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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第六章 賢者の洞窟
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第十五話 外法


 ここは……?

 

 

 意識が途切れ、目を覚ませばそこは暗闇に満たされた空間だった。

 目、鼻、口、耳、肌、全ての感覚が機能を停止していて、上下左右前後の区別はつかず、まるで魂のみが存在するかのようだ。

 顔を触ろうとしても空振りするし、踏み出そうとしても地面を踏むような反発もない。

 光は無い__いや、奥にとても小さいけれど一つだけ星のような光の粒がある。

 歩いていく、という表現は適切ではなく『漂う』の方が合うだろう動きで近づき、ようやくその光源が視認できるほどの大きさになった。

 その時だ、視界を光が満たしたのは。

 いや、光じゃなく『白』だ。

 視界と空間を満たしたのは完全なる不純物の一切無い『白』だった。

 

 そして、目の前には真っ白い光で構成された肉体を持つ少女がいた。

 

 どうにも見覚えがあり過ぎて、困惑してしまう。

 長い光沢のある白い髪を編み、瞳は翡翠で、肌は白い。

 胸部、臀部、腰、全てが一致している。

 そう、私だ。

 原寸大の私の姿がそこに浮かんでいた。

 何が起こるのか、何の意味があるのか、一切合切解らずこんがらがる頭に、さらなる衝撃が加わった。

 

 

 ___こんにちは、やっと会えたわね……リンカ___

 

 

 へ?

 

 

 ___驚くのも無理はないわ。初めて会うし、いきなりのことだろうし。でも、私は貴女をずっと見てきたわ。そう、ずっとね___

 

 

 何を知っているの?

 目の前の瓜二つの少女が口を開けばやはり自分の声で、口調が重なる。

 別人なのは判った。

 兎も角、ここは………どこなの?

 

 

 ___貴女の精神世界よ。少し干渉させて貰ったけれど、ずっと一緒にいたから特に問題無く成功したわ。完璧な術式だったし後遺症も無いはずよ___

 

 

 あなたは……?

 

 

 ___そうね、自己紹介がまだだったわ。でも、私はもう貴女の全てを知っているわ、リンカ。リンカ・ヴァルト___

 

 

 会ったこともない。

 なのに、あなたは何で私の名前を……?

 

 

 ___だから言ったじゃない。貴女をずっと見てきたって、貴女が生きてきた一六年間を、ずっと___

 

 

 どういう、こと?

 

 

 ___だから自己紹介するのよ、そう私は………、エルナリーゼ・タンドル、エルって言えば解るかしら、さっき見てたわよね?___

 

 

 エル、エル、エル…………__っ!?

 まさか……、あの?

 

 

 ___そうよ、まさかのあのエルよ___

 

 

 でも、なんで……どうしてっ!?

 

 

 ___ちゃんとこれから説明するわ。まあ、余り時間が無いから簡潔に纏めるけれど………まずはこれを知っておいてもらうわ___

 

 

 知っておく?

 

 

 ___ええ、貴女と私の関係についてよ___

 

 

 関係………、でも、私はあなたを知らないし……

 

 

 ___でも、私は貴女を知ってる___

 

 

 じゃあ、私達の関係は……?

 

 

 ___生まれ変わり___

 

 

 へ?

 

 

 ___私と貴女の関係は、生まれ変わりよ。私……エルの生まれ変わりが貴女……リンカなのよ___

 

 

 どういうこと?

 生まれ変わりって……

 意味分かんないよ………

 

 

 ___そうでしょうね……、だからこそ、私が今から説明するわ。時間が無いから一回しか言わないし、質問も数回しか答えられないわ。………まずは、私が死んだときの話からしましょうか。その方が、整理をしやすいでしょうし___

 

 

 うん、わかった。

 あんまり信じられないけど、あなたの話は聞こうと思う。

 

 

 ___ありがと、それでこそリンカだわ。…………そうね、私が死んだときなのだけれど___

 

 

 

 

 

 そうして、私の姿を形取ったエルの話が始まった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 命の灯火が燃え尽きた時、今とは逆だけど真っ白い空間に私はいた。

 

 身体___は無かったけれど暖かくなって、次に気付いたときは空にいたの。すっごく高い、雲の上にね。

 で、意味が分からなくなるのは当然で、どうしたものかと見回したら、何と下に白い線が続いていたわ。

 現状を把握する手段が全くなかったわけだし、その道標はありがたかったわ。

 そうしてゆっくり、導かれるままに降りていくとね、そこには一つの家があって、覗く間もなく壁をすり抜けちゃって、そうやって確認した中では丁度赤ちゃんのお産の場面だったわ。

