チートスキルで楽々解決!お義母様は名探偵!
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チートという言葉がある。
ゲームにおいては外部ツールを使って正常なプレイではまず不可能なことをできるようにすることだが、知っての通り異世界においては別の意味を持つ。
『すごく便利』、だ。
現実はルール無用だから、チート行為なんてものは基本存在しないわけだ(あんま見かけないけどこの世界は魔法もあるっぽいし)。
ルールに書いて無ければ持ち込み可のドイツ語の期末試験にドイツ語話者を連れてくるのがOKなように、尋問に人間の頭の中身を覗くチートスキル持ちを同席させるのはチート行為ではないのである。
「あー、はいはい。あなたは違うわね。もういいわよ」
エリザが転生者の顔面から手を離す。
転生者は終始ビックリして固まっている。
気持ちはわかるよ。普通に生きてて他人から顔面を掴まれることってまずないもんね。俺もエリザに『マインドスキャン』を掛けられた時、驚きすぎて抵抗できなかったもん。
こういっちゃなんだけど、この人って片田舎にいていい人材なの?都会で探偵とかやらせたほうがいいんじゃ……なんて思うが、まあこういうのは適材適所という言葉があるとはいえ、人には人の事情があるからな。
エリザのスキル『マインドスキャン』のお陰で捜査はスムーズだった。
スムーズ過ぎて面白みがなく、語ることなんてなにもない。
実際、聞きたい?最有力の犯人候補が、季節労働者間で密かに発生した百合の三角関係に端を発するキャットファイトを覗き見して夜な夜なマスかいてた変態だっただなんて。
調査パートなんて本来地味なもんだから、長々と証拠っぽいのが見つかったり見つからなかったりを繰り返す単調な数日が、数十分に圧縮されるのはありがたいことではある。
ありがたいことではあるんだけどね。
「はい。君は仕事に戻っていいよ。次の人、入ってくださーい」
俺、要る?
手伝うとは言ったけどまさか握手会のはがしみたいなことをするなんてね。
「やー、これだけの人数がいると疲れちゃうわね~」
エリザは手首を回して伸びをする。
次に通した季節労働者は人間の若い女だった。他の季節労働者たちと同じく小麦色に日焼けして健康そうで、他の季節労働者たちと同じくぱっと見で怪しいところはない。
彼女はエリザのリラックスしきった様子に困惑しながら、エリザの正面に置かれた椅子に恐る恐る腰掛けた。
「えっと…」
女転生者は内股でモジモジしている。
「大丈夫よ~。リラックスしてて頂戴ねぇ!」
おば…もといマダム特有の謎に安心できる雰囲気を醸し出しながらエリザは身を乗り出す。
その目が青く発光し、黒手袋に包まれた手がむんずと女の顔を掴む。
マジで『むんず』って効果音が聞こえそうなほど無遠慮に行くんだよ、これが。仮にも女性の顔なのに。『マインドスキャン』なのに触るのは頭じゃなくて顔面なのも謎だ。
「あー、はいはい。そういう感じなのね、あなた」
エリザが大きくうなずく。
今までの尋問(問いかけてすらいないけど)と同じ反応。今回も空振りかな?
「この子もシロですか?」
エリザは女転生者の顔を掴んだままかぶりを振った。
「いいえ、この子が犯人よ。紅涙石はリュックの中なのね?高圧電流の金網もあなたのスキル『壁抜け』で無効化したの?なかなか便利なスキルを持っているのね」
わお。ものの1分で犯人と手口と盗品のありかまでわかっちゃった!お義母様、ぐう有能。
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これにて一件落着。犯人を捕まえて俺とジョニーはパイづくりに戻る。
だったらよかったのだが。
「な、なんでそんなことまで!」
窮鼠猫を噛むの格言の通り、獲物を追い詰めた時が一番ハンター側は危ない。
エリザがいくらチートスキルを持つ強ボス感マシマシの女だとしても、肉体スペックはあくまで人間の中年女性平均でしかないことを俺たちは甘く見ていた。
対する相手は女とはいえ、日々の農作業で鍛えられた若者である。
自分の顔面を抑えていたエリザの手を掴み返していた。
そしてもう片方の手にはキラリと光る刃物が!
