第三話 花言葉
花が出てきますが、実在するのかも実在しても花言葉が合っているかどうかは把握してません。お知りおきください。
アンナ、ジャスミン、リンカ、ルナの四人組が最初に向かったのは服屋だった。
「………『ファッシネイト』より大きいわね」
アンナが呆然と呟いたのは、訪れた服屋の店構えが想像していたものより数段立派だったからであった。
外から見えるだけでも見える服の数は多く、やはり王都、帝都、鉱都、シャーリアの中間に位置する街は肩書である『一番出入りが多い街』に違わない場所であった。
「ここ専属のデザイナーが何人も居そうな雰囲気…」
ジャスミンも帝都とは比べ物にならないことに戦慄を隠せない。
「これは凄いのか?、私が行ったことがあるのは防具屋だけなのだが………いや、あそこと比べるのは流石に烏滸がましい」
「貧乏だったし、こんなとこ来たことなかったかな」
それぞれに感想を述べたあとは、少し気圧されながらも期待に負け店内へと足を踏み入れた。
店の名は『魅惑の糸』だった。
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「どうかしら!」
「「おぉ~~~!」」
『キャー!』
「はぁ……」
ドヤ顔を作るのはアンナ。
感嘆の声を発するのはジャスミンとリンカ。
歓声を上げるのは店の客と店員の女性達。
そしてため息をついたのがルナだった。
現在行われているのはファッションショー。
意味不明だろう。
まずは最初から説明するとしよう。
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「すっご…」
「これは……」
「うむ、圧巻だな」
「楽しみね!楽しみだわ!」
四人は、中に入った途端その瞳を見開いた。
「こんだけの服、全部見て回るのでも相当時間掛かるじゃない…」
「あっ、ジャスミンこれ似合うよ!」
「順応早いわね………へぇ、でもちょっと動きにくそうだわ」
「ねぇルナ、これとこれどっちが似合うかしら?」
「どっちでもいいのではないか?」
「何よ素っ気ないわね!」
やはり冒険者といっても女子は女子。
ルナを除く三人はそれぞれに散らばっていった。
嘆息の絶えないルナも目移りし始め、彼女も陳列された衣類を物色していくことになった。
それからどれくらい経っただろうか、どこからか歓声が上がった。
ていうかすぐに見つかった。
「アンナは、何をしているんだ……」
ステージに自信満々で立っているのは《蒼の双星》団長。
周りに群がるのは客と店員入り交じりの女性達。
「楽しそうじゃない!」
「私も参加しよっと!」
次々と代わる代わる台に上っていく女達。
着飾るという行為で、印象を大きく変えるのはやはり女の特権だろう。
様々な衣装に彩られる姿はルナから見ても感嘆するほどのものだった。
彼女と同じく遠目で見ていた店員に尋ねれば、アンナを見て暴走した店員が彼女に頼み込んだところ、何と承諾してしまったらしい。
そして客まで巻き込んだ衣装の披露大会が開催されたのだ。
「貴女は参加しないのか?」
応じてくれた店員に目を向ければ、彼女は苦笑して言った。
「スタイルもよくないですし、私があそこに上がっても興醒めするだけですよ」
謙遜するほど悪いと思うような容姿には見えないが……
まあ、何も知らない私が同情や慰めを口にしても何が変わるわけでもない。そういうものなんだと受け止めておくべきだろう。
「私も、ああいう派手な催しは気後れしてしまってな。大勢と騒ぐということを今まで経験したことがないのも、起因しているのだろう」
二人して、微笑ましい表情をしているだろう。
若者が騒いでいるというのは、何とも活気があるものだ。
老婆心とでもいうのだろうか………まあ、私も若者と言ってもいい歳なのだがな。
グルン。
「───ひっ…」
今のは私の悲鳴だ。
仕方のないことだった。
唐突に全ての女の顔がこちらへ向けられたのだから。
怪しく光る瞳。
そして女達の間からアンナ及び二人が割って現れた。
例にもれず、目がおかしい。
「ルナも、おしゃれしなきゃねぇ~?」
ゆらゆらと揺れながら歩み寄ってくるリンカに私は再度悲鳴を上げる。
「一人で高見の見物なんて、許さないわよ~?」
ジャスミンの手がわきわきと奇怪な動きを見せるのに頬をひきつらせる。
「こっちに来なさい!」
まるで『腐敗者』のような三人が飛びかかってくる。
動けない。
逃げられない。
神器を呼び出す精神力がない。
