第5話 雨の日のお月見《あめのひのおつきみ》前編《ぜんへん》
雨がポツポツと降る、秋の夕方。
お母さんと一緒にスーパーでお買い物を終えたるいは、お気に入りの黄色いカッパを着ていました。
フードを深く被ると、カサカサと耳の奥で静かな音がします。足元には、お気に入りの青い長靴。
るいは左手で、お母さんの温かい手とぎゅっと繋ぎました。お母さんの買い物袋からは、今日の夕ご飯の材料や、お月見用のお団子がチラリとのぞいています。お母さんが歩くたびに、買い物袋の中から、
ガサゴソ、ガサガサ、ガサゴソ、ガサガサ
と、楽しそうな音が響いていました。
るいは立ち止まって、どんよりとしたお空を見上げながら、お母さんに言いました。
「ねえ、お母さん。今日はお月見の日なのに、雨でお月様が見えなくて残念だね」
お母さんは少し寂しそうに、るいを見下ろして答えました。
「そうねえ、るい。今夜はお家の中で、お団子を食べるだけになりそうね」
そんなことを話しながらいつものあぜ道を歩いていると、道の真ん中に、るいの背丈と同じくらいの、大きい大きいまぁるい水たまりがありました。
その水たまりは、あのモコモコ雲の犬、もこもこと最初に出会った、ひみつの水たまりでした。
るいは水面を見つめながら、少しの間、じっと考えました。そして、右手にある見えない虹の筆をそっと握りしめると、もこもこを呼び出して、お月様について聞いてみることにしたのです。
「お母さん、ちょっと待って! 水たまりのお友達に、お月様がどこにいるか聞いてみるね!」
るいが元気よく言うと、お母さんは楽しそうに目を細めました。
「るい、ふふふ、じゃあお母さんも一緒に待っていようかしら」
「うん!」
るいは嬉しくなって頷くと、その水たまりの前にしゃがみ込みました。カッパの裾が泥で少し汚れましたが、そんなことは気になりません。
るいは、お母さんを驚かせないように……右手で握った見えない虹の筆を、水面へ向かって優しくそっと滑らせました。
すー、すー、すーん
水たまりの濁った水が、時間が経つにつれてしんと静まり返り、やがて一枚の不思議な鏡へと変わっていきました。るいは足元の大きな水たまりをそっと覗き込みました。
そこには、白いペンシル屋根の洋館の庭で、グレーの雨雲を心配そうに見上げているもこもこ。
ブンブンブン
もこもこは、しっぽを振っています。
るいのことを待っていたのです。




