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断片集 【ハイブリッドパフォーマンス】  作者: 志村けんじ


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7/7

この曇り空を抜け出そう!⑤(2000年代)

 小学生というのは、かわいいというより、見ていて面白い。

 

 朝は比較的静かに登校していく小学生たちも、下校となると、それはまるでガチョウの群れのようだ。


 ガヤガヤと、いろんなお喋りに盛り上がっている。


 小学生たちのお喋りは、聞いていてちょっと面白い。思い掛けない話題や言葉が飛び出してくる。


「ねぇねぇ、知ってる? 犬はたった一年で大人になって、そのあとは一年に四歳ずつ年を取っていくんだってぇ」


「へぇ~。すごいねぇ。それじゃ、あたしの家の犬はもう大人だったんだねぇ」


「でもさぁ。犬でいえば、あたしたちもう中年のオバサンってことになっちゃうんだよねぇ」


「え~っ!? それはヤダぁ! あたし、人間がいい!」


「人間がいいって、犬じゃないよ、あたしたち」


 それと、突然変なことを聞いてきたりもするのだ。


「あのさぁ。大人になったら、なんになりたかった?」


「大人って……。オレもう、とっくに大人やしなぁ」


「だからぁ。子どもの頃。なんになりたかった?」


「なんにって……。なんやろなぁ……」


「えーっ!? ないのぉ。子どもの頃になりたかったもの」


「ん~? なんやろなぁ、子どもんときになりたかったものって」


「だからぁ。それを聞いてるの」


 そうツッコミが入るが、それが一体なんだったのか、はっきりとは思い出せない。


「わからん。すぐには思い出せへんわ。もうずいぶんと昔のことやしな。今度思い出しとくよぉ」


「え~っ!? それじゃ、今度ね、今度」


 そう念を押して、その小学生は帰っていく。


 そんなところへ、また所長のクレームだ。


「池田く~ん、そんな子どもと喋ってないで、ちゃんと仕事してよぉ~」

 そうネチネチといやらしく言ってくる。


 これだけでもう、ちょっと楽しい気分になっていたのが台無しだ。


 ただ、このことには、かなり強い味方がいる。


「こんにちは、池田さん。あとでクルマ洗車しに来ますね」


 それは、この小学生たちの親たちだ。


 子どもたちの安全の為に、小学校のPTAたちが、交代で通学路をパトロールしている。


 こういう風に親たちに言われてしまえば、所長もこれ以上は文句を言えない。


 いまは小学生たちと仲が良いと同時に、その親たちとも仲が良かったりするのだ。


 ときには子どものことで、ちょっとした相談をされたりするときだってある。


 所長が陰で歯ぎしりをして、正志を嫌う理由がそこにあった。


 要は、正志のそういった人気を妬んでのことだ。


 だからこそ、タチが悪いのだ。


 今日の朝、正志まさしに声を掛けた小学生が手を振ってくる。


「おぉ。お帰り、航太郎こうたろう


「ただいま。どーしたのぉ? ちょっと元気ないよぉ」


 この子は、正志まさしが朝と比べて、ちょっとだけテンションが下がっていることに、すぐに気がついたようだ。


 そういうことに気がついてもらえると、それがたとえ小学生でも、すごく嬉しい気持ちになって元気がでる。


「そんなことあらへんよぉ。オレは元気やから大丈夫やでぇ」


 そう空元気からげんきなところを見せる。


「ふ~ん……。そう」


 なんだか、それをちょっと疑っているような様子だ。


「大人もさ。やっぱり、いろいろと大変だよね」


 なにを察してくれたのか、そういう言葉が掛けてくる。


 こんな気持ちのときにそんなことを言われると、なんて返したらいいのか、複雑な気持ちだ。


「なんや、ようわからんけど。心配してくれて、ありがとうな」


 それが、素直に口から出た言葉だった。


「ほな、クルマに気をつけて帰るんやで」


 そう言うと、航太郎こうたろうは少し照れ笑いを浮かべて、「うん。じゃあね」と、手を振って帰っていく。


 いまの航太郎こうたろうという子もそうだが、この小学生たちと話をすると、ちょっと嫌なことがあっても、どこか救われた気持ちになる。


 そして、子どもたちには、これからたくさんの夢があるんだなと思うのだ。


 だが、それは同時に、自分ももうそんな歳になってしまったんだなと寂しくも感じる。

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