第4話 お買い物とお留守番《おかいものとおるすばん》
翌日、るいはお母さんと一緒に、晩ご飯の材料を買いにお出かけすることになりました。
玄関でお気に入りの青い長靴を履いていると、お母さんが優しく微笑みながら問い掛けてきました。
「るい、今日は何が食べたいかな。お母さんに教えてくれる?」
晩ご飯のメニューのリクエストを聞かれたるいは、目をきらきらと輝かせて、すかさず答えました。
「いちごのショートケーキとハンバーグ!」
「あらあら、るいったら。ハンバーグとケーキを一緒に食べちゃうの? じゃあ、今日はハンバーグにしましょう。いちごのショートケーキは、明日の三時のおやつにしましょうね」
「やったー!」
るいは嬉しくなって、玄関でピョンピョンピョンと小さく跳ねました。
お母さんは買い物袋を手に持つと、楽しそうな声で言いました。
「それじゃあ、るい、お買い物に行きましょう。レッツらゴーよ!」
「お母さん、レッツらゴー!って、なぁに?」
るいが首を傾げて聞き返すと、お母さんは「ふふふ」と楽しそうに笑いました。
「さあ、行くわよ、っていうことなの。ふふふ、覚えておくといいわよ!」
「わかった! お母さん、レッツらゴー! レッツらゴー!」
るいは覚えたての言葉を嬉しそうに何度も繰り返しながら、お母さんとしっかりと手を繋いで出発しました。
いつものあぜ道を歩いていると、るいは足を止めました。
ちょうどそのとき、向こうから歩いてきた近所の人にお母さんが呼び止められ、楽しそうに立ち話を始めました。
昨日あんなに大きかった道の真ん中の水たまりが、すっかり小さくなって、るいの身長の半分くらいの大きさになっていたのです。
るいは不思議そうに、その水たまりをじっと見つめました。
お母さんが目を離したその隙に、るいはしゃがみ込みました。そして、右手で「見えない筆」をそっと握りしめると、すっかり小さくなった水たまりの表面を、優しく滑らせました。
すー、すー、すーん
青い長靴のつま先がかすかに揺れると、水面がチリ、チリ、と小さく震えました。すると、水たまりの奥に映るペンシル屋根の洋館のまあるい窓がガラガラと開き、中から白いモコモコとした雲の犬が、ひょっこりと顔を出したのです。
ブン、ブン、ブン
もこもこは、るいを見つけると嬉しそうにちぎれんばかりに尻尾を振りました。
そして、るいの頭の中に、あのあたたかい鈴のような声が優しく響いてきました。
『るい、こんにちは! ボクは今ね、お家の中のお掃除中なんだ。お留守番、ちっとも寂しくないよ。るいも、お母さんとの買い物、気をつけて行ってきてね、行ってらっしゃい』
「るい、行くわよー」
お母さんに名前を呼ばれて、るいはハッと顔を上げました。慌てて水たまりに視線を戻すと、そこにはもう虹色の洋館も、もこもこもいなくて、ただの小さな泥水に戻っていました。
けれど、るいの胸の中は、昨日よりもずっとあたたかい確信で満ち溢れていました。
(もこもこ、本当にお家の中にいるんだ!)
るいはもこもこの秘密の生活を覗いたような、ちょっぴりおねいさんになった気分になりました。
そして立ち上がると、お母さんの温かい手をきゅっと握りしめて、元気に歩き出すのでした。




