点で性能評価不能》
見えたのは基本性能だけだった。それだけでも完成度は極めて高い。ゴーレム技師が手かげたというだけあり、本当に無駄がない。基本性能だけでいえば異常な素材を使って組み上げたクリフのゴーレムに匹敵、ある意味。競技機体としては向こうの方が上かもしれない。
そして、本当の切り札はまだ見せていない。
そんな印象だけが残った。
そしてクリフの二回戦。クリフの対戦相手は、魔導士の家系として知られる少女だった。
現れたゴーレムを見た瞬間、会場から感嘆の声が漏れる。
細身の機体。全身へ精密な魔法回路が刻まれている。指先から足先まで、一切の無駄がない。
まるで魔法陣そのものが歩いているようだった。カカシのような形状に魔法のローブと帽子をかぶり、魔力浮遊している。
「これはすごい! 魔導特化型に仕上がっている魔法戦用ゴーレムです! 今大会唯一の女の子。ゼイディちゃんと、そのゴーレム。マギルスター」
実況も思わず声を張る。アル・アジフは解析を開始する。
《魔導回路密度、ギガガースを平均として一般競技用平均の三・七倍、魔力循環効率……極めて高い。結論、これも子供による製作とは考えにくい》
試合開始。
「フレイムランス!」
開始早々、無数の炎槍が飛ぶ。ドラクラロスは距離を詰めようとする。
しかし、雷。氷。風刃。次々と中距離魔法が襲い掛かる。
竜の装甲は頑丈だ。
だが、近付けない。クラの触手も伸ばす前に撃ち落とされる。
実況席が叫ぶ。
「完全に対策しています! ゼイディちゃん、第一回戦の様子を見て研究してきました!」
クリフは腕輪を握る。
ロイグを見る。ロイグはいつもと変わらない無表情、そして今回は何も言わない。
ただ静かに頷く。その間もマギルスターの猛攻は止まらない。
「あなたのゴーレムは凄いと思うけど、先手必勝で押し出してあげるんだから!」
誰に聞こえるわけでもなく、ロイグはつぶやく。
「クリフ。もう分かるよね?」
その一言だけだった。クリフは迷わない。
「ドラクラロス! 三域分離!」
会場がどよめく。三体のゴーレムが同時に光へ包まれる。
そして、三体合体が分離されていく。
再び三角の魔法陣形。今度は中央へ立つのは、小さなロス。人工精霊を宿したゴーレムが淡く輝く。
左右へドラとクラが並ぶ。
「三域再合体! ロスクラドラ!!」
眩い光が競技場を包み込む。今度の機体は細身だった。巨大な竜の腕力ではない。
海の柔軟性でもない。
中央で輝く人工精霊を核に、全身の魔法回路が脈打っている。
アル・アジフの瞳へ情報が流れ込む。
《構成変更確認、制御核変更、人工精霊を主制御へ移行、魔力伝達効率。三八%上昇。これは……完全に星防機を模する事に成功。子供がこんな事が……クリフのクリエイト能力は極めて高いな》
これを人は才能と言う。アル・アジフは横でじっと見ているロイグはこのクリフの才能を見出していたのかと一つ疑問を覚えた。
アル・アジフが思考している中、相手のゼイディのゴーレム、マギルスターが先に魔法を放つ。
「アイスランス!」
氷槍、ロスクラドラは片手を上げた。静かに魔法陣が一枚。
障壁魔法を放つ。マギルスターの氷槍は砕け散る。
続いて炎、雷、風。全て受け止める。実況席も驚きを隠せない。
「防ぎ切った! 完全防御です! まさか魔法攻撃にも対応しようとはクリフくん、凄いゴーレムだぞ!」
その直後だった。ロスクラドラの周囲へ二枚の魔法陣が展開する。
一枚ではない。
二枚。
観客席達は大興奮だが、魔法を少し齧ったことがある人々は静かに黙り込む。
「まさか……」
魔導士達が立ち上がる。それは魔導師の中でも才ある者にしか使えない技能、それをゴーレムが使おうとしているわけだ。
「二重展開だと?」
人工精霊が静かに光る。魔法陣が重なる。
炎と風。二つの魔法が一つへ融合する。巨大な火炎旋風が一直線に駆け抜けた。
「ま、マギルスター! 迎撃、きゃああ!」
ゼイディのゴーレム・マギルスターは迎撃魔法を放つ。しかし間に合わない。魔法ごと飲み込み、そのまま場外まで押し流す。最後はクラのしなやかな脚が地面を踏み締め、体勢を崩した相手を静かにトン押し出した。今回もまた相手のゴーレムを壊さない方法で勝ち上がる。
「勝者、クリフくん!」
会場の見物客達の歓声が爆発する。一回戦目の勝利は偶然ではなかったという事。皆、それぞれ大人が作ったと分かってて見にきていたが、今年は違う。とても面白いダークホースがいる。
「また形が変わった!」
「魔法型だ!」
「合体するたびに戦い方が違うぞ!」
子供達の歓声は、一回戦以上だった。
「すげぇぇぇ!」
「次はどんな合体するんだ!」
「どうやって作ってるんだろう!」
アル・アジフは、その歓声を静かに記録する。
《観測結果、観客が期待しているのは勝敗だけではない、未知への期待、変形、合体。我の代では非効率故に使われなくなった技術そして……》
《成長か》
そして、視線を決勝進出を決めたダミアンへ向ける。ダミアンは歯を食いしばっていた。
クリフのゴーレムだけを、じっと見つめていた。そこから導き出される応えは嫉妬か? アル・アジフは思考する。集めた材料の稀少度や性能はクリフのそれが秀でているだろうが、ゴーレム制作に関しては、ドラゴンやクラーケン、魔女達よりも最新の技能やテクニックを用いられている人間側のそれの方が高い。ダミアンのゴーレムにどんな技術が組み込まれているのか不明な時点でアル・アジフは勝率を上手く割り出せない。
《決勝戦 初めて双方が切り札を知った状態で開始される》
アル・アジフは演算装置の記録領域を拡張する。
次の戦いは、これまでとは比較にならない情報量になると予測したからである。
そんな中で誰にも分からない事態が起きようとしていた。大人たちが自らの技術と魔力をふんだんに使ったゴーレム達の攻防はプラニカゴスペルの街だけでなく、その頃。プラニカゴスペルの地下深く、星葬機プラニカ・ゴスペルに葬られ、当時の魔導士達により、幾重もの封印魔法陣に閉ざされた巨大な空洞で、土埃が一粒だけ宙へ舞った。
誰も聞いていない。誰も気付いていない。けれど、数百年止まっていた巨大なゴーレムの魔導炉が、一度だけ脈打った。
――ドクン。
子供達の歓声と、ゴーレム達の魔力共鳴。その全てが、長き眠りについていた古の魔神へ届いてしまったのである。




