表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第七章 シャーリア特別学術区域
100/195

第三話 選定

一切切りよくはないですけど、100話目です。


「ここが学長室です」

 

 門で出会った小柄な女性に導かれ、たどり着いたのは前と変わらない扉の前だった。

 彼女がコンコンと叩く。

 

「ミシディア・カルロッテです。《蒼の双星》の方々が面会したいと」

「入りなさい」

 

 学長の声だったが、秘書のセリカとやら居ないのだろうか。

 カルロッテ先生が扉を開けてくれ、促されるままにゾロゾロと中へ入る。

 最後の彼女が閉めると同時に扉の陰に隠れていた女性が扉の前に立つ。まるで逃さないとしているようだ。

 

「久し振りですね、アディン」

「久し振りです、先生」

 

 驚く仲間達。

 おい、俺が敬語を使うのもそんなにおかしいか。

 そしてそのようすを見て何を勘違いしたのか、話題をアンナの方へと変えた。

 

「お二方も壮健でなによりです」

 

 アンナとレオ、どちらも学区で優秀な成績を残した魔導師と戦士だ。記憶に新しいのだろう。この人にとって二人が大人になる時間何て一瞬みたいなものだからな。

 因みに、俺が学区に居たとき彼女はまだ若かった。見た目じゃなくて実年齢の話な。ミシディア・カルロッテと同じように最年少で学園長へと登り詰めた正真正銘神才の魔導師だ。現在知られている最上位回復魔法である【熾天の恵癒セラフ・ハイルミッテル】は彼女___マリア・ミリス・サウルディアによって生み出されたものだ。

 土壇場で超広域全回復は本当に助かったな。

 

「それで、今日は顔合わせのみでしょうか?」

「連れてきたわよ、昔のアディン」

「ありがとうございます。それでは他の皆様は学区の、いえシャーリアの見学でもいかがですか?、許可証を人数分用意しますが」

 

 昔からそうだが、アンナは言葉が足りないことが多過ぎる。

 そしてマリア先生も察しが良過ぎる。

 

「お願いします、丁度僕達もそのつもりで立ち寄りましたので」

「それではミシディア先生」

「はい、皆様私に着いてきてください」

 

 感慨など殆ど無くあっという間に段取りが終わり、早々に仲間達とミシディア先生が退出していった。

 最後にリンカは扉からヒョコっと顔を出すと小さく手を振った。少しばかりの困惑が解けたことに微笑みを浮かべて片手を上げると、リンカもまた破顔してバイバイと声を出さずに頭を引っ込める。

 

「仲睦まじいようで何よりです」

「いやちがっ……」

 

 訂正しようと振り返れば、そこには未だ若さを保つ女の笑みがあった。

 気まずさは、お互いなのだと気づく。

 視線で進められた椅子を引き寄せて腰を下ろし、マリア先生の真正面に対峙する。

 昔、いや大昔もこんな風に話したっけな。

 

「元気にしていたか、そう聞くのは野暮ですかね」

「元気、とは言い難い一六年間でしたよ」

 

 正確に言うと二ニ年だが。

 

「何があったのですか?、前も、今も」

「それは___」

 

 

 

 俺は話した。

 何もかもを全て包み隠さず。

 そうすることが、先生への礼儀だと思ったから。

 打ち明ける最中、ずっと瞑目して噛み砕くように呑み込むように聴いてくれた先生は、俺が話すのを止めると同時に立ち上がり、その腕の中に俺を抱いた。

 困惑と温もりが押し寄せ、思考が停止する。

 しかし、次に掛けられた言葉によって感情は決壊した。

 

「大変、でしたね」

 

 大変……

 大変なのは全ての人間に共通することだ。特段俺だけが大変だったわけでは__

 

「頑張りましたね」

 

 頑張るなんて言葉、誰でも言えて誰でもできることだ。そうやって称賛されるようなことを俺はしていない。

 

「辛かったんですね」

 

 辛いなんて、俺の口から発していいことじゃない。誰でもない俺が言うのは、許されない。

 

「痛かったんですね」

 

 痛い?

 何が痛い?

 俺の感じる痛みなんて、優しくて弱くて無意味なものだ。人に与えてきた痛みを、負わせた傷を、償い切れるわけなんて無いのに。

 

「泣いてもいいんですよ?」

 

 泣けるわけが、ない。

 どれほどの涙を見てきた。

 どれほどの涙を流させてきた。

 悲しみを、痛みを、辛さを、どれだけの人間を蔑ろにしてきた。

 俺にそんな権利など、無い。

 

「貴方のおかげで救われた人がいることを、守られた命があることを、知ってください」

 

 救った?

