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メスケモ嫁との入浴(これはマジな奴。デレの兆候かもしれん。生きててよかった)

-1-

ショックだ。

手紙を持つ手に思わず力がこもる。

ショック?いや、本当にそうなのかな。

俺も本当は心のどこかで気づいていたような気もする。

「あなた、お風呂が沸きましたよ。お先にどうぞ!」

ぴょこり、とナディアが呼びかける。

ナディア。君の夫、ペーター・シュリークとは一体何者なんだ?

記憶が消えているだけで、『俺』は元からペーター・シュリークなのか?

「そのお手紙なんて書いてあったの?」

俺はハッとして手紙を折りたたんだ。

「なに、大したことは書いてないよ。お風呂ありがとね!」

逃げるように風呂場に向かう。

大穴の空いた牧師服を脱ぎ、手紙も持って風呂に入った。

ナディアにこの手紙を見せたくなかった。

なんで?聞くべきだっただろ。これ以上ない絶好のチャンスだったのに。

「ハァ~。それができりゃ苦労はないよ~」

や、マジでどうすんの?

もしも。本当に仮定の話だけどさ。もしも俺が自我があるタイプのゾンビで、ナディアは村長の親族として俺を監視するために俺と結婚したんだとしたら?

セックスレスの原因も俺ことペーターがなんかやらかしたとかじゃなくて、単純にゾンビとやるのはキモいってだけだったら?

それをナディアの口から聞いてしまったら?

立ち直るとか立ち直らないとか以前の話だよ?

それこそ頭を潰してその記憶をなかったことにしちゃうよ、俺。

諸々の生理現象はあるし、ゾンビってことはないと思うけどさ!見た目も人間だし。

……さすがに悲観しすぎか?

たかが、ペーターが牧師だというのが嘘だったってだけで。

『たかが』で片づけられないほど、俺には衝撃ではあったけど。

大体、ペーターの存在の土台がペラいのが悪い。

『牧師』と『ナディアの夫』を除いたらお前からは何が残るんだ。『ケモナー』か?『変態』か?

それってほぼ『俺』じゃないか?

もし、殺されて記憶が飛んだ影響か何かで、ペーターとしての記憶も全部消えただけだとしたら…。

転生前の記憶との整合性がつかない?このタケシだかキヨシだかいうフワッとした日本人サラリーマンの記憶の出所の説明はつかない。このフワッとしたノイズを弾けば筋は通る。

「聞くかぁ~…」

とにかく情報が足りない。最悪ショック死も覚悟しつつ、ナディアに聞くしかないか。

ガララ。

「ん?」

引き戸の動く音がした。

すりガラス越しに脱衣所の方で何やらモソモソ動く影。

「んおぉっ!?」

衣擦れの音と共にすりガラス越しに見える銀色のモフついたシルエットに俺の目は釘付けになる。

見た?いや、俺以外見ちゃだめだけども。今、エプロンドレス脱いだよね?

噂をすれば影なんてレベルじゃないぞ。

思わず息をひそめてその一挙手一投足を見守る。

最後の布一枚を後ろ足から引き抜きましたね。

おいおいおい。どうなっちゃうんだ、コレ。

そして遠慮なく風呂場の押戸が開いた。

「わわわっ!」

タオルで前を隠したナディアがちらりと覗く。

えっっっr。

俺は激しく自己主張し始めた俺自身を慌てて押さえつけた。セーフ!見られてない!

ナディア一体どうしたんだ!?

「これは同意でいいんだよな?」

逆、逆ぅ!今のはマジでコンプラ的にだめかもしれない。

「同意?」

ナディアはきょとんとしている。

「私もちょっと雨で冷えちゃったからお湯に浸かりたいんだけど、お邪魔だった?」

「じゃっ、じゃっ、邪魔なもんか!」

むしろその毛皮で俺の体を洗わせてほしい。特に今このとんでもなく腫れあがった…

「あら。それ…」

ナディアが浴槽を指さした。

ドキッ!

