表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第六章 賢者の洞窟
77/195

第一話 誰が為の夢

魔王に囚われていたアディンの姉──ルナ・ネルヴァの救出に成功した 《蒼の双星》。一行は意識を取り戻さないアディンの介抱に追われていた。そんな彼らに、賢者の命を受けたことがアンナから伝えられる。伝説の賢者が突如呼びつけるその理由とは………。

 これは、数奇な運命を生きる彼彼女らの物語である。


──────


更新を再開致します。


 天に拡がる漆黒。

 

 

 闇などでは到底言い表せない黒。

 

 

 大地は血に染まり、轟く稲光は真っ黒だ。

 

 

 視線を下ろせば、そこには墓標。

 

 

 剣、槍、刀、鎌、杖。

 

 

 様々な武器が亡き英雄を讃えるように地面に突き刺さっている。

 

 

 裂けた大地。

 

 

 ひび割れた空。

 

 

 立ち上る慟哭。

 

 

 散乱する焼けた肉からは独特の異臭が漂い、蒸発した血は鼻腔を苛ませる。

 

 

 後ずされば砂利のごとき骨がバキバキと砕け、腕を動かせば隣に立っていた人間がグチャリと崩れ落ちる。

 

 

 積み上げられた臓腑に浮かぶ嫌悪感は吐き気と共に訪れ、破壊された得物はやるせなさを産み出す。

 

 

 絶望と孤独に侵される私を下卑た笑みで見下ろす一人の男。

 

 

 右手に握られるのは刀。

 

 

 光を喰らう黒に彩られた刀。

 

 

 背中に生えるのは翼。

 

 

 黒に作られた悪魔の翼。

 

 

 対照的に映える白銀の瞳は死神のような冷たさを宿す。

 

 

 思い起こすのは哀しみ。

 

 

 切っ先を向けられた瞬間。

 

 

 心臓が破裂しそうな動悸と全身が吹雪に打たれたかのような寒さを感じたあの時。

 

 

 恋慕から転落は、心を壊すのに十分だった。

 

 

 最期の(はなむけ)とばかりに真っ直ぐ胸に突き刺される刀。

 

 

 ゆっくり流れ出ていく命の源。

 

 

 失われる灯火は彼から貰ったものだった。

 

 

 彼の手で奪われるのなら、悔いはない。

 

 

 消え行く意識のなか、私は彼に別れを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────っ!?」

 

 

 

 悪夢。

 そう形容するほかない。

 息切れ。

 動悸。

 流涙。

 握っていた拳を開けば、そこには深く爪の跡が刻まれている。

 食い縛った歯を緩めれば、入れすぎた力に痛みを覚える。

 

「アディン……」

 

 彼の名前を呼ぶ。

 

「アディンっ……」

 

 名前を、呼ぶ。

 

「アディ、ン…………」

 

 嗚咽にまみれながら呼ぼうとも、返ってくることのない返事。

 

「絶対、起きてね………」

 

 涙に濡れた相貌を袖で拭いながら、リンカは眼下に眠るアディンにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 対峙する闇。

 

 

 黒く塗り潰されたその正体は判明せず、互いに得物を抜いて睨み合っていることだけが感覚としてある。

 

 

 戦いは始まらない。

 

 

 相手が踏み込んでこないからか。

 

 

 こちらが踏み込めていないからか。

 

 

 絶対的強者に立ち向かっているという事実だけがあり、最初の一歩を踏み出せないのは自分の方だ。

 

 

 余裕綽々と出方を待っている向こうとは違い、攻め込むことが出来ない。

 

 

 恐怖か。

 

 

 戦慄か。

 

 

 違う。

 

 

 全然違う。

 

 

 戦いたくない。

 

 

 戦えない。

 

 

 彼と『死合う』のは、できない。

 

 

 向かい合えない。

 

 

 彼の真実を受け入れたくない。

 

 

 構える剣を握る手に力は入らず、動き出す勇気もない。

 

 

 ないない尽くしを嫌う自分がいるのに、どうしても動けない。

 

 

 受け止めなければならないのに。

 

 

 殺さなくてはならないのに。

 

 

 思い出が。

 

 

 言葉が。

 

 

 微笑みが。

 

 

 私を戦場から引き摺り下ろす。

 

 

 不意に名前を呼ばれた気がした。

 

 

 顔を上げれば、そこには下卑た笑みを浮かべる彼が。

 

 

 歯を食い縛る。

 

 

 見たことのない、闇に満ちた嗤い。

 

