ロリ時代の嫁の思い出話を聞くつもりが、犯罪の片棒を担がされた聖職者・俺
-1-
「ごめんくださーい!ペーターです~」
あの後にルークから購入した茶菓子を小脇にクリスの家のチャイムを鳴らした。
応対にはマイケルが出た。
「牧師さん!来てくれたんですね!」
居間に通され、クリス老人と相対する。
「おや、牧師さん?昨日の今日でどうしたんだい?忘れ物かな?」
数独パズルから顔を上げたクリス老人は目を丸くしていた。
「クリスさんがナディアの師匠だと聞きましてね!これはぜひ子供の頃のナディアについての話を聞かにゃならんと遊びに来た次第です。お邪魔でしたか?」
「なんのなんの!若人の来訪は大歓迎だよ!話し相手は何人いてもいいもんさ!マイケル、お茶を淹れてきてくれるかい?」
「かしこまりました」
マイケルは俺に意味深長なウィンクを送ってきた。
おいおい、アイコンタクトでツーカーできるほどの仲じゃないだろ俺達。なんの合図か考えているうちにマイケルはさっき渡した茶菓子を小脇にキッチンへと消えた。
「えーっとどこだったかねぇ」
クリスはいそいそとリビングの壁の棚に向かう。
「ナディアとセオドアの世代はここら辺だったはず…おお、あったぞ!」
ぴょんと軽く跳ねてかなり高い位置のアルバムを抜き取った。
さすがカンガルーの脚力だと感心しつつ、年寄りの冷や水だと、俺は勝手に冷や冷やしてしまう。まあ、いらぬ心配だったのはアルバムを数冊とって戻ってきたそのしっかりした足取りを見れば明白なんだけども。
「ほら、道場に入りたての頃だ」
「お!?」
ややセピアがかった集合写真の端っこにパヤパヤが抜けないロリ狼の姿があった。隣にいるナディアにそっくりなオスケモの腕をちいちゃい肉球でぎゅっと掴んでいる。
「ギャー!可愛いでちゅねぇ!」
小学校の集合写真よりも小さい頃のナディアだ。
はー、動物の赤ちゃんってどれもコレも可愛いけど、ロリ獣人は人間の子供と動物の赤ちゃんを足して二で割って化学調味料でドーピングしたような愛くるしさがある。
どの写真も無加工なのに最早発光して見えるレベルの可愛さだった。
「ナディアは同世代でも頭一つ抜けて強くてねぇ。もうこの頃にはセオドアも歯が立たないくらいだったんだ」
「はぇ~、強くて可愛いだなんてお得ですねぇ~」
クリスの思い出話や写真に出てくるセオドアというのはナディアの2つ年上のお兄さんらしい。ナディアに瓜二つの美ケモだった。
10代半ば辺りから急に写真から消えた。
「ああ、セオドアは実家を継ぐための修業があったから道場は途中でやめてしまったのさ」
「へ~、家業ですか」
「そう。今では立派な村長さんだよ」
「村長が家業!」
なんかピンとこないけどまあ田舎だし、選挙制度がないのかも(?)
クリスがにこにこしながら紅茶を飲み干す。
「それだけじゃないぞ!彼らの家系は…」
その手からカップが落ちた。幸いカップは割れることなく、カーペットにちょっとしたシミがつくにとどまった。
が。
「グゴゴゴ…スヤスヤ…」
クリスはソファに深く腰掛けて眠っていた。
「ちょっ、クリスさん!?」
「上手く行きましたね!」
キッチンからマイケルが出てくる。
彼は慣れた感じでクリスの脈と呼吸を確認する。
「呼吸はしてますね」
「いやいやいや。君なにしたの!?」
「お茶に『睡眠』のスキルをかけてみたんです。ぶっつけ本番でしたけど上手く行ってよかった!」
おいおい。さっきのアイコンタクトの意味はこれか。
「クリスさんを寝かせて何する気だよ!?」
「決まってるでしょう、家探しです!」
「家探しぃ!?一体何を探すつもりなんだ?」
「怪しい人だしきっと何かしらありますよ」
「そんなアバウトな根拠で老人に一服盛るな!?」
「ここで言い争ってる暇はありません。『睡眠』は1時間くらいしか効かないんです。急ぎますよ」
あー、もう!
