この曇り空を抜け出そう!⑤(2000年代)
小学生というのは、かわいいというより、見ていて面白い。
朝は比較的静かに登校していく小学生たちも、下校となると、それはまるでガチョウの群れのようだ。
ガヤガヤと、いろんなお喋りに盛り上がっている。
小学生たちのお喋りは、聞いていてちょっと面白い。思い掛けない話題や言葉が飛び出してくる。
「ねぇねぇ、知ってる? 犬はたった一年で大人になって、そのあとは一年に四歳ずつ年を取っていくんだってぇ」
「へぇ~。すごいねぇ。それじゃ、あたしの家の犬はもう大人だったんだねぇ」
「でもさぁ。犬でいえば、あたしたちもう中年のオバサンってことになっちゃうんだよねぇ」
「え~っ!? それはヤダぁ! あたし、人間がいい!」
「人間がいいって、犬じゃないよ、あたしたち」
それと、突然変なことを聞いてきたりもするのだ。
「あのさぁ。大人になったら、なんになりたかった?」
「大人って……。オレもう、とっくに大人やしなぁ」
「だからぁ。子どもの頃。なんになりたかった?」
「なんにって……。なんやろなぁ……」
「えーっ!? ないのぉ。子どもの頃になりたかったもの」
「ん~? なんやろなぁ、子どもんときになりたかったものって」
「だからぁ。それを聞いてるの」
そうツッコミが入るが、それが一体なんだったのか、はっきりとは思い出せない。
「わからん。すぐには思い出せへんわ。もうずいぶんと昔のことやしな。今度思い出しとくよぉ」
「え~っ!? それじゃ、今度ね、今度」
そう念を押して、その小学生は帰っていく。
そんなところへ、また所長のクレームだ。
「池田く~ん、そんな子どもと喋ってないで、ちゃんと仕事してよぉ~」
そうネチネチといやらしく言ってくる。
これだけでもう、ちょっと楽しい気分になっていたのが台無しだ。
ただ、このことには、かなり強い味方がいる。
「こんにちは、池田さん。あとでクルマ洗車しに来ますね」
それは、この小学生たちの親たちだ。
子どもたちの安全の為に、小学校のPTAたちが、交代で通学路をパトロールしている。
こういう風に親たちに言われてしまえば、所長もこれ以上は文句を言えない。
いまは小学生たちと仲が良いと同時に、その親たちとも仲が良かったりするのだ。
ときには子どものことで、ちょっとした相談をされたりするときだってある。
所長が陰で歯ぎしりをして、正志を嫌う理由がそこにあった。
要は、正志のそういった人気を妬んでのことだ。
だからこそ、質が悪いのだ。
今日の朝、正志に声を掛けた小学生が手を振ってくる。
「おぉ。お帰り、航太郎」
「ただいま。どーしたのぉ? ちょっと元気ないよぉ」
この子は、正志が朝と比べて、ちょっとだけテンションが下がっていることに、すぐに気がついたようだ。
そういうことに気がついてもらえると、それがたとえ小学生でも、すごく嬉しい気持ちになって元気がでる。
「そんなことあらへんよぉ。オレは元気やから大丈夫やでぇ」
そう空元気なところを見せる。
「ふ~ん……。そう」
なんだか、それをちょっと疑っているような様子だ。
「大人もさ。やっぱり、いろいろと大変だよね」
なにを察してくれたのか、そういう言葉が掛けてくる。
こんな気持ちのときにそんなことを言われると、なんて返したらいいのか、複雑な気持ちだ。
「なんや、ようわからんけど。心配してくれて、ありがとうな」
それが、素直に口から出た言葉だった。
「ほな、クルマに気をつけて帰るんやで」
そう言うと、航太郎は少し照れ笑いを浮かべて、「うん。じゃあね」と、手を振って帰っていく。
いまの航太郎という子もそうだが、この小学生たちと話をすると、ちょっと嫌なことがあっても、どこか救われた気持ちになる。
そして、子どもたちには、これからたくさんの夢があるんだなと思うのだ。
だが、それは同時に、自分ももうそんな歳になってしまったんだなと寂しくも感じる。