 

 気圧される。

 

 

 挫かれる。

 

 

 意志が、砕かれる。

 

 

 辺りに散らばるのは尊厳が踏みにじられた肉の残骸。

 

 

 それを為した存在が彼だという事実に、膝が笑い始める。

 

 

 頬を伝う涙は私を現実から逃避させることを許さない。

 

 

 もう時間だ、と言わんばかりに肉薄してきた彼は刀を振りかぶり、私を袈裟に斬り裂いた。

 

 

 舞う鮮血。

 

 

 走る痛み。

 

 

 倒れ落ちる身体。

 

 

 背中に衝撃を受け、血と共に息が吐き出される。

 

 

 こちらを見下ろす白銀の瞳は暗く、胸に向けられる切っ先は冷たい光を放つ。

 

 

 下ろされた刀は私の体を容易く貫き、命を削っていく。

 

 

 急速に失われていく生命に寒さを覚えるも、それも段々と消えていく。

 

 

 落ちていく意識の中、私は愛を告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────っ!?」

 

 

 

 悪夢。

 心を蝕む悪夢。

 そっと胸に手を触れれば、激しい動悸が直に伝わる。

 びっしょりとかいた汗は身に付けていた寝着を重たくさせ、肌にまとわりつく。

 

「─────はぁ……」

 

 深く息を吐き、荒ぶる感情と肉体を鎮める。

 何故こんな悪夢を見たのか。

 邪眷属としてのアディンを見たからか。

 魔王を喰らったアディンを見たからか。

 分からない。

 判らない。

 解らない。

 正夢になるなどとは、考えない。

 今も目を覚まさない眼下の彼を見つめ、私は口を開いた。

 

「早くおきなさいよ、死んだら、絶対許さないんだから……」

 

 目覚めの最初の声は、老婆のようにしわがれていた。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 真っ白の空間。

 

 

 いや、虹の空間。

 

 

 この色は───『エーテル』ね。

 

 

 『エーテル』といえばお兄ちゃん、賢者、アディンだけど、今干渉してくるのは多分アディンね。

 

 

 恐らく急速に行使した『黒』の反動で意識を失い目を覚まさなくなったアディン。

 

 

 まだ一日という時間しか経っていないから、マナを枯渇した状態で生命を糧に魔法を行使したときの意識消失より軽い。

 

 

 今は増幅した『黒』に適応するため肉体を作り替えている最中なのでしょうね。

 

 

 で、夢に干渉してきたということは、アディンからの何かしらの合図ということで間違いないかしら。

 

 

 目覚めの前兆か、私に危険を知らせているのか。

 

 

 お兄ちゃんなら『エーテル』の波動で感情までも読み取れるんでしょうけど、生憎私にそんな技術はない。

 

 

 アディンの意識が奥深くで生きているということだけなら伝わったから、後でみんなにでも言うかしら。

 

 

 

 『ああ、それは違うのじゃ』

 

 

 

 ────なるほど、『賢者』のジジィってわけね。

 

 

 

 『その通りじゃな』

 

 

 

 で、何か用があるのよね?

 

 

 

 『うむ、すぐに『連』の魔人を儂の元へ連れてくるのじゃ』

 

 

 

 魔人じゃないわ、アディンよ。

 

 

 

 『承知した。………再度述べる、アディンを連れてくるのじゃ。そうせねば、こやつが大変なことになる』

 

 

 

 大変なことって?

 

 

 

 『言えん』

 

 

 

 わかったわ、いつまでに連れていけばいいかしら。

 

 

 

 『できるだけ早く、と言いたいところだが、そなた達も疲れているだろう。数日ならばまだ猶予はあるはずだ。最大で三日だけであれば『レガリス』で休息を取るのも問題ない』

 

 

 

 じゃあ、明日出発でいいかしら?

 

 

 

 『そうするといい。ソナタ等を休ませるのも、必要なことなのでな』

 

 

 

 何に必要なのよ。

 

 

 

 『戦力じゃよ。やって貰いたいことがあるのじゃ、出来るだけ万全の状態で来てほしいからのぉ』

 

 

 

 りょーかい、また洞窟で会いましょ。

 

 

 

 『洞窟ではなく隠れ家なのだがね、……まあいい、待っておるぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………今日は豪勢な食事にするかしら」

 

 

 

 

 

 

夢はリンカ、ジャスミン、アンナの順番です。ずっと重いもの後味が悪いと思いましたので、アンナを軽くしました。どうだったでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