第二話 シャーリア特別学術区域
「身分を証明できるものはありますか?」
現在、俺達は足止めそれていた。
何かと言うとご察しの通り、門番だ。
何年か前に度重なる『邪剣教』の襲撃により、警備が強化されたらしい。
身分を提示するのも当たり前のことなのだろうが……
「《蒼の双星》よ《蒼の双星》!、貴方知らないのかしら?」
いや知らないから聞いてるんだろうよ。
まあ、この通りだ。
無いものはない。
帝都でアンナの顔を知らない奴は少ないから、わざわざ証明なんてする必要がないのだ。これは、アンナの知り合いが出てくるのを待つしかないか?
「なあ、学区に行く奴が身分証明なんてもん全員持ってるわけじゃねぇだろ?。そこん所どうすんだよ」
リアの疑問は正しいが、これはそう難しい話じゃない。変な奴じゃ無いって分かればいいから、学区からの入学許可証があればいいし、ギルド認定証なり周知の大会の徽章なり、何でもいい。
準備不足だったのはこちら、文句を口にするのはお門違いだ。
……………俺が魔力を放てば学園長が見に来てくれないかな?
「まあ落ち着いて、僕に任せてよ」
ジャックだ。
小さな身体が全員の前に出れば、彼は上着のポケットに手を突っ込み、時間を掛けず何かを門番へ見せる。すると、門番は「確認した」と道を開けてくれた。
「チェスの大会の徽章さ。優勝したし、結構有名な大会だからね」
あ、そうだった。
チェス___に限らず頭を使う遊戯に置いて俺達を含め殆ど、ていうか全員がジャックに敵わない。それでチェスの大会で優勝したのだが、まさか持ってきているとは。
用意周到、転ばぬ先の杖、先見にも程があるが助かった。見通していたのだろうか。
「やるわね、じゃ行きましょ。まずは学園長のところに挨拶ね」
頭が悪いわけじゃないだろうに、どうしてアンナはそう考え無しの行動を取るのだろうか。
分からないままも、皆と同様に着いていく他なかった。
■■■■■
「申し訳ありませんが、お引き取りください」
案の定門を通過することはできなかった。
街に入るときと同じように、やはり門番に止められる。当たり前だが、面倒に感じるのは仕方ないよな?
俺が通っていたときでさえ今と同じだったのだから、どんな屁理屈で誤魔化そうとも意味を成すことはない。
「ちっ…」
おい、今のアンナだよな?
「アンナさん?」
団長としてそれは駄目だろ、と説教しようとした丁度その時、背後から鈴の音がチリンと響いた。
勿論錯覚だとわかっていながらも、一種の驚きに満たされながら振り返ると、そこには子供とは言えなくとも若い女性がいた。ジャックでさえも目を見開いている、ということは彼女の種族が『凡人族』だということだろう。
「チンチクリンではありません」
言ってない。
恐らく彼女のことを知らない全員の心が一致した瞬間だった。
「久し振りですね」
「これはミシディア先生、お通りください」
アンナの敬語という上回る衝撃に固まる俺達。門番が呆気なく通した。
当たり前のように先生と呼ばれた女性のあとに着いていくアンナとレオ、そしてジャック。
「おい誰だよ説明しろよ!」
リアが言わなかったら、俺が言っていたな。
■■■■■
門から案内されて移動したのは質素な客間だった。
教師個人に部屋なんて、偉く特別扱いされてるな。
「初めまして《蒼の双星》一行方、私はミシディア・カルロッテ___アンナさんとユーリ君が在学中に教鞭を取らせて頂いた教師です」
「これはご丁寧に、ルナ・ネルヴァと申します」
「ジャスミンょ___ですよ」
「俺はリア!」
「えっと、リンカ・ヴァルト、です?」
「アディン・ネルヴァ、こっちがクロだ」
「カイト・バレイム、お噂はかねがね」
既に見知っていたのか、三人が自身を紹介することはなかった。
いつものことながら、ジャックの補足説明が入る。
「『皇帝』ユーリ・ハリスとその妹『水神』アンナ・ハリス、一代で大規模商隊を立ち上げた『商母』アミエラ・スー・シリア、スペルディア家を歴代最高峰まで押し上げた麗才『光絶』シャーロット・スペルディア、王都魔法兵団副団長『地鎧』ビートル・ソル・マチス、そんな面々を育て上げ学区において最年少で教師となった天才魔導師だよ。例に挙げた四名はアンナに関わりがあった人達で、他にも多岐に渡って彼女の教え子はその才を振るっているよ」
「く、詳しいですね……」
「実態はただのドジな女だけなのに」
「違いねぇ」
「先生だってそこまで言われたら怒りますよ?」
見た目と表情から、今聞かされた肩書を持っているとは到底思えない。アンナとレオに慕われていることも、それが起因しているのだろうか。
なんというか、取っ付きやすい人柄らしい。
「最年少とは言ったけれど、教師としてここで働くことができるのは二十歳からなんだ。卒業と同時に教師に誘われたのを実質的に考えると、最年少というわけだね。他にも二十歳で学区の教鞭を取った人なんているからね」
「見た目との格差…………彼は『小人族』ですね?」
その格差をアンタが言うのかよ。
「アディン・ネルヴァさん、チンチクリンではありません」
言ってねえよ。
チンチクリン以外は全員敵とでも思ってるのか?
自覚があるだけ厄介というか、多分これまで何回も言われて来たんだな。可哀想に。
「チンチクリンではないと言っていますが」
「言ってねぇよ」
おっと。
初対面なのに。
「アンナさん達はここへは何を?」
当然の疑問をミシディア・カルロッテは口にした。
教え子であるアンナが寄るのはおかしくない、だがギルドを連れてとなると話は変わる。帝都で活動しているはずの教え子がわざわざ学区で何をしに来たのか、軽々と訪れられる距離ではない故に気になるはずだ。まさか、『黒』を侵食していた俺を起こすために『賢者』と会っていたなんて、思わないだろうな。
「ここらへんに来るクエストがあったから久し振りに寄っただけです。先生とか学園長とかにも顔を出そうかなって思っていました」
「では、目的の一つは達成できましたね」
「はい、先生のおかげで」
「それではもう一つも達成するとしましよう。学長のところへ案内しますよ。私が入ればセリカ先生も通してくれるはずです」
セリカという教師は学長室の門番でもやってるのだろうか。
いや、秘書か?
昔は秘書なんていなかったが、あの頃とは違って忙しいんだな。俺のこと覚えてるだろうか。いや、忘れるはずがないな。何せ教え子が『黒龍』として『黒』と戦争を始めたのだから。
「では、着いてきてください」
歩き出す小さな背中を、俺達《蒼の双星》は追うのだった。




