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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第六章 賢者の洞窟
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第十六話 祝福


 (温かい……)

 

 エルとの邂逅、そして離別。

 あの空間から戻ってきた私はアディンを前にして瞑目する。

 感じる__魂に宿る『白』の魔力を。

 感じる__身に纏う『白』の全身鎧を。

 感じる__背に生う『白』の二対翼を。

 感じる__命を喰む『黒』の禍々しさを。

 自分の『白』が高まったからか、正反対に位置する『黒』も前より知覚出来るようになった。

 封器__『光撃玉』の力はスキルに集約されたとエルは言っていた。だからだろうか、今まで無かったはずのスキルの存在を感覚的に知覚し、元の『光撃玉』より高い性能を持ったものに変化している。

 〈飛翔〉と、新たに手に入れたスキルを発動する。

 

 (目を瞑っていたほうが、視えるものが多いかな)

 

 周りに浮かぶ五つ《・・》の球体の気配。

 その全てを魔法円に変え、重ね合わせ、唱えた。

 

「【断罪(ジャッジメント)】」

 

 天から放たれる裁き()

 ようやく瞼を持ち上げれば、そこには身体から膨大な蒸気を発生させる魔人の姿が。

 思ってたより、『白』は強くなっていたらしい。

 まるで特大の浄化魔法と変わらない効果だ。

 身体能力だって格段に向上しているし、まだ自分に『天翼族(ヴァルキリー)』として最高に位置する『神使』の力があったなんて信じられていないけれど、これがアディンのために発現したというなら、これほど嬉しいことは無い。

 アディンのために、私のために、何よりエルのために、みんなが笑える未来を引き寄せるんだ。

 私の願いは___みんなが幸せになること!

 

「【幸奉(カンセクト)】」

 

 祝福小魔法【幸奉(カンセクト)】。

 運気を高め『正』の感情を膨らませ、絶望を拭い去る。

 暗い顔なんて___誰にもさせない。

 

「【祝福(ブレッシング)】」

 

 祝福中魔法【祝福(ブレッシング)】。

 『正』に依存してあらゆる不利益を被るものを減少させる。

 加えて、『天翼族(ヴァルキリー)』としての特性も上昇し、〈飛翔〉による飛行速度は速くなり、『白』と『正』が増加する。

 エルが遺してくれた___願いと祈りを胸に!

 

「【天福祝浄(セレブレーション)】」

 

 祝福大魔法【天福祝浄(セレブレーション)】。

 『正』を増幅させ、『白』を全身に張り巡らし、体力・マナ・マインドを持続回復する。あらゆる攻撃に『白』が乗り、触れた『黒』や『負』を『白』や『正』に変え吸収する障壁が追加される。但し吸収した『白』は一時的なもので、魔法を切ると同時に失われる。また更に、祝福魔法の効果を増加するのだ。

 貴方の『黒』は___私が背負うから!

 

「【清純の憩いリセス・クララフィケイト】」

 

 祝福特大魔法【清純の憩いリセス・クララフィケイト】。

 魔法では珍しいマインド消費で、体力とマナを全回復、周囲に癒やしと浄化の力を齎す。『白』の持続的上昇、状態異常・不利効果の削除と無効付与、希望を抱く者の『身体魔力』及び『魔法魔力』を向上させる。

 どうか心を安らげて___前を向いて欲しい……

 

「【神聖光輪(ディバイン・ヘイロウ)】」

 

 祝福極大魔法【神聖光輪(ディバイン・ヘイロウ)】。

 体内のマナと接続して周囲の魔素から高効率でマナを作る、タンクの役割の光輪を背に展開。『白』による現象を強化する『空』を創造。特大以下全ての祝福を内包した領域を設置し友好存在への継続付与。

 そして小から極大までの祝福を発動したことでスキルが起動及び接続が行われる。

 [光撃玉]は大幅に強化され、操作性能、操作速度、マナ消費効率の向上。

 [集陽天撃]はチャージ中の動作不可が解除され、自動的に力が蓄積していき任意のタイミングで解放できる切り札へと昇化。

 〈剣士〉〈盾士〉〈魔導〉〈防御〉〈回復〉〈飛翔〉〈治癒〉〈魔力治癒〉〈精神治癒〉の全てがSへ、グレードはⅤへと上昇。

 

 

「みんな___私と一緒に戦って!」

 

 

 魔人の攻撃を捌きながら、防ぎながら、全てを唱え切った私はそう叫んだ。

 他に要らない。

 それだけで、伝わるからだ。

 ほら。

 やっぱりみんな動いてくれた。

 

「【解除(キャンセル)】!__儂も、まだまだ若いのぉ___【永霊の杯(エーテルグラス)】」

「【神化】!」

「「【霊装】!」」

 