為す術なく取り押さえられ、私は女の亡者達の中へと引き摺り込まれた。
「キャァァァァァァァァァァァァァァ!?」
揉みくちゃにされた私は、生娘のような甲高い叫び声を上げながら着替えさせられたのであった。
「何で私までっ!?」という言葉が聞けたことに、少しだけ安心した。
道連れ上等。
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「……………うぅ…」
「………こ、こんな格好……」
「ほら、泣き止みなさいよ」
「そうよ、私は似合ってると思うもの」
「元気だしてっ、可愛いよ!」
その気遣いが余計に私の羞恥を掻き立てる。
「バッチリだよールナさーん!」
「イケてるよー!」
「こっち向いてー!」
「店長ー!まだまだイケますよー!」
「レッツ男漁り!」
「そこうるさいっ!」
どうやら、あの女性はここの店長だったようだ。
今は威厳皆無で顔を真っ赤にがなり立てているが。
「いい加減機嫌直しなさい。本当に似合ってるわ」
「でも……」
「すみませーん、これ買いまーす!」
『お買い上げありがとうございます!』
「──っ、耳痛っ……」
リンカが購入を告げれば元気よく一斉に頭を下げた女達。揃った声は重複魔法のように強化され、ジャスミンが耳を塞ぐほどだった。
買った服をそのまま着て街道に出る。
「前見なさい、流石に人の邪魔になるわ」
どうやって、この熱い顔を上げられると言うのだ。
アンナ達と違ってこういうものに耐性がないのだ。
ああ、アビリティとして羞恥耐性が付いてくれないだろうか。
「あっ!お花屋さんだよ!」
まるで子どものようにはしゃぐリンカが駆けていったのは、色とりどりの花やそれを使った装飾を並べる店だった。
「見て、この髪飾り可愛い!」
「そうね、可愛いじゃない」
「ふーん、悪くないわね」
「そうだな」
リンカ、アンナ、ジャスミンの意見を一致させ、ルナが静かに肯定した。
四人が覗いているのは、髪をとめるピンのついた桃色の花の髪飾りである。繊細な仕事が見てとれ、一輪の花が存在を主張しすぎず、かといってただの飾りではなくこの髪飾りの中心を担っている。花は秋桜で、周りに散りばめられるように小さな黄色の花々がある。
そして、髪飾りの下部には青色で見たことのない花が連なって垂れ下がっていた。
「おじさん、この花何て言うの?」
リンカが興味津々の顔で、この髪飾りを販売している店の店主に尋ねた。
一見ゴツい大男だが、その相貌は柔和に歪められている。
「それはな、マレーヌという花で花言葉は『目覚め』と『瞳』だぜ」
「これ、買うわ」
アンナの即決にリンカとジャスミンは同時にアンナの方を振り仰いだ。
「まいど」
早速左のこめかみの少し上につける彼女を見た二人も、続いて購入する。
「これでお揃いだね!」
リンカが伸ばした人差し指で髪飾りを示し、見せつけるように頭を前に出す。
「………私も一つ貰おうか」
「まいど」
少し気恥ずかしそうルナが代金を差出し、髪飾りを受け取り髪に取り付けた。
それから四人は、必要な買い物を全て済ませ帰路についた。
その道中、こんな会話がされていた。
「アディン、大丈夫かな……」
「だからこれ、買ったんじゃないの」
「『目覚め』と『瞳』……起きて目を見せて、ってことだもんね…」
「こんな都合よくあるのかって感じだけど、都合がいいのならアディンだって……」
「アディンなら必ず目を覚ます。こうして私を助けにきてくれた実績もあるわけだからな」
「それを言うなら私だって何回もアディンに助けられたわ」
「私も命を救ってもらったよ!」
「何の自慢をしてるのかしら…………まあ、アディンは私達を置いて消えたりなんてしないわよ。迷子はよくするけど」
「む?、まだ迷子癖が直っていないのか?」
「この反応はそうみたいね、アンナ」
「油断してたら方向がわからなくなるのかしらね。戦ってるときなんて見てもないのに対応してくるくせに」
「迷子?、え?アディンそんな可愛いところあるの?………ふふっ」
「私のギルドに入った次の日に既に迷子だったわねぇ」
「『黒』の軍討伐のときもあっという間に消えたし」
「アディンには必ず誰かがついていたな。放っておけばいつの間にかいなくなっていたからな」
「へぇ~」
今は言葉を交わすことができない一人の少年。
そして彼女らは彼に様々な想いを宿し歩みを進めた。
盛り上がる歓談。
一歩遅れるアンナ。
その相貌は、喜びとは無縁の冷たいものを浮かべていたのだった。