その指の先にあるのは俺の暴れん坊なビースト…ではなく、湯船に漂う手紙の残骸だった。

「あっ!」

慌てて掬い上げるが、水でふやけてもう読めたもんじゃない。

「やっちまった!」

まあいいか。内容は読んだし。

俺の意識は次の瞬間には手紙なんてもう忘れていた。

ナディアが風呂場に足を踏み入れた。

ペタペタ。

浴槽の傍らに膝を付き、かけ湯をする。

濡れたタオルがその体に張り付く。

おお、新事実!胸のふくらみは毛だけじゃなかった!獣人でも人間相当の部分に乳房がある!しかも…でかい!えっ、でかくね?でかいよね?毛のモフモフだと思ってた部分、ほぼ乳じゃん。

「内容は何だったんです?」

「えっ、あー…なんだっけ」

「お風呂に持ち込むくらい大事なお手紙だったのでは?」

「じゃあ、そうだったのかも」

ナディアは呆れたようにため息をつき、桶を置いた。

そして……

ちゃぷん。

つま先から浴槽に入った。

俺に背中を向けた状態で、俺の足の間で。体育座りのように膝を抱えて。

さらに…!体を隠していたタオルを絞って手すりにかけた。

水分を吸って体積が減った毛はぺったりとその華奢な体に張り付いていて、普段よりも小柄に見える。その濡れた背中の艶っぽいのなんの。

「いい…」

「どうせやらしいことでも考えてるんじゃないですか?」

ナディアは振り返りもせずに言った。

「ギクリッ!」

いや、ギクリッじゃねえわ。

「全裸の奥さんが目の前にいるこの状況で、いやらしいこと以外を考えられる男がどこにいるって言うんだ!」

ナディアの耳がピンと立った。

「というか、そういうつもりでお風呂に入ったんじゃないの?」

「ソッ!?そういうつもりって…ち、違いますケドっ!」

ちょっと声が裏返っていた(めっちゃ慌てていて可愛い)。

「ホントに?俺にその銀色のモフモフとかその下のたわわをモフモフしてほしかったんじゃないのー?」

「ち、違います!!」

おっと。ふざけて背筋を指でなぞったら、ナディアの尻尾が抗議するように水面を叩いて追い払われてしまった。

「ごめん、ごめん!ちょっとからかっただけ!」

「むー!」

まだ尻尾が俺の手を警戒するように揺れている。

「お詫びに背中を洗ってあげるからそれで手打ちにしてくれよ!」

「お詫びって…それあなたへのご褒美じゃないですか」

バレたか!勘のいい奴め。

「……ま、でも背中だけなら」

「えっ!?」

ナディアは手すりにかけたタオルをまた広げ、体の前を隠しながら浴槽からあがり、そのまま横移動して体を洗うための椅子にスライドした。

そして俺を待つように尻尾を下げた。

えっ、マジ?

うわー、えっ、うわー。言ってみるもんだな。

俺は石鹸を泡立てていつもよりボリュームダウンしているその背中に手を這わせる。

「お、おお…!?おおおぉう…!」

ナニコレ!めっちゃすべすべじゃないですか!

「ちょっと、変な声出さないでくださいよ」

「やっ、だって!ナディアの感触がヤバくて」

俺の語彙力!その言い方は誤解を招くだろうが!

しかし、ナディアはあまり気にならなかったようだ。

「ところで今日、ジョニーのところに行ったんですってね」

「ああ…まあ…」

背中とは言ったけど、背中ってどこまでなんだろう。首とか腰とかもOKなのかな?脇腹もギリギリ背中にカウントしていいならもうちょっと…

「その…何か変わったこととかありましt…ひゃっ!」

ナディアが椅子の上で飛び跳ねる。

「な、何するんです!くすぐったいじゃないですか!」

ちょっと腰骨に手が当たってしまった。

「やっ、ごめっ…おわっ!」

ナディアが俺を追い払うように泡だらけの尻尾を振るった。

「後は自分でやるんでお風呂に戻ってください」

「そこを何とか…!」

「ハウス!」

「くっ!」

なんという鉄壁の防御。

風呂場から追い出されなかっただけましか。

これは大人しくハウスせざるを得ない。

ナディアはその後驚くほどの手際で身を清めて風呂場から出て行った。

ナディアの姿がすりガラス越しから消えるのを見届けて…

「…ふぅ」

風呂場だから後片付けも楽々だな。


ふと、風呂桶の縁にまとめられた紙くずが視界に入った。

「……」

ナディアのおっぱいに気を取られて忘れていたわけじゃないぞ。

今思い出したしセーフ、セーフ。

ペーターのこと、ナディアに聞かなきゃな。

俺は自分の手をじっと見た。

まだナディアの背中をわしゃわしゃした感触が残っている。

「……まあ、今度でいいか」

手紙も水没したことだし。夫婦なんだから、待ってりゃまたタイミングが巡ってくるさ。

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