「危ない!」
俺は女転生者の背中にタックルした。
「くっ!離せ!」
女に全身の体重を乗せて抑え込むが、女も必死だ。何とか手を押さえつけて背中にねじりあげたが、まだまだ暴れる。
ややもすると拘束を振りほどいて逃げていきそうだ。
「ジョニー!手伝ってくれ!」
俺はテント内にいるジョニーに向かって叫んだ。一人じゃ手に負えない。
だが、どうしたわけか助けてくれない。
ジョニーはエリザを抱きかかえている。そしてエリザの細い首には刃物が深々と突き刺さっていた。
なんてこった!俺は間に合わなかったんだ!
エリザの口からこぼれた血をジョニーが拭う。
「エリザ、この傷は助からないね」
エリザは苦しそうにジョニーの服を握っている。
「今、楽にしてあげるから」
その肉球が刃物の柄に触れた。
「おい!」
止める間もなかった。
ジョニーはその刃物を真一文字に横に引いて、首から引き抜いた。
エリザの体は椅子に力なく倒れ、その首からドロリと真っ赤な血が流れだす。
「ひぃっ!」
目の前の凄惨な光景に、俺は凍り付いた。
それは女転生者もだった。
エリザの死体から点々と地面に落ちていく血の雫。
血に濡れた刃物を持ったままジョニーがゆっくり近づいてくるのもまるで現実味がなかった。だから、その刃物を女転生者に向けても止められなかった。
「村長には生け捕りって言われているけど、暴れるなら仕方ないよね」
「ゴフッ」
パッと捌かれた頸動脈から血がほとばしり、地面を濡らした。
そして俺の足元で女は動かなくなった。
「な…」
何拍も遅れて状況を理解した。
平然とハンカチで血まみれの凶器と前足をぬぐうジョニーと、首から血を流して死んでいる二人の女性。地面の鮮血。むせかえるような金臭い死の匂い。
「なんてことを…」
俺の喉からは何とも掠れて情けない声が漏れた。
「牧師さん、大したことじゃありませんって」
ジョニーは怖いくらい平然としていた。今しがた2人を殺したくせに。
いつもの親切な隣人の顔で俺の肩に触れた。
「ひっ…」
触れられたところから鳥肌が立つ。
振りほどこうとして、俺はまた凍り付いた。
「一体、なにごと~?」
聞こえるはずがないよそ行きの高い声。
嘘だろ。だって今…。
ジョニーの背後で物音がした。
そして黒衣の女がゆらりと立ち上がった。
「酷いもんね」
エリザは自分の首を触り、べっとりと付いた血を見て顔をしかめている。
「えっ、お義母様!?」
訳が分からない。
「えっ、今死んで…えっ、えっ?」
「あーぁ、最悪だわ。週末も死んで、今日もだなんて。ペーター、あなたの運の悪さが私にも伝播してるんじゃないかしら、なーんてね」
『なーんてね』じゃねえよ!
そんな軽い状況じゃないだろ。
というか、『週末も』って何?俺が酔ってる間に何かあったの!?
というか、マジでどういう状況なの?
理解が追いつかない。
「あの、えっ。なんで死んだふりを…?」
「んー、ま、説明はいっか。ジョニー」
「はい」
腹部に激痛が走る。
手を伸ばすとジョニーのモフッとした前足に触れた。
「カハッ」
ジョニーの腕が離れ、俺の手は腹に深々と埋められた刃物に触れた。
痛みに声も出ず、俺は倒れこむ。
ジョニーは無感情に俺を蹴って地面に転がし、女転生者の死体を引きずり出した。
そしてジョニーが椅子代わりに座っていた木箱の中にその死体を詰め込んで、手押し車に乗せた。恐ろしく速い手際。
「さ、新鮮なうちに村長のところに届けに行きましょう」
「ペーターは?見張っておきましょうか?」
「戻ってくる頃に生き返るように腹を刺したんです」
「あなたもすっかり手慣れたものね」
二人の足音が遠ざかっていく。
致命傷だけど、まだ助かるかもしれない。
何とかテントから出て助けを求めれば。テントの100m先に尋問待ちの季節労働者たちがいる。そこまで行けば何とかなるはず。
「ううっ…」
腹ばいになるとますます刃物が腹に侵入してきた。
あ、ダメだこれ。
歩行とか、刃物が地面に擦れないように上体を起こして移動とかできないわ。
これ以上痛くならないように何とか力を振り絞って仰向けに戻る。
え、どうしよう。この体勢で行くか?
ちょっと動くだけで、めっちゃ痛い。
痛くて動けない、なんて言ってたら俺はこのまま死んでしまう。
どうしよう。どうしたらいい?
