第八話 パペット×パペット
ジャスミンの因縁の相手である『ビーストキング』を最終的にはジャックが単独で下し、次いで出現した門をアンナが皆の制止を聞かずに押してしまった。
そしてやはり、今回も変わらず光に包まれ、彼らは大空間を目にした。全てが金属で作られ、どこか箱を連想するような角が八つある場所だ。
異質な空間に頭をキョロキョロと回す 《蒼の双星》。構えを解いている者もいたが、次の瞬間には全員が鋭い眼差しを中央へと向けた。
ガコン、という音が二度連鎖し、回転する螺針と同様の音も響きだす。
そして、二体の無機質な物体が上昇しながら姿を現した。
両者とも金属で作られた体躯。
相違点は色とその造形だ。
一方は黄金色の金属で成形され、竜型魔導兵の上に人型の魔導兵が騎乗している。その右手にはとてつもなく長い槍も持たれていた。
そしてもう一方、白銀色の金属で成形された機械型の『魔導兵』。生物外の膂力のおかげで装備できているのか、馬鹿げた巨大さの槌を両手に握っている。
「ジャックはアディンを守りなさい!」
生物でなければ殆どの本領を発揮できない闇属性魔力を保持するジャックは今回の戦闘で役に立たない。
「リア、ルナ、カイトは機械型!、他は竜型よ!私は両方の補佐に回るわ!」
万能者であるアンナが最も得意とするその場その場での臨機応変。それを知る 《蒼の双星》の面々はすぐさま指示通りに動き始めた。
「【『閃月』】───」
「【『聖厄』】───」
「「───【神器解放】」」
「【霊装──『シルフ』】」
「「【今ここに我が名をもって解き放つ】───【契約印解放】」」
それぞれの『器』を顕現して解放、一斉に『魔導兵』へと向かった。
始めに接敵したのは、やはり敏捷が飛び抜けているルナだった。
「──なっ!?」
しかし白銀の鎧は光刃を通さず、魔力による光であったため刀身は霧散してしまった。
「また障壁か!?───ルナ、そこを退け!──【ウエポンバースト】!」
計十振りの小剣が『魔導兵』を取り囲み、その身を爆ぜさせた。
「魔力由来は全部無理ってことか……」
煙が晴れれば、そこには無傷かつルナへと槌を振り上げる人形の姿が。
勿論当たるわけはない。
タンッという軽い音が響けば彼女は既に衝撃までも伝わらない場所へと避難していた。
「俺の武器は魔力でしか作れない、やるとすれば神器転成で反魔力の属性を持たせる必要がある。時間を稼いでくれれば出来るかもしれない」
「私の武器も『神器』しかない、攻撃手段は手足だが………力もあまりなく月の光も伝わらないここでは牽制ほどにもならないだろう」
脚が遅いのは幸いして、作戦を練る時間は得られた。
「俺も『アイギス』が応えてくれたら何とかなるかも知れないんだが、期待は出来ないんだ」
「それは仕方ない、してカイト、如何程でそれは完成する?」
「分からない。出来るだけ早くやるが、完成も保証できないし時間だって示せない。成功させるがな」
「それを聞くことができれば問題ない、私達が時間を稼ごう。リアは素手での攻撃には慣れているらしいな?」
「ああ、殴り合いだけなら俺も力になれるぜ」
拳を握り不敵な笑みを浮かべるリアにルナは微笑み、『魔導兵』の方へと顔を向けて言った。
「殆ど経験はないが、何とかするとしよう」
そして地を蹴り、肉薄する。
「これならばどうだ!」
その手に握るのは刃を発生させていない金属棒───神器だ。
たたらを踏むことはない、だが少しだけでも体勢を崩すことができた。
「そら!」
リアも負けじと拳を振り抜く。
耐久が高いおかげで金属を殴ろうとも皮膚が破けることはなく、その威力をそのまま『魔導兵』へと叩き込むことに成功する。
鈍重な動きもあってか、二人の攻撃は着実にダメージを与えていった。
途中からアンナも加戦したため、如実に傷は与えられていった。
そして、二人の息が上がり掛けたときだった。
『魔導兵』に変化があったのは。
ガコン、と音を立てて槌が変形し、無数の杭をその先に露にした。更に地面に叩きつけ杭の部分を埋め込むと、『魔導兵』は頭を下げた。
相貌を驚愕に染めた二人は警鐘を鳴らす直感に突き動かされ、その場を全力で退避。
武器の準備を進めていたカイトでさえも後方に跳んだ。
こちらの『魔導兵』の変容を目にしていたのは勿論彼らだけではなく、レオ達もだった。そして、遠方に位置するはずの三人まで回避行動を取る。
狙われたのは────ルナだった。
最も自身を翻弄した相手を対象に選び、その頭部を発光させる。
