第14話 結局子供のイベントに大人が出てきてブームは廃る
ちびっ子ゴーレム相撲、開催当日。
プラニカゴスペルの中央広場には、普段では考えられないほど多くの人間が集まっていた。出場する子供は八人。そして、その八人が連れてきたゴーレムは、明らかに子供が作ったのではないのだろうなという。大人が殆ど作ったであろう丁寧に組まれている所謂親父ゴーレム。
全長三メートルを超える鋼鉄の巨人。巨大な腕を四本持つ戦闘型。魔法障壁を展開する防御特化型。中には、魔導回路を複雑に組み込んだ機体まで存在していた。
観客席から歓声が上がる。
しかし。
その中に、一体だけ明らかに場違いなゴーレムがいた。
小さな身体、丸みを帯びた外装、箒型の杖に乗っている。どちらかと言えば戦うためというより、工房の片隅に置かれている置物に近い。
それが、クリフのゴーレム二号機・人口精霊を組み込んであるロスだった。
当然、目立った。それも悪い意味で……
「……え?」
「これ出場するの?」
「……すぐ壊されない?」
観客のざわめき。そして、その声を聞きつけた少年が近づいてくる。
優勝候補にして、取り巻きを連れているダミアンだった。
「おいおい、クリフ」
以前と変わらない笑み。人を見下すことに慣れた笑顔だった。そんなダミアンが来てもロイグとアル・アジフの表情は変わらず、そしてクリフもまた以前とは違った。
「まさか本当に出てきたのか?」
「うん」
「しかも……それ?」
ダミアンはロスを見る。小さい、魔女みたいに箒にまたがっているゴーレム。
数秒、見つめ合い……そして。
「ぷっ」
耐えきれなかった。
「はははははは!」
広場に響く笑い声。
「お前、本当にそれで勝つつもりなのか?」
周囲の子供達もつられて笑う。今までのクリフは俯いていたかもしれない。だが、嘲笑するダミアンを冷やかに見つめる。
そして、ロスも言わない。
ただ主人であるクリフの隣に立っていた。
「まあいいや」
ダミアンは自分のゴーレムを見せる。巨大な鋼鉄の巨体、ありとあらゆる最新技能が組み込まれていおり、大人のゴーレム相撲に出場してもいい成績を出せるかもしれない。魔導回路も分からないように内部に引き込まれ、武装もわざわざ特注したのだろう。
名前はグラディゴラス。アル・アジフが解析する。継戦能力も高く、速度面にかんしても重量級をカバーするように作られているオールラウンダー型といったところだろう。
「決勝で会えるといいな」
その言葉には、もうクリフが勝ち上がってくる可能性など存在していなかった。
「まあ、無理だろうけど」
そう言い残し、ダミアンは去っていく。
その背中を見ながら、アル・アジフは記録した。
《対象・ダミアン 過去記録との比較 精神状態……優勢時における油断を確認。クリフに執拗に絡む理由……複数の仮説を確認》
そして横を見る。
「クリフ」
「なに?」
「問題ない」
アル・アジフには理解できない。なぜなら、この数日で見てきたからだ。ドラゴン達が笑いながら素材を渡したこと。魔女が人工精霊を託したこと。海の魔物達が協力したこと。
この小さなゴーレム達には、単純な性能では測れないものが詰まっている。しかし、それを説明する言葉をアル・アジフはまだ持っていなかった。
だから。代わりに、ロイグの前の契約者の言葉を借りる事とした。
「人には三つの戦うべき理由がある」
「三つ?」
「あぁ、一つは大切な人を守る時、そしてもう一つは大切な場所を守る時、そして最後。自分の誇りを守る時だ。行ってこい」
それだけ言った。
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第一回戦。
クリフの相手は、貴族の少年だった。
「僕のゴーレムはギガガース!」