こんな軽犯罪に手を貸すことになるなんて!だが、こうなっては乗り掛かった舟だ。
-2-
ワクワクのお宅訪問という名の家探し。
「それで?なんかあてはあるのか?」
「ないです!片っ端から行きましょう。『解錠』!」
行き当たりばったりもいい所だった。老人が一人暮らししている規模とはいえ、一軒家だからそれなりに広い。
マイケルのスキル『解錠』があるとはいえ、虱潰しは効率が悪いなんてものじゃない。
とにかくわかりやすく怪しいものを探そうと、俺は書斎に目を付けた。
「うーん。見当たらないなぁ!」
「なにをお探しで?」
「いや。クリスさんは君を1週間前に雇用したんだろう?ならそこらへんに雇用契約書とか履歴書みたいなものがあってもいいんじゃないかって思うんだけど」
「直接雇用じゃなくて派遣サービスなのかもしれませんね」
「だとしてもそのサービスとのやり取りの記録があってもよさそうなもんじゃないか?そこらへん何か聞いてないの?」
マイケルは首を傾げた。
「なんも聞いてないっすね。大体、あの人別に病人でも何でもないですし」
「そうなの?」
「朝から米三杯食うし、道場で素振りするのが日課だし」
カンガルー獣人なのに素振りなのか。スパーリングじゃなくて。
いや、それはあまりにカンガルーへの偏見すぎるか。ナディアも狼獣人だからって遠吠えするわけじゃないし。
「あの爺さんの上腕二頭筋を見せてやりたいですよ。最初AI加工写真かと思いましたもん。とても要介護老人の体じゃないですって。看護師兼家政夫だなんて言われましたけど、朝にビタミン剤渡す以外ほぼ家政夫ですよ、俺」
「ふむ」
「明日だって祭りの打ち合わせだとかで午後から村長の家に行く予定ですしね!誰も病人扱いしてませんよ、あの爺さん」
看護師が言うんだから間違いないだろう。
「というか、祭りの打ち合わせにクリスさんも呼ばれているのか?」
「村の有力者は招かれるらしいですよ」
「へー」
1時間の期限がある以上、雑談ばかりもしていられない。
書斎に見切りをつけ、他の部屋もざっと書類を中心に探したが、空振りに終わった。
そしていよいよ最後の一室。
「『解錠』!」
「あー、空振りか~」
なんと全くの空き部屋だった。
備え付けの暖炉と空の本棚しかない。
「まだ時間もあるし、もう一度書斎を探ろっか」
回れ右する。
「待ってください!」
俺の牧師服をマイケルが掴んだ。メリッと生地が裂けそうな嫌な音がする。
「おい、掴むのは止してくれ!」
その腕を振り払う。
「今朝直してもらったばかりなのに!」
狼のアップリケの部分をチェックした。破れたりはしてしておらず、一安心。
「というか、どうしたの?この部屋何もないじゃん」
「いやいや、ここだけ使ってないなんて不自然すぎますって!仮にも民家ですよ?一部屋遊ばせておくなんておかしいでしょ」
一人暮らしで部屋が余りまくっているならそこまでおかしいことじゃない気もするけども。マイケルが絶対何かあると言ってきかないので仕方なく部屋に入る。
マイケルは暖炉の中を見始めた。
俺もなんとなく本棚を見る。
「んっ?」
本棚の横の床に白い傷跡があった。何かを引きずったような…というか普通にこの本棚を横移動させたような。埃のかぶり方も他の床と違うし。
「もしや隠し扉が!?」
「えっ?隠し扉ですか?」
「かもしれない」
本棚近くの壁をコンコンと叩いてみたが手ごたえはない。
「あ、この本棚、ちょっと変じゃないですか?ほら、背の部分」
マイケルが手招く。
言われてみれば背の板は1枚板ではなく微妙に色の異なる正方形の板が規則正しくならんでいて、一枚だけ欠けている。
「スライドパズルみたいだな!」
ちょっと押してみると板が動いたので間違いない。
「これを解いたら隠し扉が出てくるとか!?」
おお、俄然興奮してきたな!
人んちを勝手に捜索しているという状況の背徳感はさておき急に冒険みたいじゃないか。
牧師服の袖をまくる。
「俺こういうの得意でさ~!ルービックキューブとかも結構…」
マイケルが本棚に触れる。
「『解錠』!」
次の瞬間、寄せ木細工のような本棚の背板はひとりでに動き出し、色の濃淡の順番に綺麗に並んだ。そしてスーッと本棚が横スライドして真っ黒な入り口が現れた。
「…」
「本当に隠し扉じゃないですか!」
「そ、そうだな…」
まったく便利なスキルだなこん畜生!
「てかこれ、どこに続いてるんでしょうね?」
隠し扉の先は階段になっていた。どこまで下るのかもここからでは見えないほど真っ暗だ。
「少なくともこの屋敷の1階に降りるための通路じゃなさそうだね」




