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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第六章 賢者の洞窟
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第十四話 蒼と黒 白と黒

少し長くなっています。


 『連』の魔人『黒龍』と《蒼の双星》団長『水神』。

 二人の対峙は得も言われぬ緊張感を生み出し、両者の瞳は対照的な光を宿している。

 『黒』を全身に纏う魔人は予備動作を見せることなく肉薄、それと同時に喉を震わせて唱えた。

 

「【黒の訪れ───無限の果て(インフィニティ)】」

 

 アンナを敵として認め、自身の力を行使せざるを得ない状況に追い立てられたと自覚すること彼にはないだろう。

 短期決戦を必須とされた『水神』の相貌に陰りはなく、見据える先にいる魔人の急迫に、冷たい眼差しで応えた。

 

「【噴】」

 

 決して鼻で笑ったわけではない。

 突如として地面から放出される大量のマグマ。それに呑み込まれる寸前魔人は漆黒の翼を顕現させ加速、その一撃を避け切った。

 だが、

 

「【落】」

 

 天を覆う厚い雲から放たれる落雷。完全に読み切られた先で直撃を許した魔人、しかし、止まらない。

 全ての害は『黒』が相殺してくれる。

 大部減少したとはいえ、それは未だ半分を悠に越えている。

 いくら天才の魔法でもそう簡単に削られるものではなかった。

 

「【呑】」

 

 魔法円無しに吐き出されるのは彼女の周りで渦巻いていた膨大な水。空から降ったものが溜まっていたのだ。

 鯨のように大口を開ける津波の面積はもはや波などと表せるものではなく、まさに海のようだった。そして、二度の点の攻撃に比べれば面の攻撃など笑止旋盤、舐めるなと魔人の異形の左手から放たれた衝撃波が容易に弾き飛ばした。

 刹那に行われた攻防三度(みたび)

 たどり着いたアンナに向けて一閃、黒に染まった斬撃は飛ぶ。

 しかし、既に彼女の姿はそこに無い。

 殆ど転移に等しい速さで消えた『水神』に一瞬困惑した魔人だったが、即座に魔力を探知し顔を振り上げた。

 

「肩慣らしは終わりよ____どこまで耐えられるかしら?」

 

 宙に浮かぶアンナを屠らんと跳躍。

 しかし身を打った岩石を受け視界が阻害、既に彼女は別の場所へと移動していた。

 

 

「【災害(ディザスター)】」

 

 

 牙噛するのは地割。

 急襲するのは落雷。

 破壊するのは大雹。

 激荒するのは地震。

 暴飲するのは津波。

 略奪するのは暴嵐。

 撃墜するのは隕石。

 爆砕するのは噴火。

 

 行使___いや発動されたのは世界を蝕む大災害の数々。

 

 進行を津波と大雹が邪魔する。

 飛行を暴嵐と落雷が阻害する。

 攻撃を噴火と隕石が中断する。

 防御を地割と地震が撹乱する。

 

 動けない。

 届かない。

 戦えない。

 

 地を蹴ろうとすれば地面が割れる。

 空を飛ぼうとすれば隕石が墜ちる。

 魔法を使おうとすれば噴火が射線を遮る。

 踏ん張ろうとすれば津波が足を攫う。

 腕を振るおうとすれば落雷が痺れを与えてくる。

 

 増えていく。

 増えていく。

 増えていく。

 災害が___増えていく。

 

 

「【災厄(カタストロフ)】」

 

 

 災害が同時に発動する。

 

 無作為に。

 無造作に。

 無差別に。

 

 破壊が齎される。

 破解が齎される。

 破界が齎される。

 

 炎が、水が、氷が、風が、土が、雷が、神をも黄昏れさせる暴滅を顕現させる。

 

 無慈悲に。

 無思慮に。

 無価値に。

 

 上下が分からなくなる。

 左右が覚束なくなる。

 前後が不確定になる。

 天地の境がなくなる。

 

 今ここが何処なのか。

 今ここが何時なのか。

 今ここが何故なのか。

 

 不可解。

 意味不明。

 理解不能。

 

 どうにもできない。

 どうにもならない。

 どうにもなし得ない。

 

 

「【災焉(ワールドエンド)】」

 

 

 世界が____終わる。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「マジかよ……」

 

 時は戻り、『賢者』が障壁を展開した場面へと遡る。

 茫然と呟いたのはリアだ。

 アンナが魔人___アディンという名の少年と対峙し、その力を振るった。

 終焉の光景を見て愕然としなかったのは、既に災厄の力を知るレオと『賢者』様のみで、一つ一つが極大魔法程の威力を持っていることが何よりも彼女らの度肝を抜いた。

 

