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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第六章 賢者の洞窟
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第二話 レガリス

前話から時間が戻り、魔界からスタートです。


 一振りの刀が地面に刺さっている。

 

 そしてその下には、一人の少年が不毛の大地に倒れ伏している。

 

 魔王はアディンとの激闘の末に、死んだ。

 

 魔王の肉体が四散し『黒』の粒子が宙を舞うなか、アディンは崩れるように倒れ、変化していた彼の姿はそれと同時に元に戻ったのだった。

 

 地に突き立てられていた漆鉄は、アディンが倒れるのとほぼ同時に剣身を元の姿へと戻し、地面に突き刺さっていた。

 

 アディンと魔王、二人の戦いを終始見届けた 《蒼の双星》は沈黙を纏い、誰一人動き出す者はいない。

 

 だが、その静寂は城の残骸が轟音を立てて消え行くことで破られた。

 

 

「急ぐわよ」

 

 

 それを認めた彼らは、アンナの指示を皮切りに行動を始めた。

 手を使う必要の無いカイトが意識を失っているアディンを背負い、刀はカイトが作った鞘に収めレオが帯びる。

 全員が自分の服をそれぞれ脱ぎ、外套のみを纏うルナへ着させた。

 全ての準備が整ったのとほぼ同時に、世界の崩壊が始まった。

 大地の最奥に聳え立つっていた城の跡地から世界そのものが崩れ出し、彼らの場所にも崩壊が数秒で到達する勢いである。

 

「走りなさい!」

 

 そこからは、全員が全力疾走を敢行した。

 目指す場所は落ちてきたあの穴の場所。

 走り続け、最初にたどり着いたのはレオ。

 だが、彼に穴を再現する力は無い。

 結果的に、アンナが到達するまでレオは足止めを食らう羽目になってしまった。

 

 

「「「「「「【砲撃(ブラスト)】」」」」」」

 

 

 同時に放たれる六色の砲撃。

 その六つが重なりあえば、威力を相乗的に増幅させ、一度歪んだ穴を再度空けるのは簡単なことだった。

 持ち前の身体能力を発揮して跳躍し、全員が穴を抜ける。

 そして洞窟を走り抜ければ、入口を最後の一人であるカイトが飛び出た瞬間、洞窟は崩れ大量の土煙を吹き出した。

 

「間に合った……」

 

 息を切らしながらそう呟いたのは誰だったか。

 

「森は……特に変化はないようだね」

 

 来たときと対して変わっていない『カノプスの森』を見渡し、ジャックがそう言った。

 

「そんなことより、早く『レガリス』に行くわよ」

 

 意識の無いアディンの看病と、事のあらましを整理するため、彼らは行きしなに立ち寄った街──『レガリス』へと戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 あれから、アディンが目を覚ますことはない。

 と言ってもそんなに時間は経っておらず、『レガリス』に来たのが夕方だったため、今はそこから一日空いた昼間である。

 どういう訳か生理現象の殆どが停止していて、唯一呼吸だけが絶えず続いていた。

 そのため、女である私も看病することができた。まあ、看病っていうかアディンが目を覚ましたときに誰かが側に居るように、っていうものだけど。

 眠る彼に悪戯なんて出来ないけれど、ふと意識を向けてしまえば彼の髪をすいてしまっていた。もしこれで目を覚ますのならば、私の羞恥と引き換えになるだけなので特に問題は無い。いや、恥ずかしいのは恥ずかしい。

 ……手を握るくらいなら、許されるかな?

 

「やっぱり、男の人の手って感じだなぁ」

 

 かなり奥深くに、父の手の記憶がある。勿論同じではないが、確かに私とは違う。出会って浅い関係の私が何を言うのかって話だけど、アディンが起きていたら何が楽しいんだとか言いそうだな。

 因みに、『漆鉄』は彼の側から離している。

 本来というか、ずっと身につけていたのだから一緒に寝かしたりするのが普通だろう。でも元々これが原因なのだからそうするわけにはいかなかった。

 

「そろそろ交代の時間、かな」

 

 名残惜しいけれど、流石にこの状態を見られるのは無理だ。羞恥に耐えられない。

 手を離せば失われる温もり。

 一瞬手が伸び掛けるのを止め、ガチャリと扉を開いた者に振り返った。

 

「おつかれ、僕の番だよ。………まあ、君にとっては違ったかな?」

「嫌ではなかったかな、ちょっと寂しかったけど」

 

 私がそう言うと、ジャックは少し頬を緩めて私に退室を促してきた。

 

「あ、アンナが呼んでいたよ。多分買い物か何かじゃないかな?」

 

 扉を閉めようとしたとき、ジャックは容姿と変わらないあどけなさで首を傾げそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「リンカが来たわね………じゃあ話を始めるわ」

