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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第七章 シャーリア特別学術区域
98/195

第一話 シャーリアへ

間章である第七章開始となります。


「息災でな」

「ええ、またいつか会いましょう」

 

 アディンと他の面々が激闘と宴会を繰り広げた後に、彼ら___《蒼の双星》は『賢者』に別れを告げ洞窟をあとにした。

 陽の光を浴びるのは久し振りだ、とそんな錯覚を覚えた《蒼の双星》が目にしたのは、どういうわけかズタボロになった馬車であった。

 誰に壊されたのか。

 そも『賢者の洞窟』へ近づく者が居たのかという話だ。

 てんやわんや騒ぎ、結局モンスターの仕業として諦め出発しようとする中、アディンが徐に声と手を挙げた。

 

「俺、多分見つけられる」

 

 本来ならば目視もできないものを探しだすことなど不可能だ。がしかし、『彼がそういうのだから』と他の者はアディンが執り行う何かを見物することに。

 何やら範囲があるのか、彼はゆっくりと他の者から離れていき、互いの距離を目算したところで止まった。

 そして彼はブツブツと何事かを唱えると、瞑目していた眼を勢いよく開き、魔法名を強く発音した。 

 

 

「【神の睥睨(アルカサルガ)】」

 

 

 魔法発動と同時にアディンの瞳に浮かぶ〔破導〕の魔法円。

 ここでないどこかを視る様子で、その異様な気配に並べて気圧される。

 そして、高まっていた魔力が収縮し、魔法円が浮かんでいた瞳を閉ざせば、ふぅ、と一息ついて彼はこう宣った。

 

「北東に五km、丁度いい、行き先は王都だ。てか頭痛え……」

「遠くの方まで視たのかい?、凄いね……………で、人物の詳細は?」

「男、魔力は土、移動速度はそこまで早くない。大した馬じゃないな。クロに竜になって貰えばものの一時間で追いつくはず」

「ならそうしましょ。元々アディンに召喚させるつもりだったもの、ボコボコにするのと時間短縮の一石二鳥だわ」

「だな、じゃ、頼むわ」

「はいよ、クロ、変わってくれ」

「はいニャー」

 

 猫から人型へと変化したときと同じく間の抜けた掛け声が猫の口から響く。

 すると肉体の全てが光に、次いで体積がありえないほどに膨れ上がった。造り変えられていくその形は勿論、竜。そしてそれはやはり、アディンとアンナが闘技大会で戦ったときにアディンを間一髪で助けた黒鱗の竜だ。

 

「驚いたか?、クロは全部で猫、人型、虎、竜になれるぞ!」

 

 確かに荒唐無稽かつ埒外な存在だろう。

 だが………

 

「それ、他の召喚でも大丈夫じゃないの?」

「クロにやらせ過ぎ、ブラック過ぎよ、『黒』だけに」

「大して上手くないのにドヤ顔してるのがジャスミンらしいや」

「何よっ!」

「行かニャいのか?」

 

 痺れを切らしたクロが竜頭から猫口調というアンバランスな光景を見せ、無駄なことをした、と一同はそれぞれクロへと騎乗する。

 

「位置は送った、いつも通り頼むわ」

「了解ニャ」

 

 今も移動を続ける男の姿が、クロの瞼を閉じた暗闇の視界に浮かび上がった。

 

「しゅっぱつしんこーニャ!!」

 

 羽ばたいた翼によって生じた突風が地面に叩きつけられ、その巨体がグン、と上昇する。

 次の瞬間、彼らに襲いかかったのはとんでもない重力だった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「安全飛行は!?」

「うっひょぉぉぉぉぉぉぉぉたっのしぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 カイトとリアの正反対の反応。

 空を滑空するクロの上で仲間達は様々だった。

 ジャスミンに至っては慣れたように手離しだ。

 ジャックとルナは優雅な様子で言葉を弾ませている。

 アンナは終始無表情で、恐らく馬車を壊されたことにずっと怒っているのだろう。

 二頭の馬は奪われ、片方は命を奪われた。

 だが馬は馬、そこまで気にすることはないだろうに。

 騒ぐ背中の者達に不満を抱かないのは、クロが俺という厄介な奴にずっと付き合ってきたからだろうか。

 まあ、俺と同じぐらい《蒼の双星》として暮らしてきたしな、感じていることは変わらない、か。

 

