この曇り空を抜け出そう!⑥(2000年代)
それで一度は忘れたふりをしていた、航太郎のことが、やっぱり気になった。
自分でもどうかしていると思う。
いくらちょっと仲が良いといっても、相手は小学生だし、そこまで気に掛けることなどないとは思う。
それなのに、内心では気になってしかたがないのだ。
明日あさっては土日だから、次に航太郎に会うのは、月曜日となる。
かと言って、そのときに航太郎に、実際になにがどうなっているのかもわからない。航太郎本人は、なにも知らないかもしれない事情を聞くわけにもいかない。
結局は、ただ見ていることしか出来ないのだ。
そうとはわかっていても、居ても立ってもいられない。
そのまま土曜日も日曜日も、ふと気がつくと、航太郎のことが頭に浮かんでいた。
そうして、ようやっと迎えた月曜日の日。正志は、いつもよりも早く起きて、すぐに着替えると、いつもよりも早く店に入った。
ところがだ。店に行ってみて、言われて初めて気づいたのだが、いつのまにか今日は休みになっている。
一週間ほど前にシフト表を確認したときには、今日は確かに、朝の八時から入っていたはずだ。
自分が勘違いしていたのかと、他のバイトに聞いてみると、どうやらきのうの夜に所長がシフトを書き換えて、一方的に変更したらしい。
当然だが、正志には、その連絡はなかった。
だから、いつもより人数が一人多かったのだ。
所長が出勤するのを待って、文句の一つも言ってやりたいが、その所長も今日は休みになっている。
それに、いまは馬鹿所長のことよりも、航太郎のことの方が先だ。
ほかの連中は、航太郎と個人的な関係があるわけではないし、もちろん一切なにも知らないわけだから、もうこのまま制服に着替えて、オモテに出るというのは、不自然すぎて出来ない。
航太郎が店の前を通るまで、もうそんなに時間がない。
要は、そんなに不自然じゃなければいいわけだ。
そうなれば取れる行動は、もう一つしかない。
正志は、航太郎が歩いてくるであろうタイミングを見計らって、その方向に歩き出す。
当然のことながら、航太郎のほかにも仲が良い子が複数いるので、その子たちからも声を掛けられることになる。
それを上手にかわしながら歩いていく。
航太郎だ。今日は、友だちと二人ている。
その航太郎が、どんどんと近づいてくる。
二人はお喋りに夢中で、どうやらこっちには気づいていない。
ひょっとしたら二人とも気づいてくれないかもしれないとちょっと不安でいると、すれ違う手前で、航太郎が正志に小さく手を振ってくれた。
正志も自然とこぼれ出た笑顔で、小さく手を振り返す。
すれ違ったあと、正志はちょっと安心した。
この数日は航太郎のことが頭に浮かぶと、悪い方のことばかりを連想していた。
でも、それはどうやら間違いだったようだ。
航太郎はいつもと変わらず、元気そのものだ。
英男が航太郎のことを聞いてきたのも、連想した悪いことではなくって、全然別のことだったに違いないと、そう思った。