アンナやジャック、レオやリンカの叫び声が木霊するも虚しく、それは放たれてしまった。
閃光が全員の視界を焼き、解き放たれた砲撃は光速を超え、敏捷に特化しているはずのルナに容易く追い付く。
そして回避行動など取れる暇など無く、彼女は直撃を許してしまった。
貫くのではなく包み込んだ砲撃は命までは奪わなかったが、立ち上がれないほどの重傷をルナは負った。
それを確認できたのは、視界が戻り『魔導兵』が変形の音を発しながら接近するその瞬間だった。
一番近くでそれを目にしたのはリアだった。
人を簡単に潰せるほどの巨大な槌。それが振り上げられていた。
巨体が向かう先は既に満身創痍で全身から煙を上げるルナ。
誰も動けない。
強力な雷の砲撃をくらったのはルナだけではなく、彼女を中心に発生した放電が彼らに深刻な麻痺を与えたのだ。
故に、誰も動けない。
ただ一人を除いて。
駆け出したのは麗人───リアだ。
最も近く、最も耐久が秀でていた者だ。
[予知]によってルナに起きる事象と彼女の位置を真っ先に把握することができた彼女は、すぐさま地を蹴った。
深緑の頭髪を軌跡に変え彼女の元へと疾走するリアは、右腕を溜めて叫んだ。
「アイギス!」
土壇場。
火事場の馬鹿力。
それを願い唱えた言葉は──アイギスには届かなかった。
間に合わない。
神器による身体強化を受けてない自分では。
助けられない。
神器に認められていない自分では。
また、守れないのか。
リアの脳裏に浮かぶのは、自分の無力で死なせてしまった、守れなかった仲間。
腕の中で息を引き取った彼女の最期の言葉は「強くなれ」だった。
あの頃から、自分は『守り』だけに重きを置いてきた。
攻撃は二の次、まずは自分の身を盾にしてでも『守り』を優先してきた。
アイギス。
お前の力が必要だ。
アミエラから引き離されたのを恨んでいるのなら、今だけはアミエラが認めた俺に力を貸してくれ。
守るために。
護るために。
願いを唱える彼にふと浮かんだのは、アミエラが『アイギス』を行使している姿だった。
『アイギス』の造形は───籠手。
何を勘違いしていたのか。
何を考えていたのか。
そうだ───神器は所有者に合わせ姿を変える。
当たり前の、常識ではないか。
馬鹿だ。
本当に馬鹿だ。
籠手で───どうやって守るというんだ。
俺は守ることだけを望んだ。
誰も、盾を望んでいない。
籠手は守るものではない。
殴るためのものだ。
そして、自分を守るためのものだ。
あまりにも違う。
完全に違う。
履き違えている。
アイギスに望む。
アイギスに求める。
アイギスに願う。
俺に、守りの力を。
俺に、守るための力を。
俺に───守護の武器を。
「【叡武】!!」
光が満ち充ちる。
直感でわかった。
踏み込みを強く。
左足で地面を蹴る。
槌が振り下ろされる寸前、ルナとの間に割り込み叫んだ。
「【叡盾】!」
守るために、俺は盾を掲げる。
槌を弾かれ、大きく体勢を崩す『魔導兵』。
「【叡手】!」
守るために、俺は拳を振り抜く。
胸に強烈な一撃を受け、足を浮かせて吹き飛ぶ『魔導兵』。
「【叡盾】」
光は集束し、手に握るのは白金の装飾が施された白盾。
使い方が頭に流れ込んでくる。
前方には、胸部を凹ませた『魔導兵』がゆっくりと立ち上がる姿が見える。
すると『魔導兵』は軽く前屈し、突如として急迫を敢行した。
噴射口から魔力を放出したのだ。
片手では無理だと学習したのか、今度は両手の槌を同時に振り下ろしてきた。
何も焦ることはない。
「【叡刀】」
唱え、腕を半円に描く。
そうすれば、ドスンと重い音を立てて落ちる槌の先。
無機質であるというのに、その一対の球体からは動揺の気配を感じられた。
「どれだけ硬くたって───神器より上なわけがないよな?」
『器』として最も優れたものである『神器』。
それを譲渡された。
アミエラに感謝を告げよう。
貴女のおかげで、仲間をまず一人守ることができた。
そろそろみんなも立ち直る頃だろう。
「よくやったわ、課題も見つけられたし」
「すまない、感謝する、ありがとう」
「一からまた作り直さないといけなかったが───問題無さそうだな、三人とも、頼むぜ」
向こうも、どうやら優勢らしい。
「じゃあ、覚醒したリアも加えて、仕切り直しといくわよ!」
「「「了解!」」」
俺達はそれぞれの得物を構えて、地を蹴り『魔導兵』へと立ち向かっていくのだった。
リア回です。それぞれのステイタスと今回の彼らに齟齬がありますが、次話ではっきりとします。