 それで、気がついたのよ。

 霊体になってると殆ど自覚している私が、お母さんのお腹から伸びる白い影が見えてるってことをね。

 見間違いならよかったわ。

 必死になっていて気づいてないだけならよかったわ。

 でも、私は分かってしまった。

 赤ちゃんは、もう死にかけだということが。

 叫んだわ。

 もう駄目って。

 このままじゃ貴女が死んじゃうって。

 でも、私の声は届かない。

 既に死んでいる私の声は、届かない。

 

 天啓だったわ。

 

 打ちひしがれた私に舞い込んできたその考えは。

 何が聞こえたわけでも、見えたわけでもない。でも、何故か理解は出来ていたわ。

 流れるように、導かれるように、その白い線にそって手を動かして、全く知りもしない詠唱を口にしたわ。

 すると私はお母さんのお腹の中___いえ、赤ちゃんの中に吸い込まれるように引かれて、それに私は逆らわず身を委ねれば、外に出かけていた白い影はもうどこにも見当たらなかったわ。

 

 そこから___私と貴女の人生が始まる。

 

 産まれたての貴女はそれはとてもとても可愛らしくて、まだ生前の記憶と感情が明瞭に残っていた私はアディンとの子供のことを想像したわ。もう一生会えないアディンとの、ね。

 本来ならここで貴女に多少の負の感情を抱いたのかもしれないけど、そのときの私は何故か優しい気持ちになれていたわ。今では貴女が類稀な『白』と『正』の力を宿していたからこそだと分かってるけれど。

 

 そして、私の新たな生は___貴女が一つの水晶に触れるところから始まる。

 

 前触れなんて一切なかった。

 何の意図的な現象なんてなかった。

 偶然に偶然が重なり、偶発した現象が干渉し、遭遇した物質が影響したことで発生したのが、この私を封印した封器__『光撃玉』なのよ。貴女が触れたその水晶に、私の魂が移植されたの。

 これによって、私は外部___つまり貴女の身体の内側以外に干渉出来るようになった。

 本当にただの偶然によって引き起こされた自然現象みたいな出来事だったわ。

 それから貴女はどんどん成長していったわ。

 這い這いから卒業して歩けるようになって。

 あーうーしか言えなかった口が言葉を喋るようになって。

 興味の湧いたものに触ろうとするのから理知的に考えられるようになって。

 母親にでもなった気分だったわ。

 ふふっ、母親が二人なんておかしいわね。

 

 でも、そんな楽しい日々は唐突に終わりを告げた。 

 

 そう、奴らの襲撃よ。

 これについては話さなくても分かるわよね?……ごめんなさい、そんなつもりはなかったのよ。

 お母さんが貴女を逃した理由…?

 ええ、理解しているわ。

 ………仕方、ないわね。

 もう整理は殆どついてるみたいだし、隠すのは道理じゃないわね。

 まず始めに知っておいて欲しいのは、貴女のお母さんは貴女より『白』の扱いが上手かった、ということよ。

 騒がないで黙って聞いて。

 私だって、貴女とおんなじくらいお母さんと接してきたのよ?、貴女の辛さを誰よりも分かっているのは___私。

 お母さんは強かった、貴女よりも。

 だから、逃したのよ。

 あのとき襲撃してきた奴の中には邪眷属もいた。

 まだ力を十全に使いこなせていない貴女がいたところで、何も変わらなかったの。だから、お母さんは貴女を逃した。

 お姉ちゃんも、妹も、生き延びることが出来ない___いえ、誰を未来に残すのか、その取捨選択の末の封印だった。

 全員逃げるべきっていう戯言は言わせないわ。

 お母さんが何も感じないでそうしたとでも?、そんなわけないでしょ。

 どれほどの辛い想いで貴女だけを逃したのか。

 貴女に未来を与えたのか。

 よく考えれば、賢い貴女なら分かるはずよ。

 

 …………話を変えるわ。

 

 何故貴女が私の産まれ変わりなのか。

 確信を持ったのは最近だけれど、それまでに何度か兆候はあったわ。

 食事の趣向は同じ。

 思考のパターンも同じ。

 沸点も同じ。

 何より、私は貴女みたいな女の子になりたかったもの。

 そして最大の決定点が___アディン。

 貴女も私も、アディンのことを好きになっているわ。

 ええ、ただの偶然と片付けてもいいけれど、そうだと仮定するなら確実におかしいことがあるわ。

 貴女、何でアディンを好きになったの?

