第6話 雨の日のお月見《あめのひのおつきみ》後編《こうへん》
白いペンシル屋根の洋館の庭で、グレーの雨雲を心配そうに見上げているもこもこから、るいの頭の中に、あのあたたかい鈴のような声が優しく響いてきました。
『るい、こんにちは! そちらは雨が降っていて、お月様が出ていないでしょ。せっかくのお月見が楽しめなくて、なんだか残念だよね。……よし、るいとお母さんが、一緒にお月見をできるようにしてあげるよ。右手の虹の筆で、あのペンシル屋根の上にあるモコモコ雲を、優しく塗ってごらん』
「わかった、もこもこ!」
るいはもこもこに元気よくお返事をすると、右手に握った見えない虹の筆を大きく動かしました。
ペンシル屋根の上に浮かぶ、意地悪なグレーの雲に向かって、絵の具を塗るように筆を滑らせました。
サァー、サァー、サァー
すると、不思議なことに、水たまりの中のグレーの雨雲がみるみるうちに晴れていき、そこにはピカピカに輝く、大きなお月様がくっきりと映し出されたのです!
るいがさらに嬉しくなって筆を動かすと、お月様の周りに小さなお星がいくつも現れました。
それはまるで、るいが夜空に星を描き足したかのようでした。
現れた星たちのきらめきによって、水たまりの中のもこもこの世界が、綺麗な黄金色にライトアップされていきます。
るいは、水たまりの中に広がった不思議で美しい光景を、早くお母さんに見せたくてたまらなくなりました。
「お母さん、見て! 水たまりの中にお月様がいるよ!」
るいがカッパの袖をぐいぐいと引張て伝えるので、お母さんもお買い物袋を持ったまま、「あらあら」と苦笑いしながら、ふと足元の水たまりを覗き込みました。
そこには、今、見上げている現実のどんよりとした曇天の雨空には絶対にない、神々しいほどのお月様が、水面の奥に美しく輝いていました。
ブン、ブン、ブン、ブン
さらに、そのお月様の黄金色の光のまんなかで、もこもこが嬉しそうにちぎれんばかりに尻尾を振って、楽しそうにダンスをしている姿まで見えたのです。
「あら、本当……。街灯の光かしら? でも、なんだか不思議ね……」
お母さんは信じられない様子で目を細め、不思議な水たまりの底の光をじっと見つめていました。
「ありがとう、もこもこ」
るいが水面に向かって小さく囁くと、頭の中に優しい声が返ってきました。
『どうしたしまして、。またね、るい』
るいがもう一度、筆をすっと動かすと、水たまりはいつもの静かな泥水に戻っていきました。
お家に着く頃には、るいのおかげでお母さんの沈んでいた心も、すっかり楽しい気分に変わっていました。
お部屋に入って、お買い物袋から出した本物のお団子をパクリと食べながら、るいは窓の外を眺めました。
ガラスの向こうの夜空は、まだ冷たい雨がポツポツと降り続いています。
けれど、るいにはちゃんと分かっていました。
水たまりの向こうの世界でもこもこが、るいの描いてあげた黄金色のお月様を見上げながら、一緒にお団子を食べてくれていることを。
「るいのおかげで、とっても素敵なお月見になったわ。ありがとうね」
お母さんはそう言って、るいの頭を優しく、愛おしそうに撫でてくれました。




