この曇り空を抜け出そう!⑨(2000年代)
そのファミレスからの帰り道。トボトボと歩いていると、また偶然、一人でいる航太郎に会った。
こっちに気がついて目が合うと、航太郎が真っ直ぐに正志の目を見る。
「おぉ、航太郎! 偶然やな。また一人で遊んどるんかいな。どないしたんやぁ? 最近元気がないでぇ」
正志は自分沈んだ気持ちに気づかれないように、わざと明るく振舞う。
「ん~……」
航太郎が頭をもたげる。
「ん~じゃわからへんやろ。どないしたんや?」
自分の気持ちを隠すように。ペラペラと言葉が出てくる。
「ん~……」
もう大体の事情を知っててなんだが、航太郎はやはりなにかを隠しているようだ。
「言うてみ。オレたち友だちやろ」
年が二十は離れていてなんだが、それ以外に二人の関係を表す言葉が見つからない。
「友だち?」
航太郎が、不思議そうに聞き返す。
「そや、友だちや。友だちにだったら、話せることだってあるやろ」
自分で友だちという言葉を強調して言ってみると、本当に航太郎とは友だちではないのかと思う。
「うん。ありがとう!」
「ありかとうって、ありがとうなんて言われること、なんも言ってへんで」
「うん。それでも、ありがとう」
「なぁ、航太郎。今度オレのうちに遊びに来るかぁ?」
「遊びに行ってもいいの?」
「もちろんや。遊びに来ていいで。ただし、オレが休みの日やないとダメやけどな」
「うん。わかった。じゃ、今度遊びに行く!」
航太郎は、嬉しそうに答えた。
「ほな、また今度な! なんやようわからんけど、元気出さんとアカンで」
そう言って正志は、航太郎と別れた。
そこに。
「あの、すみません」
航太郎が見えなくなってすぐに、後ろから若い女の声が、正志に声を掛ける。
振り向くと、スーツ姿の小柄な女の人が立っている。
正志が見たところ、歳は二十七から二十九ぐらいだろうか。
「初めまして。どうもすみません」
そう言って、ペコリと頭を下げる。
「はぁ……。あのー……。なんでしょうか?」
突然見知らぬ女性に、声を掛けられたので、新手の詐欺かなにかではないのかと疑った。
「いまの……。池波航太郎くんとお知り合いですよね」
「はい……。それが、なにか?」
「あの、わたくし池波航太郎くんのクラスの担任をやっております、濱田祥子と申します」
「はい……。そのハマダショウコ先生が、僕になにか?」
「はい。ちょっとお話……。お時間よろしいですか?」
「はい。よろしいですけど……」
なんだかこの先生は、必死な様子なので、無下に断るわけにもいかない。
それに、それが航太郎の話となれば尚更だ。
ここでこのまま立ち話というわけにもいかないので、場所をさっきのファミレスへと移した。
「え~っと……。なんてお呼びすれば?」
「あっ!? あの、どうも初めまして、池田正志と申します」
「あの、池田さんって、ガソリンスタンドにお勤めの方ですよね」
「はい。そうですけどぉ……。知っとるんですか?」
「はい。クラスの子どもたちから何回か。他のクラスの子たちも、話をしてるみたいですね」
「そうですかぁ」
そう言われると嬉しくなって、抑えても顔が笑ってしまう。
「はい。ガソリンスタンドに、おもしろい人がいるって」
「おもしろいって、そんな。でも、変な悪いことも言うてるんですやろぉ?」
照れ隠しで、ついついそう聞いてしまう。
「そんなこと言ってませんよぉ。ただ……」
「ただ?」
「顔はお猿さんにそっくりって」
この「曇り空を抜け出そう!」の断片集は、ここで終わりとなります。
残念ながら、執筆当時に書けたのは、ここまででした。
9話に渡り読んでいただき、ありがとうございます。
今後、この主人公の「池田正志」のキャラを主人公にした
「職業はガッコの先生です(仮題)」を執筆しようかと思っていますので、
その際はよろしくお願いします。