 助けられたから、紳士だったから、優しかったから。

 ええ、理由はあるわね。

 でも軽すぎるのよ。

 何がってその理由よ。

 どう考えても、人が人を好きになるのには軽すぎるの、その理由は。

 助けてくれたから好きになる?、最初に考えていたのはそんな初心なことじゃなかったじゃない。

 紳士だから好きになる?、世の中に紳士な性格の人間なんて山ほどいるし、それを理由にするならジャックも当てはまるはずよ。

 優しかったから好きになる?、そんなありふれた、何の想いの欠片もない上っ面で、胸が動かされるわけないわ。

 不可解に、強制的に、心が動かされた。若しくはその事柄に関してのみ感受性が高くなっていた。そう想定した方が納得できるわ。

 そして、私はアディンを愛したまま死んだ。

 そう、計り知れない未練を抱いたまま、生を終えたのよ。

 私の想いを継いだことで、貴女はアディンに恋をした。

 勿論、その気持ちが嘘だとは言わないわ。でも、貴女にも自覚があるはずよ。不自然な心の動きがあったことを。

 

 それで、何故このタイミングに私が貴女に話しかけたか。

 

 それはやっと貴女の奥底に眠る『神使』の力を顕現させる準備が整ったからだわ。何の因果か、貴女の力もアディンと似た継戦能力に長けて強化を積み重ねていくものだったわ。

 ええ、今から貴女はアディンを救うのよ。

 だから私からお願いするわ。

 

 私の分も___彼を愛してあげて。

 

 一度私を失ったから、多分アディンの方からのアプローチは無いと思うわ。また同じ想いを、また自分のせいで大切な人を死なせてしまうのを、恐れているから。

 だから、決心がついたのなら、貴女の方から想いを告白してあげて。

 私は良いのかって?

 何言ってるのよ。

 アディンなんかより、リンカが幸せになる方が私は嬉しいわ。

 彼だって少なからず貴女に好いているのは、何となく分かるしね。

 覚醒した力を使うのは、ただただ願えばいいわ。

 『白』は本来想いの力、必ず応えてくれるわ。

 何でもいい、貴女が心の底から願ったその想いを糧に、『白』は力を解放させる。そして想いの丈によって強さも変わる。

 私の役割はこれで終わり。

 『封器』としての力はスキルに集約されるし、それに紐付けられていた私の魂は解放される。

 泣かないで。

 本来私は死んでいたはずの、世界の理から外れた力によってお迎えが引き伸ばされだけの、生に渇く亡者。

 だからいいの。

 でも、ただのエゴだけれど……貴女の笑顔で終わらせて欲しい。

 ………うん、それでいい。

 それがいい。

 

 幸せになりなさいよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____うんっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (私は___アディンが大好き!!)

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、暗闇は晴れ視界は戻り、現実に戻った私を包んだのは温かい『白』の光だった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「【___契約印解放】」

 

 リンカと共に『賢者』の結界から飛び出した俺が向かうのはアンナ。

 暴走の兆しを見せた女の下だ。

 現状対『魔』として最も優れた俺がアンナを、対『黒』として最も優れたリンカがアディンを相手するのが最善だった。

 勢いよく地を蹴り、大剣を納剣しながら右手を前に突き出し、唱える。

 

「【燃え尽きろ】」

 

 陽炎が伸ばした手のひらから広がり、それに触れた全ての『魔』を強制的に消し飛ばしていく。

 勿論、対象として選んだものにのみ効果は有り、アンナの災厄と障壁、纏う魔力だけが消えた。外法の力だが、これは何回も俺の助力になった。

 魔力により暴走しかけていたアンナに殆ど意識は無く、それが無くなった今アイツは力場を失い重力に従い落下を始める。

 それに追いつけない俺ではない。

 落下地点に直ぐ様辿りつき、多少乱暴にしても問題無いほど頑丈であるため横抱きにして受け止める。

 意識はやはり完全に失っているらしかった。

 息はある。

 問題はないな。

 さて、あっちはどうなってるか___っ!?

 

 (不味いっ!)

 

 振り返った俺の目に飛び込んできたのは、振りあげられた大刀に目を見開いて見動きの取れていないリンカの姿だった。

 【焔転】を使えば間に合う、と地面を踏みしめた俺が度肝を抜いたのは、リンカから突如として放たれた白光の波動がアディンをまるで毬のように弾き飛ばしたからだった。

 記憶にはあるその姿に、俺たちは揃って口を閉ざし、唯一呟いた『賢者』の言葉がやけに強く響いた。

 

 

 

「『神使』……」

 

 

 

 

『外法』というのはここでは条理になぞらない業のことです。

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