「ところで気になったのだけど、わざわざその人物を追う必要はあるのかな?」

「ジャック貴方、馬と馬車を壊した奴を許せるの?」

 

 睨み剣呑な言葉を返すのはアンナだ。

 自分のものを奪われるのをやけに嫌うよな。俺達がまだ加入していない昔に何かあったのだろうが。

 

「いや、そもそもアディンが座標を把握してるんだ。僕達には優れた魔導師がいる。君だよ」

「……………そうね」

 

 あ、やっぱりジャックはアンナの取扱いが上手いな。

 意見と一緒に持ち上げれば大体考えを変えてくれることが多い。まあ頑固だから変わらないものは変わらないことは多々ある。レオでさえもジャックの手並みに目を見開いていた。

 まあ、今の俺は『魔力眼』を開いている状態だから、実際に視えているわけじゃないけどな。

 

「アディン、正確な位置を教えなさい。ここから撃ち殺すわ」

「殺すのはやりすぎだろ……」

「命は一つ」

「それを言うなら俺らが虫を殺したときも同じなんだが……」

 

 俺とレオが過激すぎるアンナの報復に物申す。

 元々二人のギルドだったが、どうしてこうもアンナの思考は短絡的なのだろうか。

 

「虫だって私達を殺しに来てるのよ、文句を言われる筋合いはないわ」

 

 それは、モンスターだからだろう。

 

「ともかく殺すのは無しだ。俺達の報復の後にどうなろうと俺らが殺すことにはならない。運が良けりゃ何にも襲われることなく回復するはずだ。手足を氷でぶち抜くぐらいにしとけ」

 

 前言撤回。

 レオもまた過激だった。

 魔力を視ているからわかるが、ジャックとカイト以外の頬は引きつっている。

 

「そうね、ほらアディン、早くしなさい」

 

 その一助となるのが嫌だね。

 やるけど。

 俺だって腹立ってるし。

 

「アンナ、魔力を抑えてくれ、じゃないと共有できない。クロは俺から生まれたから簡単にできるだけなんだ」

「はい、やったわよ」

「は、早いな……普通そんなすぐにできるもんじゃ……」

「早くしなさい」

 

 流石アンナ。

 魔力関しては本当に敵わないな。

 よし、やるか。

 まずはアンナの魔力の波に合わせる。これは人それぞれで、属性は色、強さは振幅、練度は振動数だ。

 本来なら自分より高い魔力や練度に合わせることは不可能なんだが、アンナは自身に纏う魔力を抑えてくれた。そのおかげで調節が可能になった。

 ………抑えてこれか、通常のアンナと同調するには魔人にならないといけないな。

 

「どうだ、視えるか?」

「ええ、私だって『魔力眼』は使えるもの」

 

 さいですか。

 

「この距離じゃ極大は必要ね_____【魔槍(ランス)】」

「完全に殺しに行ってるな!?」

 

 ツッコミありがとう、カイト。

 

「あら、躱されたみたいだわ、反応が消えてないもの。流石に遠いときついわね…」

 

 うんそうだな。反応は消えてないな。けどさ、反応が消えるってのは死ぬってことだからな!?

 いや報復だろ!

 殺す必要無いだろ!

 てかまだその気だったのな!

 

「次は当てるわ、仕方ないから速度重視にしてあげる。感謝しなさい____【魔矢(アロー)】」

 

 誰に言ってるのだろうか、言葉が届くわけでもないのに。

 あ、倒れた。

 本当に当たったらしい。

 精度凄いな。

 俺なら範囲魔法で吹き飛ばすが……

 

「命中…………凄いな」

「えっと………五km離れてるんだよね?」

 

 リンカの戸惑いもわかる。

 普通ならば無理だろう。

 

「ほらでも、アディンだってその人物を探し当てているわけだし。正確な位置がないと例えアンナでもピンポイントで撃ち抜くのは厳しいんじゃないかな」

 

 ジャックの言う通りだ。俺も凄いぜ。アンナには劣るがな。

 まあ事なきは得た。

 あとは___

 