 『賢者』様、ルナ、ジャスミンとジャック。

 『エーテル』が至る所から溢れ出し、それぞれの『器』が力を解き放つ。

 みんなが立ち上がり、みんなが前を向き、みんなが武器を執った。

 絶望に呑まれることも無く、希望が潰えることも無い。

 私達は帝都所属ギルド《蒼の双星》。

 訳あって仲間である、私の好きな人であるアディンと戦うけど、後で仲直りすればいいだけだから、気にしない。

 今まで見守ってくれた、今でもアディンを愛していた、今からの道を指し示してくれた、そんなエルのために、私は戦う。

 杖が、光が、剣が、鎌が『白』を閃かせ、世界を喰らわんとする『黒』に立ち向かっていく。

 

 ___走り出すみんなに置いていかれないように、私も___

 

 

 ___明日は笑えるように___

 

 

 

 ___様々な想いを胸に抱いて___

 

 

 

 

 ____一歩、羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 羽ばたいたリンカ。

 そこに意図せずヒラリと具現したのは、一枚の『白』い羽だった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 リンカに触発されて引き篭もっていた殻を破った一同。

 彼女の祝福は凄絶な効果を発揮し、押し潰さんとする『黒』の重圧をものともせず、それぞれの得物を振るう。

 敏捷に秀でた二人がいの一番に駆け出し、ルナは光による撹乱と速度に物を言わせた連続斬撃を、ジャスミンは付与を瞬間的に最大にする魔法で『シルフ』由来の金風を乗せて一閃を放つ。

 幻術も駆使して放たれた連閃。

 視界を遮り、魔力探知を乱す。

 しかし圧倒的な戦闘センスを有していたアディンはその尽くに対して反応し、殆どの斬撃を弾き払った。

 加え、隠れ蓑に切迫していた風はやはり不意を突き、丁度光刃を跳ね上げた瞬間の魔人を袈裟に切り裂く。

 突風がまともにその身を打つも堪える気配は無く、瞬時に塞がる傷を無視して異形の左手を振り抜いた。

 しかしジャスミンの風の足場による補助によって、二人は既に戦域を離脱しており、が空振りに終わる。

 が、そこに響いたのはルナの戦慄だった。

 

「私が知覚出来ない、だと!?」

 

 その背中には、斬撃の跡が。

 隠蔽が行使されていたのだ。

 ルナは自負のある幻術、つまり視覚及び感覚的妨害を看破することが出来なかったことから、その驚愕を表した。

 切り裂かれた衣服の合間から流れ出しているであろう血など気に求めず、深く深呼吸した彼女は一度瞑目、ゆっくりと瞼を持ち上げれば、静かな眼差しでアディンを見据える。

 

「【三日月(クレセント)】」

 

 そして詠唱。

 額に浮かんだのは呪文と同様の『三日月』。

 その右手に握られる光刃からは夥しい光粒が溢れ出し、それは霧散することなく身体に収斂、月光を纏ったルナの額は光を放ち、次いで神器の光が強烈に強くなる。

 ジャリ、という地踏音が聞こえたと思えば次の瞬間___パァンッ!と破裂音が空間を震わせた。

 響いたのは甲高い盛大な金属音。

 刃を交えるのは魔人と___ルナ。

 グニャリと彼女の姿が歪み、続いて耳に届いた音は乾いた斬撃だった。

 『身体魔力』によって強化されているはずの視力であるというのに、目で追うことさえも許されない連続瞬撃。

 幾多に走った剣閃を防がんとしたのは、彼らが散々減らそうと苦しんだ『黒』の障壁だったが、高い密度で編まれた光の刃はそれを貫通し、背中の仕返しとばかりに斬撃を刻む。

 そして今度は広くさせた剣の腹を殴るように障壁に叩きつけ、衝撃を利用して魔人の反撃を軽く躱した彼女は、今も光を放つ『閃月(アクセルムーン)』を水平に構え、喉を震わせた。

 

 

「【月蝕(イクリプス)】」

 

 

 ルナと魔人、両方の足下に同時に開いた魔法円。

 怪しく立ち上った靄が二人の身体に吸い込まれる。

 次の瞬間、光刃が闇色に染まり、魔人の身体に幾つもの傷が刻印された。

 そして、彼が受けた全ての攻撃が時を戻すかのように再現された。

 

「グ、ガァアァ!?」

 

 物理、魔法、ありとあらゆる被害に見舞われた魔人。

 例え一つ一つが小さいものだとしても、それが一挙に押し寄せたダメージは尋常ではなかった。

 彼の耐久が高すぎたことで多くの攻撃を受け止めてしまっていたことが、命取りとなっている。

 