「これが、『皇帝』ユーリ・ハリス___『頂点』の妹『水神』アンナ・ハリスの力じゃ」

 

 何とかして立ち向かおうとする魔人、だが虚しく度重なる災害に手も足も出ない。

 稲光が轟き身体から煙を上げる姿は敵であっても痛々しく、無差別に降り注ぐ岩や噴火は彼女らを守る障壁にまでも影響を及ぼし、内部には盛大な魔法の音が鳴り響いていた。

 

「___ちっ…」

 

 とそこに、舌打ちをしたのはレオだった。

 よく見れば、『賢者』様もどこか険しい表情を浮かべているような気がする。

 何事か、と首を傾げかけ………気づいた。

 魔力が___

 

「不味ぃな、あいつ、暴走し掛けてやがる……」

「お主、スキルでどうにかせい。儂が彼奴を抑えておく」

「これ解くってか?、止めろ、あんな地獄に放り込む真似ができるかよ」

「じゃが……」

「俺一人を出せ、俺がアンナを抑える」

 

 何の相談なのか。

 いや、恐らくアンナの魔力が安定していないことについてだろう。

 このままではアンナが危ないと。

 多分、今までより力を使っているのだと思う。それで許容範囲を超えてしまったから制御が儘ならなくなって、果てしない力を持つ災厄に押し負けて暴走し掛けているのだ。

 レオがアンナを止める。

 出来る確証があるからこその言葉だろう。

 でも、その間誰がアディンを止めるの?

 現状最も脅威であるアンナがレオによって止められ弱体化すれば、彼の矛先はそのまま彼女とレオに向くか、或いは私達に向く。攻撃を止めることは間違いなく無い。

 そして、こちらに向けばあの魔法__【ブラックキャンセル】を使われてしまう。敵対象の有利に働く全ての力の効果を強制的に排除する魔導師泣かせのあの魔法。

 アディンが使っているところを見たことはない。だけど、その知識はお母さんから貰っていた。高い『黒』の力を持っていなければ使えないその魔法だが、邪眷属___それも邪剣王の後継者『連』の魔人アディーテス・ピレモアならば使えるに違いない。今はアンナとの攻防とも呼べない戦いでこちらにそれを使う暇はないだろうが、レオがアンナを邪魔してしまえば真っ先に狙われるのは守りを無くした私達だ。

 ならばこそ、ここで動く必要がある。

 この中で最も効率よく『黒』に対処できるのは『天翼族(ヴァルキリー)』である私だ。

 『賢者』様もカイトもわざわざ『白』を行使するのに段階を踏まなければならない。

 だが私は違う。

 元来に『白』を宿す。

 私がやらなければ___誰がやるというのだ。

 

 

「『賢者』様___私もレオと一緒に外に出してください!」

 

 

 言った。

 言ってやった。

 

「……なるほどな___『賢者』、俺ら二人で止める」

「………………………左様か……ならば、儂も止めん」

 

 了承は貰えた。

 そして災害の波が途切れた一瞬を見計らって私達は開けて貰った穴から飛び出し、互いに向かい合わなければならない者へと駆けた。

 

「___【契約印解放】」

 

 急迫する私に気づいた魔人から放たれる【魔球(ボール)】を解放した封器を盾に変えて左手に持ち、受け止める。

 右手に剣を、魔法円を重ねグレードをⅢに。

 剣を掲げ、唱えた。

 

「【断罪(ジャッジメント)】!」

 

 光が照射され、『黒』と『悪』を判定したダメージが魔人を襲う。

 意識は___完全にこちらへ向いた。

 畳み掛ける。

 

「【断罪(ジャッジメント)】!」

 

 レオが助けに行くアンナから気を逸らし、〈飛翔〉を発動させて魔人と相対する。

 

「こうやって戦うのは初めてだけど___」

 

 意識はあるのだろうか。

 声は届いているのだろうか。

 私を見てくれているのだろうか。

 

「___デートだと思って、胸を貸してもらうつもりで行くよ!」

 

 物騒なことだけど、初めて二人っきりの逢瀬だ。

 存分に、私の『白』と貴方の『黒』をぶつけ合おう。

 それがいつしか想いをぶつけられるようになれば___

 

「【祝福(ブレッシング)】!」

 