脂汗が額から伝い落ちる。
-3-
テントの幕が動く音がした。
しめた!
季節労働者の人だろう。
俺は力を振り絞った。
「たす、けて…」
足音が近づいてくる。俺の頭のところで止まった。
そして頭上に影が落ちる。
「ああ、ペーター!」
俺を覗き込んでいたのはなんとアンドレイだった。
「死ぬ前に間に合ってよかったよ」
アンドレイは俺の傍らに膝をつき、土手っ腹を貫く刃物に触れた。
「いいかい?3,2,1で抜くから動くなよ」
えっ!?こういうのって抜いちゃダメなんじゃないの?
「3,2…」
「まっ…」
「1」
アンドレイは刃物を抜いた。
「いっ…!?」
「天にまします女神様…」
そして、俺の腹を開いているほうの手で圧迫止血しながら手早く祈りの言葉を唱え始めた。
ポウッとアンドレイの手の平の下から白い光がほとばしる。
アンドレイの祈りを聞いているうちにゆっくりと痛みが和らいでいき、やがてすっかり痛みが引いた。
「かくあれかし」
謎の結びの言葉で祈りを〆め、アンドレイは俺の腹から手を退けた。
ボタンをはずして傷口を確認するが、跡形もなく消えていた。
「おお、すごっ!」
そうか、牧師=僧侶だもんな。回復魔法を使えてもおかしくないのか。
「ありがとう!本当に死ぬかと思った!いやはや、こんな便利魔法があるなら、引継ぎ資料に書いておいてくれたらよかったのに!」
「牧師は医者じゃないぞ?回復魔法は自前だ」
「そうなのか…ま、とにかく助かったよ、アンドレイ!あんたは命の恩人だ!」
俺はアンドレイに手を借りて立ち上がった。
「危ない所だったな、ペーター」
アンドレイが俺の服から土を払ってくれる。
危ない所。そうだ、こんなのんきにしちゃいられない。
「ヤバイ。ジョニーが戻ってきてしまう!大変なんだ、アンドレイ!ジョニーが紅涙石を盗んだ女を殺して木箱に詰めて村長のところに連れてっちゃったんだ。あ、あと!俺の義母も殺したんだ!いや、死んですぐ生き返ったんだけども、とにかく変なんだ!」
ヤバいな。自分でも何を喋ってるのかわからない。言葉にするとおかしすぎてますます変なことが口をついて出る。
「俺、どうしたらいいんだろう?どこに通報したらいいの?」
「ペーター、落ち着きなさい」
アンドレイが俺の背中を叩いた。
「村の人間に言っても誰も取り合ってくれないよ。みんなグルなんだから」
「えっ…!?」
「君はこうやって殺される度に記憶をちょっとずつ失くしてるんだ。今回お前さんがするべきは薬草農園について以降の記憶が一切ない振りをすることさ」
「ごめん、今『殺される度』って言った?」
「言った」
頭が痛くなってきた。
「まさか俺もお義母様みたいに、死んで生き返ってをしてるってこと?」
そんな訳ないか。
「そうだぞ」
「えっ…」
「記憶が飛んだなって自覚症状がある時、大体誰かに殺されてると思って間違いない」
アンドレイの表情は真剣そのものだった。こんな状況で悪質なジョークを言う訳もない。
こんな話、『ジョーダンでした~』って言われた方がマシだけども。
「先週3回記憶が飛んでるんだけど…」
記憶喪失になってることも含めたら4回?
アンドレイと初めて会った晩もそういえばベッドに入った記憶がないな。それも含めたら5回。
俺、1週間で5回も殺されてるってこと!?
自分がゾンビ的な存在かもしれないことよりそっちの方が怖いんですけども。
「記憶があるのがバレたら記憶を奪うためにまた殺されるから絶対にこのテントであったことは記憶にない振りをするんだ。いいな?」
「あ、ああ…」
俺がうなずくと、アンドレイは俺を励ますように背中を叩いた。
「君ならきっと大丈夫だ、ペーター」
「ありがとう。…なあ、アンドレイ。なんでそんなことを知ってるんだ?というか、なんで俺に教えてくれたんだ?」
アンドレイは目をぱちくりさせたが、ニヤッと口角を上げた。
「色々教えてくれるからって真の味方とは限らないぞ。お前さんが生き残るには真の味方を見極めにゃならん」
おい、質問に一個も答えてないぞ。
抗議しようと口を開いたが、デコを指でつつかれた瞬間、俺はブラックアウトした。