「あとはシャーリアで寛ぎましょ。私とレオが居れば大体の施設は利用できるわ」

「あ、そういえばあそこってオンセンがあるのよね?。楽しみだわ」

「そうだね、ヤクモっていう幻の国から来た人間が伝えたものらしいよ」

「幻でも何でもないわ。実際にヤクモがあるのはお兄ちゃんが確認してるもの。いつか行きたいわね」

「ヤクモかぁ〜、私も行ってみたいなー」

 

 そのヤクモってのは、『古の大戦』の時代にはなかったな。

 誰かが建国でもしたのだろうか。

 

「だが、ヤクモとやらはそのオンセンを伝えた者が作った国なのだろう?」

「そう言われてるな」

「ならその大元はその者が考えたものなのか?」

 

 確かに、姉ちゃんの疑問は正しい。

 時間の錯誤が生じている。

 ヤクモから伝えられたオンセン。

 ヤクモを作った男。

 これが同一人物なら、矛盾している。

 伝えた者が作ったヤクモからどうしてオンセンが伝わるというのだろうか。

 元々の知識は?

 全てその人物の頭で考えられたことだというのか。

 まず、地面を掘ってお湯が出てくること自体、誰も知らなかったというのに。

 

「それについては俺が聞いたことあるぜ。ニホンって国から来た奴がオンセンを、他にも魔道具を考案したのもそいつらしい。あとは……………ああ!あれだ!、『付与(エンチャント)』もらしいぜ!」

「え、『付与(エンチャント)』まで?、凄いね………」

「何だその発明人間」

「てかお兄、ニホンってどこよ、聞いたことないわ」

「お兄ちゃんからもそんな話なかったわよ」

「イセカイ?、とかなんとか」

「異世界?、まさかそんな理論が通用するのかい?」

「まあ、どこの空間に居るんだかわからない奴でも俺が召喚できんだから、異世界ぐらいあるんじゃねえの?」

 

 クロがなれる『宵闇竜(ダークナイトドラゴン)』もこの世界に存在しないしな。

 

「まあそう言われればそうなんだろうけど…」

「お兄ちゃんならできそうね」

「出来るならやってるだろ、あいつなら」

「『死者蘇生』ができるのにやってない理由があるでしょ」

「………確かに」

 

 ん?

 ちょっと待て今聞き逃せない単語が……

 

「あ、滑らしたわ」

「『死者蘇生』ってどういうことだ!?」

 

 カイトが叫ぶ。

 ああ、俺も叫びたいよ。

 何だよそれ。

 『魔法神』さえそんなこと言ってなかったぞ。

 あいつは『魔法神』の生まれ変わりじゃないのか?

 てか『魔法神』………お前そのまま継ぎやがったなぁ?

 人格まで干渉しなかったのはいいが、やり過ぎだ。ユーリがどれだけ苦労したのか想像するだけで同情するわ。それも幼少期に変化は来たはずだ。周りが子供過ぎて辛かっただろうな。

 

「お兄ちゃん、できるはずなのよ………。前に聞いたときはやらないって言ってたから……。普通、『出来るか』って聞いたら『出来ない』って返すはず、なのに、『やらない』って」

「言葉のあやだけど………確かにその返答はそう考えざるを得ないね」

 

 『死者蘇生』が本当にできるなら、してもらいたい奴はいる。

 俺が魔人となる切っ掛けとなった女だ。

 言わないけどな。

 それは、死者に対する冒涜だ。

 恐らく、『賢者』もやっていた魔力に保存された記憶から人格を再現して、死に絶えた器を『再生』で巻き戻し埋め込むのだろう。できるにはできる、俺という存在がいれば、より。『魔力眼』に関してだけは『魔法神』より俺の方が優れていた。二人で強力すればできないことはない。

 ………あれ?、忘れてたけどこの話前にしたくね?

 あいつ、やりやがったなぁ……

 

「この話はやめだ、シャーリアにはあとどれくらいで着くんだ?」

 

 余り良くない流れだったため、その話題転換はありがたかった。

 レオもよろしく無いと感じていたようだ。

 それに、ユーリには帰ったら問い詰めないとな。

 人の記憶を弄るなんて悪趣味な真似、絶対許さねぇ。

 

「あと三十分ってところだ、そんなに時間は掛からないな」

 

 

 

 

 

 それから俺達は、『ヤクモ』と『皇帝』を避けて話を弾ませるのだった。

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