 血に汚れたこの手で?

 守った?

 死をもたらしてきたこの手で?

 無理だ。

 贖罪を。

 十字架を。

 俺が求められるのは、それだけだ。

 復讐に血を捧げた愚かな男の末路なんて、それでいい。

 

「そんなに自分を責めるのであれば、使いましょうか?」

 

 使う?

 何を?

 

 

 _____まさか!?

 

 

 駄目だ。

 それは嫌だ。

 あれだけは___やめてくれ。

 

「沈黙は肯定と受け取ります。では___」

「や、やめてくれ!」

「___わかりました」

 

 本当の自分の望みを知ってしまうことほど、恐ろしいことはない。

 もし俺が罪より救いを求めていたら、耐えられない。

 蘇った記憶の中で繰り返される血と憎悪、そして死。

 涙を流す女の首を撥ねた。

 愛する人を背中に守る男の胸を目の前で貫いた。

 生きることを諦めない戦士の四肢を斬り飛ばし眉間に刀を突き立てた。

 残酷に、無慈悲に、冒涜的に命を潰えさせてきた。

 

「身勝手ですね_____でもそれが貴方。復讐のために『黒』に魂を売り、世界を救うために『黒』を滅することに命を掛けた。誰が頼んだわけでもなく、貴方は一人でそれを成し遂げようとした。最終的に『魔法神』様が介入したものの、追い詰め封印可能なまで弱らせたのは貴方。身勝手で世界を救った男が貴方」

 

 エルを殺されて怒り狂った。

 視界に入る全てを壊した。

 だが、男よりも先に女を殺したとき、目が覚めた。

 あのときと同じ状況を作り出し同じように俺が命を奪った。その事実を目の当たりにしたとき、ようやく正気に戻ることができた。

 哭いた。

 叫んだ。

 頭を抱え喉を震わせた。

 押し寄せる罪の意識。

 蘇る慟哭の声。

 耳にこびりつく怨嗟。

 肌を這う肉片。

 顔を拭えば、粘つく血濡れた手。

 臓物は散らばり、血の海を作り、俺が立っているのは原型の分からない肉の山の上だった。

 

「償いを求めるのは___ただの傲慢ですよ」

 

 傲慢。

 そうだな。

 傲慢だ。

 自分よがりの身勝手な傲慢だ。

 耐えきれない罪の意識を少しでも薄めようと、偽善の救命を始めたのだ。それが、ただ世界を救うことに繋がっただけのこと。

 殆ど、復讐だ。

 俺を『黒』へ引きずり込んだ『邪剣王』への。

 求めたのは自分だというのに。

 

「やっぱ止めた、使います」

 

 え?

 

「【汝が十字架よ顕現し彼の者の罪を映し給へ】」

 

 そんな、駄目だ、止めないと…!

 

「【断罪か救済か選定せしめるのは己が贖罪】」

 

 魔力は視える。

 ここを乱せば___!

 

「【光と闇、天秤の傾きは如何に】___残念、先生にはまだまだ及ばないですね」

 

 あぁ___

 

「【選定の十字架ルード・ジャッジメント】」

 

 ___光が。

 ……

 

 …………

 

 

 ……………………

 

 

 

 …………………………………………あたた、かい……?

 

「罪悪感と実際の罪、その両方を足し合わせたものより、貴方がしてきた贖罪の方が上回っている。避けられない絶対の選定でこの結果、これでわかりましたか?」

 

 いいのか?

 許されても……いいのか?

 

「もう一度言います、奪ったものより救った命のことを考えてください」

 

 そうか……

 赦されるの、か……

 十分、やってきたんだな…

 ___なら、

 

「【喰らえ】」

「なに、を…?」

「償うことを止めるつもりはありません。でも、責め続けることは辞めます。これ以上は、俺を遺して死んだ人達の想いに反すると思いますから」

 

 罪は消えない。

 十字架は重く幾多に背負った。

 けれど、自己満足の罪悪感だけは、持ち続けない。

 前を向くことが、エル達の望みだろうから。

 

「それなら、話すことはもうないですね」

「いえ、まだまだありますよ。ここからは、楽しい話をしましょう」

「ふふ、そういう話は大好きです」

 

 本当に、察しが良過ぎる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