「これは見せたことがあるはずだ、思考はあくまでも魔人ということか」

 

 これにより、こちらの手札が割れていないことが判明した。

 つまり、やりようは幾らでもあるということ。

 

「___【_」

 

 詠唱の気配はなく、無詠唱での発動だ。

 その前に潰す、とルナは持ち前の敏捷に任せて地を蹴った。

 脳裏を過ぎるのはあの殲滅魔法___【黒輪(ブラックネピュラ)】。

 ジャスミンでは間に合わないかもしれないが、ルナは違う。全ての能力が敏捷に特化し、スキルや魔法、アビリティを発動させれば誰も彼女に追いつくことはできない。

 自負があり、認められていた。

 故にどれだけ発動速度が優れていても___遅い。

 

「__塗潰(ブラックキャンセル)

 

 広がる波紋。

 脈打つ地面。

 

 (___え…?)

 

 突然の倦怠感。

 急激な鈍重感。

 消えた。

 消えてしまった。

 全てが。

 何もかもが。

 気付いたときには魔人が目の前に迫っていて、否、既に大刀を振り抜いた後だった。

 

「祝福も消されちゃったっ……!?___ルナ!!」

 

 視界に散る血潮。

 その鮮烈な赤の奥には___表情の消えた弟の見知った相貌。

 ブレる異形の手。

 顔を照らすのは『神』の残滓である燐光。

 次の瞬間には振りぬかれ、肉体がひしゃげる。

 空間を貫き重力を無視する身体。

 振動した頭に思考が追いつかず、猛然と迫るアディンが見えた。

 

「カイト__刀を貸せっっ!!」

 

 遠くで響く男性の声。

 アンナの介抱のため戦線を離脱していたレオは間に合わない。

 

「守るって__決めたんだっっ!!」

 

 もうはっきりとは聞き取れない女性の声。

 魔人が使った冒涜的な魔法により向上していた身体能力を失ったリアは遅い。

 

「誰も__失いたくないっっ!!」

 

 消えゆく意識の中、耳朶を震わせた少女の声。

 祝福が消えたリンカに今この現状を打開する手段は無い。

 駄目だ。

 私に集中して集まれば魔人の思う壺だ。

 それよりも勝つ算段を____

 

 

 

「『僕がいる』」

 

 

 

 遠くでも、不明瞭でも、か細いものでもない。

 近くで、はっきりと、力強い。

 優しくも胸の底から恐怖を呼び起こすような声音が、私を拐った。

 

「大人しくするんだ___【遮断(アンチセンス)】」

 

 

 そして、魔人は停止した。

 

 

「は、が、あ、わ………?」

 

 (何が、何が起こった………?)

 

 ルナの胸中を満たしたのは、ただただ困惑だった。

 ようやく落ち着いた彼女は、ジャックの手によって致命的状況から救い出されたことを理解すると同時に、魔人が突如として無様を晒したことに理解が追いつかない。

 ルナの姿を見失ったことで空振りするのならまだ分かるが、大刀を振るうことなく地面を削って地に伏せた魔人の姿は、滑稽で、無様で、不可解だった。

 

「感覚遮断、それが僕が今使った魔法の効果だ」

 

 そう宣ったのは、今もルナを所謂お姫様抱っこで抱えるジャックだ。

 

「たった一対象にしか使えないけれど、掛けた相手の全ての感覚を消去し、一定時間の経過か任意の解除まで永遠の暗黒に堕ちる魔法だよ」

「ぁ__」

「「ジャック!」」

 

 自分でも何を言葉にしようとしたのか分からないまま、少女二人が彼女らの元へと駆けてきた。

 

「待っていたよ、命には至らないが重傷だ、早く回復魔法を」

「うん」

「当たり前よ」

「リンカ、どこまで行ける?」

「別々にすればいると思うよ」

「それもそうね」

 

 たったそれだけの会話。

 そして手のひらをこちらに翳し、二人は同時に___ではなく先にジャスミンが唱えた。

 

「【復光(キュアライト)】」

「【舞い落ちる天の羽、降り注ぐ陽の光、被りし悪害を祓い、彼の者へ慈悲を】___【聖癒(ホーリーソール)】」

「【美しき金に彩られし花、汝の悲哀この風に預けよ】」

「【復光(キュアライト)】」

「【麗囁(キラライトウィスパー)】」

 

 そうして、ジャスミン、リンカが交互に回復魔法を私に掛けてくれる。

 

「ルナはそこでアンナと一緒に『賢者』様に守っていてもらう方がいいよ。後は僕たちに任せて、ゆっくり身体を休めるように」

 

 私は否応なく首を縦に振り、背を向け歩き出すジャックの背中を眺め、横たえられるアンナと同様に膝を折って身体を傾けるのであった。

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