 『白』属性魔法の強化魔法。

 自身に宿る正のエネルギーに依存してあらゆる不利益を被る影響を減少させる効果を持っている。

 その最たる例が『黒』への特攻と耐性だ。

 それに、飛行速度だって__速くなる。

 『天翼族(ヴァルキリー)』は先天的に〈飛翔〉を持ち、そして『白』は『天翼族(ヴァルキリー)』の力だ。『神使』と呼ばれる位の『天翼族(ヴァルキリー)』は通常の戦闘能力は然ることながら、『黒』に対する力は圧倒的な程の効果を発揮する。

 戦う力を持つ者なら、という限定的なものではあるけれど。

 速くなるのは、そういうことだ。

 

「せいっ!」

 

 片手剣を一閃、秘められた『白』を警戒したのか魔人は大きく飛び退き、異形の手の平をこちらに向けて唱えた。

 

「【黒雨(ブラッディレイン)】」

「【聖壁(ウォールセイント)】!」

 

 降り注ぐ黒い雨を白光を放つ聖なる壁で防ぐ。

 次いで攻勢に出ようしたけれど、その前に魔人の魔力は練られてしまっていた。

 

「【黒輪(ブラックネピュラ)】」

「__【円け_(グレ_)】__ぐぅぅ!?」

 

 やはり得意魔法なのだろう。

 初動、発動速度、魔法速度、威力、全てにおいて熟練していて、こちらの防御魔法が展開するよりも明らかに速かった。

 【祝福(ブレッシング)】を使っていたおかげでそれほどダメージを受けることはなかったが、あれは避けるとかそういうものではない。使われたら最後為す術は無くなってしまうものだ。

 『白』を全開で纏えば白兵戦もいいだろう。

 殆ど素人に近い武術しか持っていないけど、マシにはなるはずだ。

 

「【天福祝浄(セレブレーション)】!」

 

 正のエネルギーを増幅させ、『白』を纏い、生命の力を上昇させる魔法。これで、魔人は容易に私を倒すことはできない。

 

「【断罪(ジャッジメント)】」

 

 勿論、【天福祝浄(セレブレーション)】は【断罪(ジャッジメント)】などの浄化魔法の効果だって高める。

 

「___ぐっ!?……ラァァァアアアッッ!」

「____やぁ!」

 

 飛び上がり空からの急落。

 咄嗟に盾を構えることに成功するけれど、知覚の瞬間には訪れた衝撃に驚いてしまう。どうにか平静を保って私も空に。

 剣を交えたまま上昇して、ある程度の高さまで来ると同時に相手を押し飛ばした。

 

「【黒輪(ブラックネピュラ)】」

 

 再度放たれるあの魔法。

 『邪』が減るのと同時に、『白』だって黒に塗りつぶされてしまう。

 それを魔人はわかっているのだ。

 でも___遠い。

 

「【清純の憩いリセス・クララフィケイト】」 

 

 受け、切れた。

 マインドのみを消費して体力・マナを全て回復し、例の通りに『黒』に対する特攻と耐性、攻撃・防御対象の『邪』を激減させ周囲に『正』と『白』を発散して癒しと浄化を振りまく魔法だ。

 私が戦えていたら、お母さん達を救えたはずなのに。

 どうして、私を逃したのか。

 私の先生は運良く『天使』の位の方だった。だから、自身を高める魔法は無詠唱で唱えられるようにと、出来るだけ高速で発動出来るようにと、教えられていたのに。

 まだ五段階目の極大の祝福魔法は無詠唱は出来ないけれど、私がいれば皆殺しなんてならかったはずなのに___

 

 

「絶対、助ける!」

 

 

 ____だからこそ、『黒』に呑まれてしまったアディンを元に戻すんだ。

 

 けれど、いざ飛び出そうとしたときには、彼の姿はどこにもなかった。

 どこに行ったの!、そう叫ぼうとした瞬間だ。

 その膨大な殺気を背後に感じたのは。

 咄嗟に振り返り即座に『白』で障壁を作り出す。

 硝子の割れる音が響く。

 それが障壁が破砕されたものだと気づいたのは、事が終わってからだった。

 このときの私は、後から考えると気を抜いてしまっていたようだ。

 戦闘中で、それも『白』と『黒』の相殺で視界が潰れているというのに、回想してしまっていたくらいなのだから。加えて相手が魔力探知に長けたアディンだということも失念していた。

 困惑と焦燥に心と頭を乱されていた私は、新たに魔法を唱えることも防御行動も取ることも無く、ただただ呆気に取られて頭上から降る大刀を緩慢とした時の中で見ていることしか出来なかった。

 刀の奥には感情の消えた相貌。

 暗くなる世界の中、誰かの声が聞こえた気がした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _____おいで_____

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

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