現れたのは巨大な岩と鉄で作られたゴーレム。高さはロスの数倍。腕だけで小型ゴーレムほどの大きさがある。
会場が沸く。
「これはすごい!」
「さすがティヤー伯爵の御子息! パワーアビリティに振ってあるのでしょうか!」
実況も興奮する。
そして。
「対するクリフ選手!」
視線が集まる。
「……小さいですね」
一瞬、実況も言葉に困った。
「ですが!」
慌てて続ける。
「一生懸命作ったゴーレムです! ぜひ頑張ってほしいですね!」
優しいフォロー。周囲はどっと笑いがこみ上げる。
そして、観客の誰もが思っていた。勝負になるのか、と。
クリフはロスを見る。
「ロス」
小さなゴーレムが頷いた。そしてクリフは腕輪へ触れる。これはロスウェルから渡されたもの。魔女が作った、小さな通信魔道具であり、魔力増幅器。
「ドラ」
「クラ」
名前を呼ぶ。
次の瞬間、競技場の空間が震えた。魔法陣が三つ展開される。
一つは赤。
一つは青。
一つは白。
観客席が静まり返る。
赤の魔法陣からは巨大な竜型ゴーレム、ドラが出現、青の魔法陣からは海の力を宿したクラが出現する。
そして小さなロスが白の魔法陣の前に浮かび上がる。三体がクリフの前へ現れる。アル・アジフの記録速度が跳ね上がる。
《空間転移ではない。ロスウェルの召喚術式、そしてロスウェル式人工精霊制御、ロイグ式魔法構築との融合確認》
魔法に関して少し学んだアル・アジフがこの高度な魔法理論を科学に置き換えて解析していく。
三体が動く、今回はドラが中心、クラが右、ロスが左、そして三角形を描く。
光が走った!
装甲が展開、魔力回路が接続、竜の外皮、海魔の筋繊維、そしてそれらの駆動を魔女の人工精霊が制御する。
三つの存在が、一つになる。
「三域合体」
クリフが叫ぶ。
「ドラクラロス!!」
一瞬。
会場から音が消えた。
巨大なゴーレム、竜の力を持ち、海のしなやかさを備え、魔女の精霊によって動く。
誰も言葉を出せない。
そして、最初に声を上げたのは。
子供達だった。
「かっけーーーーー!!」
一人。
また一人。
「すげえ!」
「合体した!」
「俺もあれ作りたい!」
会場中の子供達が叫ぶ。アル・アジフは、その光景を記録する。
《観客反応確認 勝敗判断前 興奮値……異常上昇》
そして。
《追加記録》
《ゴーレムとは性能だけで評価されるものではない》
第四世代星葬機アル・アジフ。銀河文明最高峰の科学技術によって生まれた存在は。
また一つ。
この世界から未知の答えを得ていた。そして貴族の子供のゴーレムとクリフのドラクラロスとの相撲が始まった。
「ギガガース! そんなヘンテコなやつは一撃で倒せ! ファイアーボールパンチ!」
鈍重ながら手に魔法回路が引いているらしく、ファイアーボールを纏ったパンチがドラクラロスに向けられる。それに対してクリフは腕輪に指示。
「ドラクラロス! パリィだ!」
頷くドラクラロスは回避すると共にギガガースのパンチを受け流した。そしてクリフはロイグを見る。
目を瞑っていたロイグが開眼すると「本当のファイアーボールパンチを見せておあげなさい」と、それにクリフは腕輪に指示。
「ドラクラロス。ハープーン! ファイアボールパンチ!」
ドラクラロスはギガガースに手を受ける。何が起きるのか誰も予想だにしない。
「それがお前のゴーレムのパンチかよ! バッカじゃねーの」
ドラクラロスのクラから触手が地面に伸びて機体が動かないように固定する。。そして魔法陣が出現すると、ドラクラロスはドラゴンの外皮でできた拳を炎の魔法と共に噴出した。
シュゴオオオオオオ!
巨大ゴーレムギガガースはその一撃で場外に押し出される。破壊しない程度の威力に調整して放たれたその攻撃に会場の興奮は最高潮だ。
「勝者クリフ君、二回戦進出だぁ!」




