第3話 お散歩報告《おさんぽほうこく》
「ただいまー!」
お家の玄関の扉を開けると同時に、るいは大きくて元気な声を響かせました。
宝ものの黄色い傘も傘立てに入れました。
黄色いカッパのフードを脱ぐと、雨上がりの冷たい空気の中に、お家のなかの温かいお味噌汁の匂いがふわりと鼻をくすぐります。
くるぶしに白ねこのいる青い長靴を脱ぐのももどかしいくらい、るいの胸の中は、さっき水たまりで出会ったひみつのお友達のことで、はち切れそうになっていました。
台所にいるお母さんの姿を見つけると、るいはカッパを着たままの小さな体で、タッタッタッと駆け寄っていきました。
「ねえ、ねえ、お母さん! お散歩してたらねっ、お友達ができたの!」
お母さんはトントンと野菜を刻む手を止めて、るいの目線に合わせて優しくしゃがみ込みました。カッパの袖についた小さな泥の汚れを見て、ふふっと微笑みます。
「るい、お散歩、楽しかったのね。どんなお友達ができたの?」
「あのね、道にね、るいの背とおんなじくらいの、大きいまぁるい水たまりがあったの。それでね……!」
るいは、小さな両手を大きく広げて、一生懸命にお母さんに伝えようとしました。身振りが大きくなるたびに、黄色いカッパが擦れてカサカサと小気味よい音が鳴ります。
「お水がしんってなって、鏡みたいになったから、おててでパシャ、パシャ、パシャってしたの! そしたらね、もこもこが出てきて、お空に大きな白い色のお家があったの!」
お母さんは驚いたように少しだけ目を見開いたあと、何も言わずに、ただ愛おしそうに目を細めて微笑みました。
るいは、もこもことお別れするときに言われたひみつの約束を思い出そうとして、小さな人差し指を顎にあてて首を傾げました。
「それから、それから、えーと……あ、虹の筆をちょんってして……」
楽しかったことがたくさんありすぎて、頭の中の引き出しがひっくり返ってしまったようです。
言葉が上手に繋がらなくなって、るいは少しだけ困ったような顔をしました。
そんなるいの様子を見て、お母さんは優しく小さな頭を撫でながら、そっと問い掛けました。
「るい、そんな素敵な大冒険をしたのね。お散歩、とっても楽しかった?」
「うん!」
るいは、弾けそうな笑顔で大きく頷きました。
頭を撫でてくれるお母さんの手のひらの温かさを感じながら、もう一度、大好きな、もこもこのことを一生懸命にお母さんに伝えるのでした。
「それから、それから、えーと……」
手のひらに残る、ほんのりと温かく、雨上がりの草花のいい匂いが、お母さんにも届いているのでしょうか。