 

 白髪の少女───リンカが階段を降りて来たのを確認したアンナがそう切り出した。

 アンナ、ルナ、私、リンカ、この四人が座っているのはまた厄介になった宿の公共の居間で、昼ということもあってか他の人の姿は見当たらない。

 

「今日は四人で夕食を用意するわ。何か得意なものはあるかしら?」

 

 後で話すわ、と伸ばされていた内容に拍子抜けする。

 もっと重要な話だと思っていた私が馬鹿みたいだ、と思ったのも束の間、アンナの性格を思い出して苦笑した。

 

「私は、お母さんに教えてもらってたから色々できるけど……」

「冒険者として野宿もしていた、それなりの心得はある」

 

 リンカとルナ、二人とも料理はできるらしい。

 

「私は無理だったけど、アンナのおかげで簡単なのはできるようになったわ。まあ、チマチマするのが性に合わなくてあんまり上手くいかないけど」

 

 そう、私は料理ができない。

 食べられるものは作れる、だがそこまでだ。舌鼓を打つなどと表現できるような大したものなど野生育ちの私には到底不可能なのだ。

 それでも根気よく教えてくれるアンナには頭が下がる。

 兄の厳しいさと優しさを同じくらいに影響を受けたせいか、アンナは奔放なのか生真面目なのかどっちつかずな性格をしている。今回は奔放に振れているのだろう。

 

「今のジャスミンので私についてはわかるわよね。それなりにできるのなら問題はないわ。今回はそれぞれ別のものを作るんじゃなくて、共同で大皿を作るつもり。何か提案はあるかしら」

 

 肉がいいかな。

 

「やっぱり、お肉がいいんじゃないかな?、男の人は好きなんだよね?」

「レオは好きね」

 

 レオとは気が合う。

 剣もだし、食についても。

 彼のような剣士になりたいという憧れの反動からかもしれないわね。

 この口調も、アンナみたいに魔法を使えるようになりたいから形から入ったいうのが定着したものだし。

 

「カイトとジャックは違うのか?、アディンは好きだったが」

 

 これには私が答えよう。

 

「アディンは今も好きよ。二人は──っいうかカイトは鳥系の肉は好きだけど他はそうでもないわ。ジャックは野菜が好きね」

「それは何と言うか……見た目とは違うのだな」

「見た目っていうかただの小人族(ピクシー)よ」

「えっと、ご飯の話は……?」

 

 女々しいと思うようなメンバーじゃないけど、どうやら私達も漏れず話が好きなようだ。アンナと私しかいなかったからあんまり分からなかったのよね。二人じゃ長話なんてしないし。

 

「話が逸れたわね。纏めると──っていうか殆ど話なんてしてないけど、ピラフを作ろうと思うのよ」

「ピラフ?」

「ええ、北の方で食べられているらしいわ。ライスっていう穀物を色んな具材と炒めてみんなで囲むものだって、さっき会った商人が言ってたわ。丁度そいつが卸してたのを買ったわけだけど」

 

 初めから決まっていたというのは、アンナと付き合う上で心得ておかなければならないことなのだ。

 だから、私も特に料理に関しての発言はしていない。

 アンナの気が済むまで話に乗って上げないと不機嫌になるもの。

 

「決めていたのならば、何故この話をした?初めからそう言えばよかっただろう」

「ちょっとイラッとしたー」

「短気なのね、これくらいで」

 

 ほら、こういうことになる。

 

()、どうするかさっさと話して」

「ええ、まず肉と野菜、魚のどれを主軸にするか決めましょ」

 

 本当に、扱い辛い女だと思う。


「…………色んな肉を混ぜたものでいいと思うぞ」

「………んー、三人は魚だけはあんまり好きじゃないって言ってたよね?、なら私も肉でいいと思う」

 

 私も肉でいいわ。

 肉がいいわ。

 コクリと頷けば、アンナは私達を見渡してから口を開いた。

 

「満場一致みたいね、なら肉にしましょうか。肉の種類はごちゃまぜで野菜も少しだけ入れましょ。出汁は………いっそのこと魚でとってみるのもいいわね」

「味は薄めでいこう。それだけ食材があれば本来の旨味で十分美味になる」

「さんせーい、あんまり濃くても飽きると思うもん」

 

 なら野菜だけに味をつけるのはどうかと提案する。

 

「それなら丁度よさそうね」

「中々、得意ではないと言っていたが秀悦な視点を持っているではないか」

 

 そ、そんなことは………ないこともないかもしれないわね。

 

「じゃ、買い物に行くわよ」

 

 そうして私達は、前に訪れたときにはできなかった、買い物を口実とした観光に出かけたのだった。

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